侵入者
@kitaharam
侵入者
「すみません!帰ってください!」
ここは、郊外の大きな一軒家。目の前に拳銃を突きつけられたその初老の男は、必死になって相手に懇願した。
「だめだね。俺は、物をいただきに来たんだ。さあ大人しくしな」
「ま、待ってください、ここには、盗む価値のある物は何もありません」
強盗は、震える男を下目に見ながら、ふん、と鼻をならした。
「しらばっくれても無駄だぜ、じいさん。あんたは骨董品やらなんやらを集めているんだろう。金目の物は、たっぷりと持っているはずだ」
彼は、数週間前からこの家に目をつけていた。この家の主人の男は、数年前に妻を亡くして、現在は一人暮らし。かなりの金持ちで、美術品の収集が趣味だという噂だった。
「まさか、こんなことが起こるなんて……」
信じられないといった表情で、がくりとうなだれている。強盗は、笑いながら男に喋りかけた。
「運が悪かったな、じいさんよ。まあ、潔くあきらめてしまえ。一人暮らしで、しかも、自分のコレクションをベラベラと他人に自慢していたなら、目をつけられても仕方がないさ。盗んでくださいと言っているようなものだ」
男は、両手を合わせて頼み込んだ。
「お願いします、家の中は好きに見て構いません。だから、私だけは解放してくれませんか。決して、警察には知らせませんから」
「何を言う。そんなこと、信じられるもんか。大人しく眠ってろ」
そう言うと、強盗は、男の頭を銃の背で思いきりひっぱたいた。かなりの衝撃。男は、バッタリと気絶してしまった。
捜索に取り掛かる。しばらくして、強盗は声を上げた。
「や、これはどういうことだ。誤魔化しているだけだと思ったが、本当に何もない」
棚の上や机、そして物置きなどにも、あるはずの高価な骨董品のたぐいは、全く見当たらなかった。こんなはずはない。彼は、もう一度、家中を隈なく探したが、男の言った通り、値打ちのありそうな物は何一つ見つからなかった。予想だにしていなかった事態だ。困惑していると、突然にサイレンの音。
「まさか。なぜ警察に気づかれた」
しかし、今はそんなことを考えている暇はなかった。窓の外には、すでに何人もの警官たちが、辺りをとり囲んでいる。
絶望的な状況だったが、強盗はまだ、最後の望みを捨てたわけではなかった。床にのびている彼に、ちらりと目をやる。この家の主人の男。こいつを人質にして逃げるしかない。
「おい、起きろ、じいさん」
男は、まだ意識が朦朧としているようだった。だが、外のサイレンの音を聞くと、みるみる顔を青くした。
「ああ、とうとう警察が来たな。もう終わりだ」
「なんだって、それはどういうことだ」
男は、ぶつぶつと自嘲めいた言葉をもらした。
「私は、この家に泥棒に入っていたんだ。用意しておいた車に、目ぼしいものを一通り運んだ後、証拠になりそうな指紋やらを消しておこうと戻ったら、お前さんに出くわしたというわけさ。通報は、おそらく、私の車を見たこの家の住人がしたんだろう。ああ、まったく、とんだ不運に見舞われたもんだ」
侵入者 @kitaharam
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます