第一回遼遠小説大賞参加記録
ムラサキハルカ
・参加記録及び備忘録
0.概要
これは自分(ムラサキハルカ)が、『第一回遼遠小説大賞』に参加したきっかけや執筆状況、作品などについて、備忘録的に書いみたものになります。
注 拙作『縄』についてのネタバレを含む部分がありますので、未読の方はご注意ください。※1
一.参加のきっかけ
どのように本大賞をみつけたのかはすっかり忘却の彼方なのですが、賞についての説明を目にした後のことはよく覚えています。
裏テーマの「小説はどこまで遠くに行けるか」。この点に強く惹かれました。もちろん、講評をいただけるという点に関してもとても魅力を感じていたのですが、一番惹かれたのは裏テーマでした。
二.不安
そんなわけで、第一回遼遠小説大賞に投稿してみたいと思ったのですが、同時に少なからぬ不安を感じてもいました。
それは裏テーマの説明内にあった、
『「たまたま書けたので裏テーマとか考えず適当に突っ込んだ作品」(中略)そういう作品だな思ったものに関しては私が門前払いするかめちゃくちゃ冷たい講評を書く予定です。』
『「お、なんかいいの書けたやん、賞っぽいのあるし突っ込んだろポチィ」とか絶っっっ対やめてください。』※2
この二つの文章を読んだからです。
そういうつもりは一切なかったのですが、自分が無茶苦茶ビビりなのもあって、「もしもそう判断されるようなものを書いてしまったらどうしよう?」という気持ちがなかなか拭えませんでした。加えて、この時はもう一つの懸念事項がありました。それは……自分が第一回遼遠小説対象を認識したのが、〆切三~四日前だったということです。
「書いてみたい。けれど、この条件内で自分はしっかりとしたものを描けるのだろうか?」
そんなことを思っている間にも時は過ぎていったので、手をこまねいている暇はないと何を書くべきかを考えはじめました。
三.構想及び執筆
「小説はどこまで遠くに行けるか」
この裏テーマをどのようにとらえるか?
当初は「遠く」という言葉をまっすぐにとらえた上で作中に組みこんでなにかしら書けないかと考えていたのですが、どうにも話がまとまりません。
自分は迷った末に、企画説明内にあった『小説の可能性』の方へと焦点を絞ることにしました。小説の可能性について考えていた時、ふと意識の繋がりの話の輪郭が浮かびました。この時点では、個人的に好きなテーマ以上のなにものでもありませんでしたが、それが可能性の追求たる挑戦になりうるためにはどのように書けばいいのかと、考えを深めていきました。そこで思いついたのが、文章の途中で改行を用い、次の話へと唐突に飛ぶ、という今回用いた手法です。
今までも似たような手法は使ったこと自体はありました。ただ、それらの作品は次の話に移動するための描写や前振りをある程度こなした上での場面移動をしています。それらの作品に比べると今回思いついた手法はブツギレ気味で、ともすれば意味不明扱いされて終わってしまうのではないかという危惧がありました。その一方で、作中人物の頭の中での思い起こしであるという構造からすれば、今回の小説の感じ方というのは個人の体験として案外伝わりやすいのではないのかという気もしていました。加えて、書き方と改行の仕方は頭の中で描けていたので、であるならば実行あるのみと腹をくくりました。
とはいえ、この時点では冒頭の文章すらありません。決まっていたのは、瀬多敦志(主人公)にとってのかつての出来事をランダムに語っていくことと、構造から導き出した『縄』というタイトルくらい。では、どう踏みだすかといえば……冒険――別名、行き当たりばったり――です。なにせこの段階では、作者である自分もまた、瀬多のことをよく知りません。かといって事前にキャラ設定を固めるとなると、それはそれで先の展開の既視感によって作者側の個人的なわくわくという火種が消えてしまう。以上のような経緯から、書きながら瀬多のことを把握していくやり方をとりました(この方法自体は、自分としてはいつも通りといえばいつも通りです)。ゆえに、どこで場面転換するのかは、実のところ作者自身にも最後の方まで上手く掴めなかった節があります。改行する少し前に次の場面を知る……その繰り返しです。作者自身が瀬多敦志の人生の全体像をおぼろげながら掴んだのがどこかといえば、息子と娘と雪遊びをしているところあたりでしょうか。以上のように中間部に関してはノープラン気味に書いていた節があります。
……こうしてあらためて書きだしてみると、本当に行き当たりばったりだな、と思うのですが、その小説の行く先のわからなさというのは草稿を書く際の緊張感にも繋がった気がします。
