sister sistem -シスター システム-

菅田 隼

プロローグ

1.プロローグ

 1945年。第二次世界大戦が終結して間もなく、一つの大爆発によって世界は再び戦いの混沌へと突き落とされた。


 ソビエト連邦首都モスクワ付近で起きた大爆発は、地球に接近した彗星の破片が落下した事によって引き起こされたものと考えられた。この爆発による死者は数千人とも言われているが未だ正確な数字は分かっていない。

 なぜ正確な数字が分からないのか。それは、直後に爆発による被害とは別の災害が起こり、モスクワが壊滅したのが理由だ。

 爆発直後、モスクワとの連絡が途絶。その翌日には、調査隊が派遣されるも、その調査隊も誰一人として帰っては来なかった。航空機による偵察により、初めてモスクワ周辺の被害状況の報告がもたらされた時は、全ての人々がその状況を理解する事が出来なかった。


「人が、けものと化している」


 この言葉が、一番その状況を表すに相応しい言葉だった。

 すぐに、モスクワ周辺地域への派兵が決定されたが、派兵されたソビエト連邦軍兵士達は絶句した。彼らが見たものは、理性を失い、化け物じみた腕力を得て、四つん這いで駆け、人のものとは思えぬ強さで噛み付いてくる、正に獣に成り果てた人間の姿だった。

 獣化けものかした人間の皮膚には鉱石のような硬いうろこが貼り付いているのが特徴で、それらは、およそ人間とは言い難い、酷く醜い状態で武器も持たずに襲い掛かってくる。銃火器で攻撃しても大した効果は得られず、兵士達はほとんど抵抗も出来ないままに奴らの食い物にされた。


「あれは、人の形をした災厄だ」

 命からがら逃げ帰った兵士のその証言は世界に恐怖と混乱をもたらした。人間の獣化は何らかのウイルスや細菌に感染したものと考えられ、その事と彗星の破片による爆発には関連があると考えられた。彗星の破片に紛れて地球外からやってきたと思われるウイルスないし細菌、そしてそれに感染し獣化した人間の事は、以降「メルム」と呼称される事となる。


 彗星爆発から約一ヶ月後には、アメリカ合衆国によりメルム汚染地域への核攻撃が実行されるも効果は得られず。メルムの驚くべき生存能力を立証したに過ぎない結果となった。

 メルムは身体の殆どを吹き飛ばされようが生存し、硬い鱗のせいで爆弾や銃火器による攻撃にも強く、これに立ち向かうには人間は余りに非力であった。

 その年の十一月にはメルムはヨーロッパ地域へと侵入し、東ヨーロッパはメルムとの戦闘の最前線となった。十二月、押され続けるヨーロッパ戦線に、ついにイギリス軍が介入する事になる。しかも、投入されたのはただの軍隊ではない。激戦の東ヨーロッパ戦線に現れたのは、イギリスがこれまでひた隠しにしてきた秘密戦闘組織、歴史の裏に隠された存在であった「魔法使い」達で構成された戦闘部隊であるイギリス魔法軍であった。

 イギリス魔法軍は対メルムに関して有効性を示し、人類生存権をポーランド東部まで押し返す成果を上げた。これを契機として、世界各国は魔法使いによる対メルム戦闘組織を創設する事となった。


 その年の末には、ロシア地域はほとんど全てがメルムの支配下となり、東アジア地域へと南下を始めたメルムとの戦いが激化していく。メルムに対する有効戦力を持たない国は次々にその国土をメルムに侵食され、いよいよメルムが海を渡ろうという時点で、敗戦国日本に再び軍隊を組織する事が許可された。


 時の首相、神前博信かんざき ひろのぶは日本魔法界の頭領と名高い桃儀ももぎ家当主――桃儀 時子ときこに日本魔法軍の設立を打診。世界規模の未曾有の危機に、時子は重い腰を上げ、翌年三月、ついに設立された日本魔法軍は対馬まで上陸して来ていたメルムを退け、日本本土上陸の阻止に成功する。その勢いのまま、日本魔法軍は陸海軍と連携し大陸へ派兵、メルムへの反攻戦へと転じる。


 こうして、メルムと魔法使いによる長い戦いの火蓋は切って落とされた。それから六十年以上が経過しようとしている現在、未だメルムとの戦いに終わりは見えない。

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