第6話 可能性を喰らいつくす魔剣
「アスカ、この剣は具体的にどんなものなんだ? まだまだ駆け出しである俺の力を魔王に勝てるくらいまでに引き出してくれたけど?」
そう、『引き出した』。
シャーレの魔法を打ち破り、組み伏せた力は剣から貰ったわけではない。
俺の中にある力を極限まで引き出されたかのようなものだった。
この問いに、ここまでおちゃらけていたアスカは神妙な面持ちを見せる。
「実は……」
「ごくり、実は……なんだ?」
「ワシも具体的には知らん!」
「おい!!」
「だって~、仕方なかろう、逃亡前に嫌がらせで盗んで……ゴホン、危険な道具故にワシが保護を――」
「嘘つけ! 思いっきり盗んだって言ってるだろ! それに知らない道具なのになんで危険だなんてわかるんだよ!?」
「クッ、下らん正論ばかりほざきよってからに」
「下らなくねぇよ! ド真ん中、ド直球の正論だろうが!」
「ホント、ワシには辛辣じゃの~。シャーレには気を使う癖にのぅ」
すると、旅から帰ってきたシャーレがササっと入り込む。
「私は特別なの? フォルス?」
「え? それはですね……まぁ、そのようなものです」
怖いから……とは言えないので言葉を濁す。
「そうなんだ。ぬふふ、やっぱりあなたは私の運命の人」
「気を使っただけで運命の人は飛躍しすぎだと思うんだけど……もう、そこに触れても仕方がないか。話を戻そう。それで結局、アスカはこの剣に関して何も知らないの?」
「いや、大雑把にはわかっとるぞ」
「それは?」
「
「ヤバいことって?」
「知らん」
「知らないのか……そのヤバイことになりそうな剣を持ち出してよかったの?」
「元々はミュールが破壊を頼まれていたらしいが、それをワシが盗、預かったのじゃ」
「ミュールって人から盗み出したわけね」
「預かったのじゃ! 保護したのじゃ!」
「わかったわかった。で、他に情報は?」
「
「可能性?」
「そうじゃ」
ここでアスカはまたもや神妙な面持ちを見せる。またくだらないギャグでもやるのかと思いきや、彼女は
――アスカによる
これは使い手の可能性を喰らう剣じゃ。
使い手が未来に
今回、フォルスが使って見せた力は魔王シャーレを凌駕する可能性の力というわけじゃ。
じゃが、これには代償がある。
前借りした力――その可能性は剣に食われて失われてしまう。
つまり、剣の使用を続ければ、やがてはあらゆる可能性が失われて廃人と化すか、フォルスの存在する可能性すらも喰われ世界から消えてしまうかもしれないのじゃ。
――
「可能性と存在を奪う剣。まさに、使い手の時を滅ぼす剣というわけじゃな!」
「何が、じゃな! だよ! 呪いの魔剣じゃねぇか!!」
「大丈夫、使い方次第じゃ」
「軽く言ってくれるなよ! 俺は魔王シャーレを超える可能性を前借りしたってわけだろ? ってことは、これからどんなに努力してもシャーレを上回ることはないってことじゃん!」
「それはちょいと違うぞ」
「はい?」
「人の可能性は底知れぬ。その底知れぬ中には魔王シャーレを超える可能性がいくつも含まれる。仮に魔王シャーレを上回る可能性が百万あったとすれば、今回はその一つを使用したに過ぎん」
「百万ねぇ。そりゃあ、百万もあれば嬉しいけど。でも、もし十しかなかったら、残り九個しかないってことだろ?」
「そこらへんは大雑把にわかるぞ」
「また大雑把かよ。で、どうやって?」
「剣の
アスカに促されて剣の鍔の部分を見る。
そこには黄金色の金属で装飾された小さな時計が埋め込まれてあった。
時計の数字は見たことがないもの。ほとんどが直線で表記されているが、ねじ曲がった文字もあり全く読めない。
数字らしき大きな文字が十二あるので、この時計は俺たちの世界と同じ十二進法のようだ。
また、長針と短針があり、秒針らしきものもある。
これらから読み解くと、長針の一周は十二時間。短針の一周は六十分・秒針の一周は六十秒なのだろう。
長針・短針ともに頂点を差しており動いていない。だけど、秒針だけは一秒の時を刻んでいた。
「一秒、進んでる?」
「おそらく、今回使用した可能性は一秒分程度だったということじゃろ」
「なるほど。それじゃあ、可能性を完全に使い切った場合、短針が一周して戻ってくるとか?」
「おそらくな」
