ハロウィン(2回目)

※一つ前のハロウィンネタとは繋がっていません

※友人からハロウィンイラストをもらった喜びとテンションで妄想が止まらなくなりました

※近況報告にイラスト掲載してますのでぜひご覧くださいーー!!!!






◆◆◆◆◆◆◆





 金曜から始まった、各文具会社が集まっての新商品発売イベントは三日間。最終日が日曜で、そしてハロウィンと重なったという事で各社のブースでは仮装した社員が場を賑やかしている。それは晴香の会社も同じであるが、どのブースよりも客が集まっていた。

 試供品でグッズ詰め合わせのプレゼント企画をしている、からではない。どこのブースでも似た様な事をやっている。集客力の差、特に若い女性がやたらと多い理由はただ一つ。


「やっぱり客寄せパンダがすごいと人が集まりますね!」


 スマホのカメラを向けながら晴香がはしゃいだ声をあげれば、途端に鋭い視線が飛んでくる。


「誰が客寄せパンダだ」

「先輩と中条先輩が」


 葛城のブリザードに他の社員が軽く引く中、すっかり慣れきった晴香は気にもとめずにシャッターを切る。


「騎士な中条先輩と海賊な先輩とか五月先輩のチョイスが大正解ー!」

「日吉ちゃんなんかテンション高くない?」


 アニメや漫画に出てくる様な騎士の衣装に身を包んだ中条は、少なからず恥ずかしそうにしている。流石にこの年でこの格好は、と渋っていたが五月の命には逆らえなかったらしい。葛城も同じであり、こちはらド派手なカリブの海賊風の仮装である。正直葛城が大人しく仮装するとは思わなかったので、ここの同期三人でのヒエルラキーを晴香は痛感した。


「五月先輩の仮装も見たかったのに残念です」


 渋る葛城に「顔のイイ人間が客寄せしなくてどうするの!」と言い切って押し通した五月は、彼女自身も見目麗しい姿をしているが今回仮装はしていない。社長に付き添って各社のブースを巡っているので当然であるが、それはそれとして葛城は面白くない。


「アイツはわざわざ仮装しなくてもいつも化けてんだろ」


 一応仮装はしているが、喜んでそうしているわけではないので基本葛城の機嫌は最悪である。それでも客が近寄れば笑顔を浮かべ、新商品の説明をしつつあれこれ勧めて購入させているのだからこれまた流石の営業職だ。


「先輩の海賊服もすごく似合ってますよ! ガラの悪さと目付きの悪さが特にぴったり!」

「うるせえ」


 ガッ、と葛城の大きな掌が晴香の頭を掴む。晴香は慌ててその手を掴んだ。このままギリギリと万力の様に締め付けられるのがいつもの流れだ。地味に痛いのでどうにか阻止したい。そんな抵抗をみせる晴香の手から葛城はスマホを奪い取ると、そのまま勝手に写真のフォルダを開く。


「あーっ! ちょっと、先輩勝手に人のスマホ見ないでください!」

「大人しくブースの写真撮ってるだけじゃねえだろうとは思ってたけど……お前、また俺と中条の写真横流ししやがったな!?」

「先輩達のハロウィンコスとかレートが跳ね上がりですよ!」

「え待ってなにそれなんの話? 俺と葛城の写真売られてんの?」

「総務課とか他の課の子達に流すと美味しいおやつになってわたしに返ってくるんです」


 うっわ、と中条が苦笑する。葛城は苦虫を潰した顔をしたまま晴香の頭を掴んだ指に力を篭めた。


「あーっ!! いたい! 先輩ギブ……ギブです!!」


 ペシペシと葛城の手を叩いて降参を示す晴香に、ダメ押しの一撃を加えてから葛城は手を離す。晴香は薄らとだが涙目だ。


「それでも写真は消さない辺りお前らしいよな」


 横から聞こえた声に葛城はさらに不機嫌な顔をする。中条の声は小さかったので、痛みに苦しむ晴香はそれに気付かない。


「日吉ちゃんの衣装も可愛いよね。それ赤ずきん……ってわけでもない、か」


 二人に比べると地味ではあるが、晴香ももちろん仮装衣装に着替えている。一番若い奴が着替えないでどうする、と半ば無理矢理葛城に巻き込まれた。特段抵抗があるわけでもなかったので、晴香はノリよくそれに従っている。


「赤ずきん、の格好したオオカミ?」

「ついに野生に返ったか」

「ワーウフルです! 人狼!!」


 赤いフード付きのポンチョにワンピース、という姿だけならまさに赤ずきんであるが、晴香の頭の上には茶色の耳があり、そしてお尻の部分にも同じく茶色の尻尾が揺れている。両手と両足は着ぐるみ部分で覆われており、その姿はたしかに狼、と見えなくもない。


「野良犬」

「だからワーウルフですってば!」


 がう、と晴香は葛城に対して威嚇する。


「セクシーでキュートなデンジャラスビーストなんですから」


 ブハッ、と盛大に葛城が吹き出す。さらにはそこから数十秒ひたすら咳き込むものだから、晴香の頬はパンパンに膨れ上がる。


「……まあ、たしかにデンジャラスではあったな……」


 俺の腹筋に、とようやく落ち着いた葛城の感想に晴香は腹部へのパンチで応えたが、自分の拳が痛くなるだけだった。


「相変わらず鉄でも仕込んでるんですか!」

「はいはい悪かった悪かった、可愛くて危険な野生動物よく似合ってるよ」

「……先輩だって海賊とても似合ってます、っていうかそれきっと山賊でも似合ってますよねってもう賊そのものですよどうせバイクとか乗り回してたんでしょう!」

「そっちの族じゃねえしどうせってなんだどうせって!」

「先輩ならどっちの【ぞく】もお似合いですね!」

「その皮剥ぐぞこの野生動物」

「暴力反対! ちょっと騎士様助けてくださいよ!」


 そう言って晴香はクルリと中条の背中に回る。中条は先程から目の前で繰り広げられている漫才に笑いを堪えるのに必死だ。


「高値がつくといいね」

「まさかの裏切り!」


 中条は無情にも晴香を葛城に差し出す。


「お客さんも少し落ち着いてきたから、二人でちょっと休憩しておいでー」

「わ、わたしのことはお気になさらず、それこそ先輩達二人で先に」

「おー悪いな中条」


 晴香の腕はすでに葛城に掴まれている。逃げられない。


「あ、二人とも休憩いく? じゃあこれあげるよ」


 隣のブースから戻ってきた三課の課長が漫才の場に気付き、晴香のスカートのポケットにお菓子を詰め込んでいく。


「朝からずっと葛城君頑張ってくれたから、ゆっくりしてきていいからね」

「ありがとうございます」


 にこやかな葛城の横で晴香は必死に腕を抜こうと試みるが、さらに掴む力が強まり余計に逃げられない。


「なんだか獲物を捕まえた海賊みたいだねえ」

「肩に担いで運んだらまさに、ですよね」

「はは、客が引いたらそれしますか」

「しませんよ! ってかたす……助けてください!」


 晴香は本気で助けを求めているが、ハタから見ればただのいつものじゃれ合いにしかすぎないので誰も助けに入る事はなく、哀れワーウルフは海賊に捕獲され連れ去られて行った。

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