第46話
小動物か、それとも風が木々の間を通り過ぎていったのか。とにかくそれほど問題はないようだったが、ボクの水浴びは切り上げとなった。気がつくとボクは胸を腕で隠していた。
自分のそんな仕草に、ボクは微苦笑しながら、身体が濡れたまま服を着ると、テントへの帰り道をとった、明日また来てみようという思いを残して。
夜が明けた。
ボクは洞窟の入り口に立つと、見送る兵士たちに手を振って中へと入って行く。調査の手順は昨日のうちから考えてあった。と言っても至って単純で、とにかく右手右手へと進みながらマッピングをしていくという手法だ。時間はランタンの燃料の減りを目安に進み、行き止まるか、ある程度進んだら壁に印を付けて戻る。それを繰り返すのだ。
迷ってもそう困る訳ではないものの、ギルドと大学院への報告もある。闇雲に動き回って、何もありませんでした、では済まない。実際に何もなかったにしてもマップを添えて報告するのが一番問題が起こりにくく、事後の調査でも役に立つに違いない。
調査を始めてから三日が経った。行き止まりだったり、深い崖になっていたり、地底湖が広がっていたりと、色々あったが、今のところ遺跡につながる物は何も発見出来てはいない。ただ、地図は方角までも含めてかなり精密なものが出来上がりつつあった。途中出会ったモンスターは人の大きさほどある奇妙な節足動物と、巨大なトカゲの二種のみだ。討伐の上、いちおうサンプルとして身体の一部を切り取ってある。
もちろん洞窟内の調査は大切なのだが、ボクの関心の何割かは、あの夜の気配に向けられていた。以来、毎日のように調査からもどると、水浴びに出かけた。それほど泥に塗れるという程ではなかったのだが、気配を感じる手順に水浴びが必要なのではという思い込みもあったのだ。ただ、期待に反して、何も起こりはしなかったのだが……。
異変が起こったのは四日目、今日はこのあたりで切り上げて、戻ろうかと思った矢先の出来事だった。
大きな地鳴りとともに、洞窟の天井が崩落し、同時に地割れが出来て、ボクはその中に飲み込まれてしまったのだ。手を伸ばす間もないほどにあっと言う間の出来事だった。強く地面に叩きつけられて一瞬だけだが、ボクは不意に気を失ってしまった。もちろん普通の人間であるなら死んでいただろう程の強い衝撃だった。気が付くと同時に周囲を見渡す。大きな地震か地すべりでも起きたのだろうかと考えつつ状況を整理していると、ボクの後にぼんやりとした光輝く塊があったのだ。最初は目が霞んでいるのかと錯覚したのだが、輪郭のハッキリとしない光の塊だった。
「乱暴でごめんなさい。でもこうするしかなかった。お願いです助けてください。助けて……」
その光は確かにそう言ったのだ。
「お願いです。ボクに付いて来てください。友達が襲われています……もうそう、長くはもちません」
ボクは少し頭が混乱した。
どうやら、この光にボクは呼び寄せられたらしく、しかも、困っているのは確かなようだ。
「分かった。助けるしかボクも助かる道はないみたいだし、急いでいるんだろう。事情はあとでいい」
ボクは服の汚れを払いながら、腰に手を当てて三日月ナイフがあるのを確かめると言った。
その光はかなりのスピードで駆け抜けていた。もちろん付いていくのは楽だった。すると光は言った。
「この速度でも全く息を乱していませんね。かなりの強者だとお見受けしました。もう少し早く走っても構いませんか?」
よく見ると光は朧げながらもなんとなく人型に見える。
「もちろん。時間、ないんだろう? 急げるだけ急いでもらって大丈夫だよ」
その光は、コクリと頷いたように見えた、その途端にスピードが急に上がった。
洞窟内部ではこれが限界のスピードらしい、当然のようにボクは付いていく。
その光が周囲を照らしてくれているだけに。走り抜けるのにそれほど苦労があるわけではない。ランタンは先程の滑落で失われてしまっていたが、かろうじて背負ったリュクサックは確保できていた。
「もうそこです」
光が言うや否や、ボクの目には光が差し込んできた。
洞窟は広いホール状になっており、天井には裂け目があって、日の光が差し込んでいる。そこで見た光景は壮絶なものだった。
巨大な蜘蛛が戦っていた。
いや、戦っているというより、のたうち回っていた、という方がより正解に近い。腹の数カ所を食い破られ、体液が流れ出ている。前足が一本、後ろ足も一本既に失われている。
相手はレギオンワームだ。これでは巨大な蜘蛛では分が悪い。
レギオンワームはその名が示す通り、集団で行動するミミズのような物体で大きなモノでも人の肩ほどだ。
レギオンワームは有機物ではなく、無機物で、獲物を探しては彷徨するまさしく物体なのだ。比較的暗い場所を好むとされており、人里への出没はほとんど報告されていないし、されたものでも極少数だ。
個体自体はそれほど強力ではないため、人間でも大人の男性であれば対応可能なモンスターでランク的にはDランクと言ったところだろう。
しかし、この数は尋常ではない。
数百、いや千体を越えている。巨大な蜘蛛に取り付いたものだけでも百数十体はありそうで、それ以上のレギオンワームが近づくのをかろうじて防いでいる。例の光が言った通り、そう長くは持たないと思えた。
「君は蜘蛛の身体にまとわりついたワームを処理して、治療を。ボクは近付いて来るワームを殲滅する」
ボクはそれだけを言う。
ボクはリュクサックを放り投げて、全速力で蜘蛛の前に踊り出た。もちろん得意の三日月ナイフを手にして。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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