最期の英雄と救いの姫君

叢雲

序章

第1話 プロローグ


 …………

 ガシャ…ガシャ…


 鈍い金属音が響く。

ここが何処なのか。どうなっているのか。わからない。


 薄暗く、蝋燭ろうそくのような小さな灯りが点々としてはいても誰も知らない、誰も来ないような、隔絶かくぜつされた空間。


「……うぅ……」


 声すらまともに出せない。

どれ程の時間が経ったのだろうか。


「こっちよ、灯りがあるわ!それに血も続いてる!」


「お嬢様、誰も来ないような場所とはいえ、何があるかわかりません、先へ行かないで下さい!」


 2人の女性の声が反響する。

どうやら誰か来たようだ。でも、声が出せないから助けを求めることもできない。


「……うぅ………」


 出せるのは呻き声のようなものだけ。


「誰かいる!」


「そんな、このような遺跡に人など……」


「確かに声が聞こえたの!こっち!」


 ここは王国の裏手ににあるとある遺跡の深部。

2人の女性は声が聞こえた辺りまでやってきた。

そこには………


 鎖に繋がれ、傷を負いながら吊るされてる少年。

ここに来るまでにあった血痕は恐らくこの少年のもの。


「酷い、誰がこんな……」


「早く助けないと!」


「しかしお嬢様、この傷では……」


 そう、お嬢様と読んでいる女性の言う通り。普通であれば年端も行かない少年が負うような傷ではない。一刻でも早く治療しないとこの少年はもたないだろう。


「こういう人のために私は鍛練してきたの!」


「……うぅ……」


 敵なのか、見方なのか、助けてくれるのか、殺されるのか、意識もはっきりとしてない少年にやってきた少女は優しく、でもはっきりと告げる。


「大丈夫だよ、私は貴女の見方。今助けてあげるからじっとしててね?」


 少年は動かない。2人の女性に敵意はなく、助けようとしてくれていることを本能的に理解した。


「ミラ、鎖を切って。貴女なら切れるでしょ?」


「かしこまりました、お嬢様」


 ミラと呼ばれた女性は腰に携える剣を音を立てずに即座に抜き放ち、少年を縛る鎖を断ち切る。一瞬、鎖と剣が拮抗するも即座に断ちきられた。


「もう大丈夫よ、安心してね」


 力なく倒れそうになる少年を少女は抱きかかえ、回復魔法を放つ。みるみるうちに傷は塞がっていく。優しくそれでいて暖かい太陽のような光に当てられ安心したのか、少年はそのまま眠りに落ちる。



 …………………



「……うぅん……ふぁぁ……」


 いつの間にか朝になっている。昨日は夜更かしして寝るのが遅くなってしまったからね。書斎でそのまま眠てしまった。それにしても懐かしい夢を見たな、助けられてなかったら今頃はここにはいられなかった、感謝しかない。それに、書斎で寝てたなんてバレたらまた怒られてしまう。あの子が来る前にちゃんとしないと。


「もう遅いわよ、カイ。また書斎で寝たのね、いつになったらちゃんとベットで寝るのかしら?」


「こ、これはおはようございます王女殿下、いらしていたのですね。気づかずに申し訳ありません」


「…んん?聞こえなかったわ、カイ。何度言えばわかるのかしらねぇ?」


「聞こえているではありませんか、王……」


「カイ、私、耳が悪くなったみたい、今なんて言ったのか、教えてもらえるかしら?次、敬語を使ったら…」


「わかったよ、シェフィ。これでいいかい?」


「貴方を無理やり婿にするって、最後まで言わせなさいよぉぉぉ!」


「言ってるじゃないか既に、全く、君は第二王女なんだよ?もう少し慎みをもって…」


「いいのかしら、慎みをもって、今でも求婚が多くて困っているのだけれど?更に増えちゃうわね?貴方、それでいいの?」


 にやにやしながら僕の顔を見て自身たっぷりに言う。そうこの子にはすべて知られている。僕がシェフィに好意を持ってることも、国王陛下から「よろしく頼む、泣かせたら許さん」とすでに外堀は埋められている。求婚と聞いて嫉妬してしまうのは仕方がない。


「参った、降参だ、シェフィにはいつになっても勝てないね」


「す・べ・て・お見通しよ、何年一緒にいると思ってるの?下手な幼馴染よりも一緒にいるんだもの、当然ね」


 なんてことない日常の、いつものやりとり。この感じが心地いい。気兼ねなく、普通でいられるこのゆったりとした時間が心を落ち着かせる。過去の記憶そのものがないカイにとってこの時間は大切なもの。そうしているといつの間にかシェフィは僕の目の前に来て抱き着いてきた。


「貴方のことなんて朝、目を見ただけでわかるのよ。また見たんでしょ?あの日のこと。大丈夫よ、ここにはカイを傷つけるものなんていない。安心なさい」


「……上手く隠したつもりなんだけど、わかっちゃうか」


 僕も彼女の背中に手を回す。暖かく、それでいて優しい。いつになっても甘えっぱなし、これも変えられていない。あの日、シェフィに救われたあの日から変わらず優しい、まるで女神のように。


だからこそ僕は誓った。僕の命に代えてでもシェフィだけは守り通す。

たとえこの先何が待ち受けていようとも……





















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