01. 入学早々

「〜でさー、そいつがー……」


僕は教室の左側に集まる騒がしい10人強程のグループに目を向けていた。


うるさ……。


そのグループが男女混合なのも妙にリア充臭くて鼻につく。


「マジかー!」


僕の心中などお構いなしにグループ内の彼らは大きな声で騒がしく笑う。


どうして入学してから二ヶ月ぐらいしか経っていないというのにあんなに心を開いて笑えるのだろうか。


僕はただひたすらに数学の宿題の問題集をノートに解き続けた。だから、目の前にプリントが配られた時も気がつかず、前の女子に咎められてしまった。


「おーい。プリント、回してくださーい。」

「あぁ。ごめん。」


軽く謝り、彼女からプリントを受け取る。後ろにプリントを渡そうと振り返るついでにまたグループの方を垣間見た。視線を前の方に戻すと、先程の女子がニコニコしながらこちらに体を向けていた。何か解らず作り笑いで返すのと、彼女が発言したのが同時だった。


「渡瀬君って…ふーん。」


嫌な予感がした。三秒程思考が停止した後、僕は彼女に問いかける。


「な、何ですか。」


元の向きに戻っていた彼女はもう一度後ろ向きに戻り、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、言った。


「……なんでしょ?」


ビシッと立てた親指をグループの方に向けてそのまま人差し指を重ねた。


そのポーズは俗に言う「きゅんです」……!?まさか、僕があのグループの中の女子を見ていたとでも言いたいのか?


「いやいやいや!違うから!?」

「何が違うんだい?」


彼女は言っている意味が解らないというような顔をこちらに向ける。


絶対その顔わざとだろ。


僕は口籠もった。ここで失態を犯せば逆に当たっているという事になってしまう。だからといってこのまま黙っているのもまずい。とにかくデタラメでもいいから何かを言おうと口を開く。


「別に……」

「渡瀬君、どの子だい?正直に言うんだ。」

「っ!?」


なんてことだ。まさか僕の声に被せてデバフを仕掛けてくるなんて。


「はぁっ!?だから違いますって!誤解です!」

「ふ、ふふふ。そんなに動揺しなくても。」


彼女は堪えきれなくなって吹き出した。


何なんだよ。ぼっちで陰キャだからって僕を笑いに来たのか?ちょっかいかけるならもうちょっとましな奴にすればいいのに何でまた僕なんかに……。


「もう……からかわないでくださいよ……」


すぐ恋バナに持っていきたがる……。これだから女子は苦手なんだ。


笑っている彼女とは裏腹に僕はそんな事を考えながら、恨みと恥ずかしさが入り混じった声で彼女にそう告げた。


「ひぇ……。」


彼女がそれを聞いて唐突に固まった。


もしや、今の言い方がキモかったか……?なんだかこの女子カースト上位っぽいもんな。あっ、僕のクラス人生終わった?


そんな風に考えると彼女の顔がいくらか引いたような目つきに変わっているような気もしてきた。


ちょっと待った。こんな風なネガティブ思考だから悪いんじゃないか?もしかしたら僕の後ろの席の人が急に史上最恐のヤンキーに変わっているかも。


そう思って僕は振り返る。後ろの席の人は……居なかった。今一度小さな希望を胸に、少しばかり周りを見渡すも、体を元の位置に戻すと彼女が居ない。


「……。」


僕の希望は砕け散った。


やっぱり僕のキモさに引いたのかよー!!

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