「おそらくばっかりだな。ということは、針から計算してシャーレを超える可能性は、え~っと、十二時間を秒で計算すると43200秒。そこから一秒引くから43199回残ってるってことかな?」
「ほお、思ったより賢いの」
「親父が元学者だからこれくらいの計算は」
「そうか、限界集落出身の割には恵まれておるな」
「限界集落は余計だってのっ」
「じゃがな、そう単純な計算ではないと思うぞ」
「へ?」
「おそらく、これは可能性の回数ではなく、強さや量などに反応して秒針が進んでおるのかもな」
「また、おそらくかよ。ともかく、あまり使用しないように気をつけないと。廃人はごめんだし」
「そう心配せずとも、おぬし自身が強くなれば良いだけじゃ」
「ホントに軽く言ってくれるな。俺がこれから先、強くなるかもわからないのに」
そう言葉を返すと、アスカは口角の端を上げて不敵な笑みを浮かべる。
「フフ、何を言う。魔王シャーレを組み伏せる力の可能性を使用しながら秒針の針を一つ動かした程度。つまりこれは、おぬしにはより深い可能性があるという証明であろう」
「え?」
「それにな、ワシは才のある者にしか声を掛けておらん。才無き者がその剣を振るえばあっという間に可能性を喰らいつくされてしまうからな。ワシも体力が回復したいだけで廃人を生みたいとは思っておらんし」
「廃人になる可能性がある剣を渡しただけでも酷いと思うが……まぁ、それなりに見込まれて――あれ? お前、俺のあとに木こりのおじさんに話しかけてなかった?」
「ワシの見立てでは、あやつが斧を置き、武道家の道を歩めば世界最強になる可能性があったからな」
「マジかよ!?」
「マジじゃ」
アスカはぺったんな胸を張り、両手を腰に置いてふんぞり返っている。その姿に不安を覚えた俺は木こりのおじさんがいる村へ疑いの目を向けた。
すると、アスカは大きなため息を漏らしシャーレへ声を掛ける。
「はぁ~、疑り深い奴じゃの~。仕方ない。シャーレよ、おぬしの見立てはどうじゃ? フォルスは強くなると思うか? これについては曇り無き
言葉を受け取ったシャーレは少し戸惑いを見せたが、すぐに艶かな黒水晶の瞳を俺に向けて、突き刺すような視線で見つめてきた。
そして――
「今は……うん。でも、とても大きな卵。途轍もない可能性を秘めていると思う」
「ということじゃ、フォルスよ。努力次第でおぬしは大きく成長するじゃろう。これは神なる龍の言葉と魔族の王たる者の言葉ぞ。不満か?」
「いや、十分だ。でも、俺自身そんな手応えは今のところ感じないんだけどなぁ」
「何を言っておるんじゃ? おぬしは自分の可能性を信じて旅に出ようとしているのではないか? 勇者を目指しておるんじゃろ?」
「……そうだな。たしかにその通りだ。期待を向けられて気後れしている場合じゃない。二人の期待に応えられるように頑張るよ」
俺は右拳をグッと握り締めて、それを見つめる。
今は
だけど、すぐにでも追いつき、追い越して見せる!
そうじゃないと――。
「ククク、よいのよいの~。若い肉の成長はいつ見ても楽しいの~。どれ、遊んで、もとい、成長に手を貸してやらねばな。ククククク」
「ぬふふ、フォルスをずっと見守る。でも、見守るだけじゃ足りない。愛する人を支える。いえ、いっそのこと押し倒して繋がり合い……ダメ、無理やりは。でもでも、ぬふふふ」
この二人から何をされるかわからないから……。
こんな俺の気苦労も知らず、アスカとシャーレは俺を見つめ声を掛けてくる。
「とにかく、よろしくなのじゃ。フォルス!」
「フォルスの力になれるように、ずっとずっと近くで見守ってあげるね」
二人から見つめられる――その瞬間、俺の心にザワリとした不快感が走る。
(え!?)
二人は俺を見ている……はず?
それなのに、どこか別の誰かを見ているような視線。
返答を返さず固まった俺を心配そうに二人は尋ねてくる。
「おや、どうしたのじゃ?」
「フォルス?」
「え、いや、なんでもない。ふたりともよろしくな……」
二人から先ほど感じた奇妙な視線は消えている。今のは何だったんだろう?
俺じゃない誰かを見つめる視線……気のせいだろうか?
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