【第一章】マタタビになった旦那様①
「神の
エメラリアは、もうまもなく自身の夫となる男性にそう告げた。
そこに私情などはなかった。単純に神への
……だが、彼は
いったい、どうして。
正面を向いたあと横顔を
ただ、その行動が花束の下に
きっと、このときが初めてだったと思う。
彼の心根を
〇 〇 〇
エメラリアの
夫となった人の名前は、アリステア・ロイズ=グレンハーク。
正直、エメラリアにはもったいないくらいの相手である。
というのも、彼は若くして
エメラリアもアリステアとは
運動神経はもとより、相手への
……と。いわば、
しかし、
それは、式を挙げた夜に
「エメラリア」
「何でしょうか? 旦那様」
「結婚早々申し訳ないが、
「はい。
「早朝に
「はい。そういたします」
「お前も
「はい。お気遣いありがとうございます。おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ」
このいささか
ともあれ結婚した以上は、彼のような立派な人の妻らしく、自分の役目をしっかりと果たすつもりでいた。万が一にでも、自分が原因で彼が
アリステアが出立する日も、早朝だろうが真夜中だろうが本当は起きて見送るつもりだった。夫の出仕時には、ちゃんと見送るものだと母が言っていたから。
しかし、理想と現実は別物。彼の気遣いは正しかった。
結局その日、エメラリアは太陽が
結果、今日までの二十日間ほどの時間を、エメラリアは当主不在の侯爵
今は、
「この手紙によると、明日には
「だいたい発たれた日におっしゃっていた通りですから、無事に終わったようですね。ようございました」
「ええ」
(雨に降られることもなさそう。よかった)
外の
手紙に書かれている内容はそう多くはなかった。定型的な文章から始まり、特筆すべき内容が記されているだけだ。けれど、中にはエメラリアに
(本当に
彼のこういう
「私、旦那様のためにも努力するわ」
すべて読み終えたエメラリアはそう意気込み、手紙を机にある箱へしまう。
「だから、ジャディス、今日もよろしくお願いね」
「はい。もちろんです。奥様」
エメラリアがそう言うと、ジャディスは数冊の本を
侯爵家は名家なだけあって、相応の記録が書物として残っている。それらを勉強するのがエメラリアの日課となっていた。長年侯爵家に仕えているジャディスは良き先生だ。
結婚してもその姿勢が変わらないエメラリアは、ジャディスの教えることをどんどん吸収した。
すべてよかれと判断してやったことで、他意などない。
だから、その勤勉さがあらぬ誤解を生むとは、想像もしていなかった……。
「奥様は旦那様が大好きで、
使用人たちが熱心にそう
(噂には
彼らからすれば、エメラリアは
(私が旦那様を、好き……?)
心の中で
確かにアリステアは尊敬できる人であることに
思い出すのは、彼に向かうキラキラと輝きに満ちた
それを恋だと呼ぶのなら、どう
浮き立つ使用人たちには申し訳ないが、アリステアが帰ってきたところで、期待にそえるような展開にはならないだろう。
──そう、思っていた。いや、間違いなく断言できたはずだ。
エメラリアは、ぎゅうとアリステアの背へ回した
「エ、エメラリア……」
頭上から彼の
(
ぼんやりとした頭の
けれど、なぜか
(彼を……エントランスホールで
それでも、どうにか理性を総動員し、この理解しがたい
しかし彼に目を留めた
抱きつかれたアリステアはといえば、エメラリアの名前を呼んでから無言を
「だ、
このままでは
指通りの良さそうな
そこから
余計なものを
エメラリアの瞳いっぱいに映った彼のすべてが輝き、目が離せなくなった。
心臓はもう無視できないほど音を立てて、どうにかなってしまいそうだ。
けれど同時に、不思議と
エメラリアは、無意識にすりっとアリステアに
(離れたくない……私、この方が好き…………………………、え?)
どこからともなく自然と
言葉の意味を理解した途端、混乱は最高潮に達する。
(すッ──好き!? ど、どうして!?)
これではまるで侍女たちが噂するように、彼に恋をしているようではないか。
(で、でも、ほんとうに、彼のそばにいたくて、たまらなくて……、うぅ……そんな、突然……どうしてなの……)
エメラリアは半泣きになりながら、ただただ気絶しないよう気を保つので精いっぱいで、まさかその原因がアリステアのほうにあるとは、知る
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