半ば綱渡りじみた執筆が草稿を書きあげるまで続きました。途中、「このままで大丈夫なのか?」という不安に襲われたり、「間に合わなくない?」と思ったり、草稿を書きあげたら書きあげたで自信のなさゆえに「いっそ別のものを書かない?」という悪魔の誘惑にかられたり(実はもう一本、書いたのですが、挑戦的でなかった……というか、思いのほか普通の話になってしまったので今のところ寝かしています)している間に、微妙に〆切が伸びてくれたおかげで、少しだけ執筆と見直しと考える時間がとれました。そして、覚悟を決めて『縄』を投稿しました。
四.『縄』について
もう少し、拙作について踏み込んでみます。
『縄』の大部分は娘の結婚を控えた瀬多敦士の意識の流れで構成されています。仮に現実の物理法則を適用し頭の血の巡りや首の疲れなどを考慮すれば、コードの上にカラスがあらわれるまでは長くて数分といったところでしょうか? おそらく、その間の無意識内でかけめぐった記憶の数々が本作です。そして、現在時間軸に戻ってきた瀬多が気を逸らすために再び別の記憶の繋がりに飛びこむところで本作は閉じられる――もとい、更に続くことを示唆し、かたちとしての終結を見ます。
意識の縄は、人生が続くかぎり途切れることはなく先へ先へ伸びていく……こう書くと、果てしない遠くに向かっているような気がしなくもないですが、瀬多の意識はごぐごく身近にしか向かわないまま、作品は閉じられています。ここら辺は、遠くを目指そうとした作者の意志が結局のところすぐ近くの足元しか照らせなかった、という現実自体を反映している部分もあるのかもしれません。
話は変わりますが、自らのTWITTER上で本作のことを「内容がいろんな意味で説明しにくいので、とにかく読んでみて欲しいです。」と説明したことがあります。読んでいただければわかるとおり、筋そのものはごくごく単純で、主人公・瀬多敦志の人生についてのあれこれがばらばらの順番で書かれているというだけです。起こっていることも、ごくごく一部の出来事を除けばありふれたものです。では、なぜ「説明しにくい」などと書いたかといえば、一つ目は時系列のばらばら加減が混乱を招きそうだなと思ったこと、そしてもう一つは前述したギミックについては読んでもらうまで伏せておきたかったからです。とりわけ後者に関しては、自作の内容を伏せておいた方が楽しみが増えるという作者自身の考えと、全てを前もって知ってもらったうえで読んでもらってたえられるほどの強度がこの作品にあるのかという自信の無さがあったのかもしれません。
五.参加後のあれこれや、講評、反省
投稿が終わったあとは、他の『第一回遼遠小説大賞』参加作品を時間がある時に読んで、すげぇな、とか、真似したい、と思ったりしていたのですが、最近は微妙に時間がとれずに途中までで止まっています。できれば、近日中に他の遼遠小説大賞の読書を再開できればいいなと思ってます。
また拙作の講評を読ませていただき、色々な見方があるんだなぁと感心したり、足りないところなどに気付くきっかけをもらえました。できれば、次の制作に生かしたいなという気持ちがある一方、どれだけとりこめるのかという不安を今も抱えています。そしてなにより、講評をいただけたこと自体がとても嬉しかったです。ありがとうございました。
今回の個人的な反省点としては、
・前述したように〆切三~四日前に『第一回遼遠小説大賞』の存在を知って臨むことになった点から、たえずアンテナを伸ばし、自らの参加したいコンテストに十全に挑める状況を作れるように努めること(〆切ぎりぎりの状況だからこそ小説を捻り出せるという状況も存在しうるため、一概に余裕がある方がいいとは言えないかもしれませんが……)。
・『縄』において今回のバランスがベストであったかという問いに対しての自問(結果として瀬多の意識の無秩序さと読み物としてのバランスをある程度両立させた結果として「小説はどこまで遠くに行けるか」の問いにおける「遠く」に行く可能性を薄めてしまったのではないのかという迷いが、いまだに自らの中にあります)。
・直前までチェックしていたにもかかわらず、けっこうな数の誤字脱字が残ってしまったこと。
などがあげられます。こうした反省も生かし、次回以降より良い作品を作って行きたいなと思いました。
六.感謝
最後に、講評を書いていただいた、主催の辰井圭斗様、姫乃只紫様、和菓子事典様、藤田桜様、あきかん様、第一回遼遠小説大賞参加者の皆様、そしてその他の拙作を読んでくれた方々に、心からの感謝を。とりわけ、和菓子辞典様におかれましては、大賞に推していただき、とてもとても嬉しかったです。
あらためまして。皆様、ありがとうございました。
※1 縄 https://kakuyomu.jp/works/16817139555441321380
※2 第一回遼遠小説大賞
https://kakuyomu.jp/user_events/16816927862113636016
第一回遼遠小説大賞参加記録 ムラサキハルカ @harukamurasaki
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