第14話 続・澄子の舞台

 ―成人期―

 

 東京では、飲食店や製菓工場でアルバイトをしながら大学生活を送っていたが、20歳を過ぎた頃から、極楽浄土の夢を見るようになった。あの、ポンコツの菩薩の爺さんが枕元に立っては、何かを呟いて帰る。


「欲を出すな」とか「良心を失くすな」と。


 澄子は、善ポイントが全く貯まっていないことに不安を覚えるようになった。今回の転生はそう悪いものではないが、次はどうなるか分からない。あの世のシステムを知った以上、地獄行きの切符を渡される可能性だってゼロではない。とにかく、良いことをしなければ。偽善だろうと、良い人アピールをしなければ始まらない。


 澄子はアルバイトを介護職に変え、そこで出会った独居老人に親切の限りを尽くした。


 奇妙なことに、人と人の縁とはどこで繋がっているか分からないもので、市営住宅住まいの独居老人の元に、日本で指折りの上場企業の御曹司が現れたではないか。このホールディングスの総資産はブレイクリーにも匹敵するほどの本物の億万長者だ。


 さすがの澄子も、この御曹司とお近づきになれれば。と、頭を掠めたが、菩薩の「欲を出すな」という声がそれを打ち消した。金では永久ビザは買えない。例え、この世で贅沢三昧したところで、僅か数十年の寿命。あの世での永久ビザに比べれば千円の価値もない。澄子は金欲を払拭した。


 ところが、この御曹司。運命の定めた相手だったのか、再び澄子の前に現れた。


 劉生の勧めで、パーティーコンパニオンをしたのだが、そのパーティーの主役がこの御曹司であった。御曹司、善財良一は、自分の背景に見向きもしなかった、田舎の素朴で純粋な娘を大層気に入ったようで、劉生も交えて交流が始まった。澄子が善財家の資産に魅力を感じなかったのは事実だ。だが、名門家に産まれた苦悩を知る澄子は、良一の金持ちらしからぬ謙虚さや庶民的な立ち居振る舞いに惹かれた。


 良一との、見栄も打算もない純粋な交際から三年が経ち、澄子はプロポーズを受けた。もちろん、断る理由は無い。必然的に超大金持ちにはなるが、それは副産物でしかない。澄子は良一の伴侶となり、財閥のトップとなる重圧から良一を守りたいと思った。


 ところが、その澄子の望みには、立ちはだかる障壁が出現した。善財家の両親である。


 良一の父母は、一文の得にもならない田舎の娘を嫌った。


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