一枚の葉書
葵染 理恵
第1話
「皆さん、こんにちは。植村 桃子のアフタヌーンティーのお時間です。いつもなら【本日の紅茶】を紹介していますが、今日は紅茶ではなく、スペシャルゲストをご紹介します!小説家の林 巧(はやしたくみ)先生です」
「あ…どうも林 巧です」
初めてのラジオ出演で、緊張をしている林は、置き型マイクを掴んで挨拶をした。
すると、マイクのコードが引っ張られて、線が外れそうになった。
「あぁ先生、マイクは置いたままで大丈夫ですよ」
林は照れ笑いで誤魔化すと、つられて、植村も微笑んだ。
「では、林先生の簡単なプロフィールを紹介します。林 巧先生は三十六歳の時に書いた【永遠の愛】で、デビューをしてから【山茶花】【子羊たちの観覧車】など数多くのヒット作を生み出した偉才な小説家です」
「いえ、とんでもない」
「そんな御謙遜を。デビュー作の【永遠の愛】は、大人気シリーズで、もうすぐ映画も公開されるじゃありませんか」
「あっ、はい皆様のお陰です」
「かくいう、私も林先生の大ファンで、全て読ませて頂いてます」
「それはそれは、ありがとうございます」
と、言うと、深々と頭を下げる。
ゴン!!
林は、勢い余って、置き型マイクに、広がった額を強打した。
「痛っ!」
「大丈夫ですか?!」
「あははは、すみません」
と、言いながら、額を擦る。
「リスナーさん達は、何が起きているのか分からないですよね。取りあえず、お茶目な事が起きたと、お伝えします」
と、言って、四十半ばの植村は、上品な声で笑った。
そこへ、リスナーからファックスが届いた。
「早速、ファックスが届きましたよ。ラジオネーム・涼介大好きさんからです。
(私も永遠の愛が大好きで、全て読みました。映画化も凄く楽しみなんですが、どうしてTVじゃなくコミュニティ番組に出演しようと思ったんですか?TVの方が宣伝になりますよね?疑問に思っただけで、私にとっては、嬉しいサプライズです。映画、必ず見に行きます!)
涼介大好きさん、ありがとうごさいます。これは私も同意見です。林先生、是非、教えて下さい」
「えーと、理由は2つありまして…1つ目は、五十過ぎのおじさんが、ガチガチな姿で、説明しても興味を持ってもらえないと思うからです。2つ目は、私も毎週【植村桃子のアフタヌーンティー】を訊いていて、大好きだからです」
「まあ嬉しい!ありがとうごさいます。あの、私も気になる事を訊いても、よろしいですか?」
「はい、勿論」
「永遠の愛は、どのようにして生まれたのですか?」
「それは、一枚の葉書です」
「葉書…ですか」
「まだ小さなアパートで執筆をしてた時です。玄関のポストから、カタンと音がしたので、手紙か何かかな?と、思って見に行くと、一枚の葉書が入っていました。その葉書は、錆や砂埃が付いていて、もう白とは言えない色になっていました。宛名と差出人を見ると、宛名が【斎藤涼介】で、差出人が【井口さくら】と書いてありました」
「斎藤涼介と井口さくら!」
植村は、目を丸くして驚いた。
「永遠の愛の主人公たちと同じ名前!」
「そうです。敢えてそうしました」
興味津々で訊いている植村に向かって、ディレクターが、曲を入れろ!と、合図していた。植村は渋々、手元にある葉書を、手に取った。
「凄く興味深いお話の途中ですが、ここでリクエスト曲を訊いてください。田辺みくさんで【レッドムーンナイト】です。どうぞ」
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