桃太郎……だよね? ~狂気の昔ばなしシリーズ~

小林勤務

第1話

 昔、昔、あるところにおじいさんとおばあさんと、後藤が住んでいました。


 後藤は将来りっぱなプロレスラーになることを夢みていました。

 すでに体重は102キロ。

 自ら、ファイティングスピリット後藤と名乗っている春を知らない童でした。


 ある――千年に一度の惑星直列が差し迫った――日、おじいさんは山へキノコ狩りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。


 後藤は、おばあさんの後を追い、川に遊びにきている露出度高めなおてんば娘の谷間を拝もうと、草むらに隠れました。すると、大きな桃が流れてきました。


 どんぶらこ~、Don't Love you~

 どんぶらこ~、Don't Love you~――


「なんと大きな桃だこと。当面、食費が浮いたわ」


 おばあさんがそう思うのは無理もありません。最近、不景気のあおりを受けて、おじいさんは居酒屋を解雇されていました。そのため、おじいさんはお隣の田吾作さんの赤松岳から松茸をくすねて闇で売りさばくために、キノコ狩りに行かざるえなくなっていたのです。


 ですが、大きな桃と同じくらい豊満なおてんば娘にカッコいいところを見せたい後藤は、あろうことか大きな桃に強烈なエルボーをくらわせて、遥か彼方まで吹き飛ばしてしまいました。


 きらんと空に輝く大きな桃。


 吹き飛ばされた大きな桃は、東の都、宮中の窓を突き破り、そのまま蹴鞠を楽しんでいたお公家さまの上に落下しました。


 見るも無残な真っ赤な牡丹が、枯山水に咲きました。


 予期せぬ無差別攻撃に脅威を感じたお公家さまは、自分たちの非力さを嘆きました。そして禁じ手ともいえる、鬼ヶ島に住む鬼たちと手をとり、犯人を討伐することにしたのです。


 当時、鬼たちは次々と村を襲い、金品食料を強奪し、人々を捕らえては人身売買に手を染めるなど非道の限りを尽くしていました。しかし、そんな大悪党は征伐されるのではなく、お役所公認の正規軍扱いになり、その非道さに拍車がかかりました。


 むせ返るような血と錆の匂い。国中に死の雨がふります。


「こうなりゃ、西海岸うぇうすとこーすとのひっぷほっぷをガンガンに流して、夜通し踊り明かすしかねえべや!」「んだ、んだ」「びーとにのるしかねえっぺ!」


 人々の怨嗟の声とひっぷほっぷの重低音が渦巻き、昼夜問わず、その強大な力が大和の国を覆っていきました。


 こんな原因を作ってしまった後藤は心を入れ替えました。護摩行、滝行、あらゆる修行により、頭のなかに浮かんでは消える――

 おっぱいおしり

 おっぱいおしり

 おしりおっぱい――こうした煩悩を捨てさることに成功しました。


 しかし、あまりに過酷な修行のため、風邪のようなものに罹ってしまいました。当時、この病は治す薬はなく、一度罹ると死に直結する恐ろしい病でした。


 三日三晩うなされて、最後は体中に黒い斑点が浮かび上がり、とうとう帰らぬ人になりました。


 このままでは、この村は鬼たちによって蹂躙されてしまう。おじいさんとおばあさんは、まず自らの身体を鍛えることにしました。


 腹筋、背筋などを繰り返し、極限まで筋肉を痛めつけました。食事は雉の胸肉、卵の白身などタンパク質を中心に摂取しました。その結果、なんと二人は体脂肪率1ぱーせんと未満という驚異的な肉体を手に入れることに成功しました。


 そして、山にこしらえた修行場で三人の仲間と出会いました。


 彼らは皆、脛に傷を負うものばかりであり、本名は名乗らず、イヌ、キジ、サルという偽名をつかっていました。最初は戸惑っていたおじいさんとおばあさんも、自分たちにも本名が無いことが判明すると、急速に絆は深まっていきました。

 一緒にお賽銭をくすねたり、恋バナに花を咲かせたり、トンボを追いかける青い季節は過ぎていきました。


 そんな彼らの幸福は長くは続きません。


「大変だ! とうとう鬼がやってきたぞ!」


 村に鬼の軍団がやってきたのです。


 待ってましたとばかりに、おじいさん、おばあさん、イヌ、キジ、サルが立ちはだかります。


 しかし――次の瞬間。鬼が放った棍棒がサルの頭を直撃し、脳漿をぶちまけてあっという間に即死。続けざまに、鬼が放った矢がイヌをめった刺し。逃げ遅れたキジは捕まえられ、喉にジョーロを突っ込まれて、大量の日本酒を流し込まれて溺死してしまいます。


 鈍く光る武器をもつ鬼たちに取り囲まれたおじいさん、おばあさん。これでは、鍛え上げられた自慢の筋肉も意味を成しません。大胸筋が虚しく痙攣して、絶望が村中に漂いました。


 そのとき――空が爛れたように真っ赤に染まりました。


 そうです、千年に一度の惑星直列が起きたのです。


 大地は揺れ、嵐が起き、山は燃える。


 ドドドドドドドドド――という地球の鼓動は、

 やがて、ドゥクドゥクドゥクドゥク――という村人が夜通しかけた西海岸うぇうすとこーすとのひっぷほっぷの重低音と重なり、ひとつの奇跡が起きました。


 なんと、死んだはずの後藤が甦ったのです。

 まさに、ファイティングスピリット後藤として生まれ変わった入場曲にぴったりの演出でした。


 後藤は、その腐った体から強烈な酸を吐き出して鬼たちの武器を溶かすと、続けざまにジャーマンスープレックス、袈裟固め、バックドロップをきめていきます。


 ぼきぼきと骨が折れ、断末魔の悲鳴をあげる鬼たち。


「村人に悪いことするなら、ぼくが相手だ」


「ゆ、許してくれ、参った」


だけか?」


 ごくりと唾を呑み込み、後藤の欲する意味を理解した鬼たちは、ある提案をします。


 鬼たちは人々から奪った金銀財宝をすべて後藤に献上しました。その代わりといってはなんですが、鬼たちはお公家さまに代わり、今度は後藤の庇護を求めました。輝く財宝に、後藤のこころが揺れ動きます。プロレスラーへの夢もお金の魔力には逆らえません。力より金のほうが強いことを知ってしまったからです。


 こうして、そのお金で秘密結社GOTOHELLを結成。その手下として鬼たちを利用することで、大和の政治、経済を牛耳ることに成功しました。この国は人ならざる者が支配する地獄へと変貌したのです。これが、以後、千年を覆う闇の始まりとなりました。


 彼の横には、あの日、羨ましく眺めていた、おてんば娘たちがいつまでも側にいましたとさ。



 おしまい、Oh Shit Mine

 おしまい、Oh Shit Mine



 了



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