第281話

「姫はいつも、難問を持ってこられる。困ったものです」


 サキノアは腕を組み、眉間に皺を寄せていたが、目は笑っていた。答えはもう決まっているのだ。

 帝都に連れてこられたうちの一人、スノックに関しては、主犯でもあり、すでに好々爺とした老人でもあるので、今のままでも構わない。しかし、主要人物ではあっても、主犯ではないダインの処遇に関しては、今のままが最善だとはサキノアも思ってはいないようだ。


「それで、どうするのが良いと姫は考えているのです?」


 いつものサキノアの執務室に入り込んで、ボクとユリスはサキノアに直談判に来ていた。ボクとしては、サキノアに断固反対してもらいたい気持ちが半分ほどあるのだが、どうやら、ユリスの思惑通りになりそうな予感だ。


「そうね、彼は悪魔だから、悪魔の島に永久追放ってのはどうかしら。戦乱の罰としてはちょうど良い加減のように思えるのだけれど、サキノアはどう思ってかしら?」


 サキノアは腕を組んだまま、じっとユリスの話を聞いている。


「もちろん、ぶらぶらさせておくにはもったいない人材ではあるわ。きっちりと働いてもらうつもりよ」


 要はボクの管理下に置くのが一番良い処遇だとユリスは言っているのだ。


「確かに彼はスノックとは違って隠居するには若すぎる。かと言って、帝都に置いておくには無駄が多い……」


 どうやら話しは決まってしまったようだ。


「彼の処遇に関しては、ミス・ミタマが責任を持つ。その上でスノック島への永久追放とする、そんなところでしょうか?」


 今日の話しに、ダインの運命を委ねるとは言ってはいたが、ユリスの考えに任せたようなものだ。筋書きは決まっている。だが、よくよく考えてみれば、有能な人材が一人増えるのだから、ボクとしてはそう不満がる必要はない。改めて考える必要など最初からなかったのだ。


「決まりね。それじゃあ、命令書を彼の元に送っておいてもらえると助かるわ。身柄はスミタマが管理するから、私の屋敷に送っておいてもらえるといいわね。もちろん護衛や見張りは不要よ。私たち以上に適任はいないでしょうからね」


 それじゃあ、よろしくね。そう言ってユリスが立ち上がるので、ボクもお辞儀をして執務室から失礼した。


「なんだかユリスの思う壺って感じなんだけれども……」


 帰りの馬車の中でボクがぼやく。


「あら、何を言っているのか私には分からないわ。スミタマにとって得ばかりに決まったのだから、もう少し嬉しそうな顔をして欲しいものだわ。私の思い通りというよりも、スミタマの思ったまま、そう言ってもらいたいぐらいなのに」


 ユリスはいつものように得意げだ。話しが決まった以上、ボクには嫌も応もない。

 彼は恐らく持っている雨を降らす能力を失い、悪魔会議の席次からも外れるだろう。それでも、ボクにとっては有能な部下が一人増えるのだから、文句はない。実際にはドリートが上司になるだろうから、そのあたりは上手くやってくれるだろう。


「そうだね、ユリスの言う通りだ。全てが丸く収まるような気がしてきたよ」


 ボクは苦笑いするしかなかった。ドリートにアキラ、そしてダイン。島には有能な人材が集まりつつある。ダインがどういった方面に能力を発揮してくれるかは、使うドリート次第だとは思うが、本人の意思を確認する必要もあるし、ボクも島に渡るしかないようだ。


「どうだい、ユリス。ボクは彼を連行して島に行く。一緒にユリスも行ってみないかい?」


 言外に、ユリスも同じように責任を負ってもらいたいという思いを込めてユリスを誘う。ユリスはボクの考えなど端からお見通しだ。


「あら、いやだスミタマ。一緒に行って欲しいなら、そういえばいいのに回りくどいったらないわね」


 ユリスに鼻で笑われたボクとしては、もうどうしようもない。


「ねえ、一緒に付いて来てよ、ユリス」


 ボクはちょっとだけ、鼻に掛けた声でユリスにお願いする。


「しょうがないわね。それじゃあ行ってあげる」


 数日後、護衛に伴われて、ダインは屋敷にやってきた。身柄受渡書にサインすると、護衛は引き上げていき、ダイン一人だけが残った。


「数日はここにいてもらう必要があります。何かあればこのジュンシに申しつけください。不都合はないはずですから」


 この屋敷に移送された意味をダインは良く分かっているはずだ。


「私はいつでもいいのです。もう決心はついていますから」


 屋敷に入るなり、そう言ってくるダインをなだめるように、まずは応接室へと通す。


「貴方は命令書にある通り、スノック島へと永久追放になりました。この意味を理解でますか?」


 ボクはダインを落ち着けるように聞く。


「もちろん、分かっています」


 そのあたりはダインも納得しているようだ。


「私の部下になるわけですが、島ではドリートの管理下に入ってもらいます、どのような仕事をしてもらうかは、彼女の判断によりますので、今は分かりません」


 ダインは頷く。


「それでスノックさんには……」


 ボクは、ダインがスノックとの別れを惜しんできたのか気になったのだ。


「はっきりと伝えてきました。寂しそうではありましたが、仕方ありません。ボクがスノック島で仕事をすると言うと、少しは嬉しそうではありましたが……」


 これからは、この帝都には知り合いもいなくなってしまう。思い出した時でいいので、訪ねてやってください。ダインはそう言う。


「分かりました。時折、島の状況などを土産話に、訪れると約束しましょう」


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139556934012206#reviews

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