第5話 異界の龍にして神
服の隙間から見えるのは左右の胸によって生まれた一筋の溝。ドレスの上からはわかりにくかったが、意外と大きくて――
(って、何を見てんだよ、俺は――ん?)
胸より少し上の部分に、青い宝石が複数埋まっている。
それらは鳥の翼のような形を表す。
一体何だろうか?
それに興味を惹かれ、瞳は止まってしまう。
この視線に気づいたシャーレは顔から火を噴いて、アスカがジャンプして頭をどついてきた。
「そ、そんなにじっと見ないでっ。恥ずかしいから……」
「このエロガキ! がっつきすぎじゃろ!」
「いった! 違うわ! いや、ちょっとはそうだけど。じゃなくて! 胸元にある宝石が気になったから、つい……」
「宝石じゃと?」
アスカもシャーレの胸元へ黄金の瞳を振る。
「ほう、これは珍妙な。魔導の力でも機械でもない。何とも不可思議で強力な力が秘められていると見える」
アスカの疑問の声なのに、なぜかシャーレは彼女へ顔を向けず、両手で胸元の隙間を隠し、宝石部分だけを俺に見せて答える。
「肉体に宿る宝石は魔族である象徴。レペアトの力が宿るファワード」
「ファワード? そういえば、魔族は体のどこかに宝石がついてるって話を聞いてたな。今まで出会ったことがないから初めて見るよ。みんな、シャーレのファワードみたいに鳥の翼の形をした宝石がついてるの?」
「いえ、通常は体のどこかに石が一つか二つあるくらい。だけど、私の一族であるグラフィー家はレペアトを守護する末裔だったため、時折、私のような強力なフォワードを無数宿した者が生まれるの」
「それじゃあ、シャーレはレペアトの守護の力を受け継いでいるから魔王に?」
「そう、だからこそ私が魔王たる
吹き出す黒の風。
「落ち着いて! それで、レペアトの守護ってどんなことしてたの?」
「さぁ、あまりにも昔の話なので詳しくは伝わってないの」
「そうなんだ。なんにせよ不思議な力だね」
「うん……変じゃない?」
「いや、綺麗だと思うよ」
「綺麗!? そんな……まっすぐ伝えられると……」
顔を両手で覆って体をくねらせるシャーレ。
そんな俺たちのやり取りを見ていたアスカがやさぐれな声を生む。
「ワシが質問したんじゃが……しかも、二人の世界に入り込んで無視とはなんちゅー奴らじゃ」
「別に無視したわけじゃ。で、元はなんの話だっけ?」
「自己紹介じゃろ! ワシには興味なしか!? さすがのワシも傷つくぞ!!」
「ああ、ごめんごめん。だけど、まともに話を聞いてるとすぐに脱線しそうなんだよな。さっきもすぐに脱線したし」
「あれはいたずらな風が悪いのじゃ」
「いや、パンツ履いてないお前に問題が……ともかく、これ以上脱線しないように、地面に質問内容を箇条書きするから、これに答えてくれるか?」
「ひっどい手抜きじゃの!」
と、アスカは不満に唾を飛ばすがそれを無視して、近くに落ちていた枝で質問を地面に書いた。愚痴を漏らしながらもアスカはそれらに答えていく。
Q1・何者なの?
A・異世界からやって来たかわゆい龍なのじゃ!
Q2・何しに来たの?
A・ワシをいじめる悪い奴から逃げるためにここへやって来たのじゃ。その際、悪い奴が預かってた
Q3・どうやってやってきたの?
A・ワームホールを移動中に空間の亀裂を見つけてな。そこに飛び込んだらこの世界があったというわけじゃ。ワームホール内はセンサー類への干渉が激しく、探査が難しいから隠れるにはもってこいというわけなのじゃ。
ここで一旦、アスカに関する質問を切って別のことを尋ねる。
「わーむほーるって、なに?」
「遠く離れた二つの場所を直結するトンネルじゃな。宇宙中にこれが張り巡らされており、高度な文明を持つ者たちや神と呼ばれる超越者たちはこれを利用して移動しとるんじゃよ。因みに移動途中で止まるのは結構大変でな。ワシクラスの神でないとできん」
「う~ん、ごめん。説明されてもよくわからないや。質問を続けるね」
Q4・契約とは?
A・来たはいいが、この世界レントとやらの魔力形式がワシの居たところと違って、まったくもって力の
Q5・具体的な充填方法は?
A.フォルスの魔力の一部をワシに分けてもらうのじゃ。もちろん、戦いに支障が出ない程度にな。あとはおぬしが強くなればなるほど、その供給量が大きくなるので頑張って強くなってほしいのじゃ。これにはワシも協力するからな。
Q6・力を充填してどうするの?
A・もっと力の充填しやすい隠れ家を探すのじゃ。つまり、力を蓄えて、別の世界へ渡る橋を生む予定じゃ。
Q7・契約特典とは?
A・複数あるが、今のところフォルスに手渡した
これに俺がツッコミを入れる。
「特典内容は行き当たりばったりかよ!」
「やかましいのぉ。ワシはこう見えても神じゃぞ。そばにおるだけでも霊験あらたかっちゅうもんじゃろが!」
「神? 龍じゃなかったっけ?」
「神の名を持つ龍なのじゃ。ま、そこらへんはまた後でな」
「はぁ? まぁいいや。まとめると、なんかから追われてここへ逃げ込んできた。ついでに剣を盗んできた。でも、力が回復できない。そこで俺を利用して回復に努めていると?」
「端的に言えばそうじゃな。盗んだは語弊じゃが」
「そこは語弊じゃないだろ……いまいち掴みどころない存在だけど、とりあえず敵意や悪意はなさそうだしいいか。一応、命の恩人だし」
アスカの話が一段落する。
その間合いを見計らい、シャーレが俺の腰に提げてある
「フォルス様が腰に提げている剣は一体、何?」
「あ、そうだ、剣のことがあった。アスカのでたらめな印象が大きすぎて忘れるところだった」
「失礼な奴め。誰がでたらめじゃ!!」
「いや、でたらめそのものだろ。あと、シャーレ」
「なに?」
「『様』は余計だよ。フォルスで構わない」
「え……呼び捨てでいいの?」
「ああ、もちろん。様なんて敬称は俺には似合わ――」
「そうよね、恋人なんですもの。距離があるのはおかしいし」
「いや、そういう意味じゃ……」
「フォルス……ぬふふ、フォルス……ぬふふふふふ。フォルス。なんだいシャーレ? なんて、ぬふふふふふふふ」
シャーレはぬふふ声と共に自分の世界へ旅立ってしまった。しばらく戻ってくる気配はない。
というわけで彼女のことはさておき、俺は剣のことをアスカに尋ねる。
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