バカにしかわからないガムの味
古びた望遠鏡
第1話
ある日昼食を買おうと立ち寄ったコンビニのレジ横にガムが置いてあった。
商品名は「味が人によって変わるバカジタガム」と書いてあった。かなり挑戦的なネーミングだと思う。企画係はこれが売れなかったらと今頃背筋を凍らしているだろう。
仕方がない協力してやるか。そう思い、ガムを取り、会計をして会社に戻った。
ガムを噛み始めて数分経つが特に大きな変化はない。口が少し冷える程度のミント風味である。まぁ変化しているかもしれないが、俺の舌では感知できなかった。
「お、先輩新しいガムですか。僕に一つくださいよ。」
「ん、いいぞ。ほれ。」
生意気な後輩を使って俺の舌が正常なのか調査してみることにした。
それから数十分してから後輩は顔色を変えて俺のもとに走ってきた。
「先輩このガムやばいっす。マジでやばいっす。」
「どうやばいんだ。語彙力がひどくて状況がイマイチ...」
「味が変わるんすよ。想像した100倍くらい。」
こんな顔してくるんだから本当のことで間違いない。だが俺は一向に変わらん。もう少し他のデータが欲しい。
そう思い、他の人にも渡したが、この後輩と同じ反応をした。しかし、みんな感知する味は人それぞれである。苦味、甘味、酸味等々。
最初はミント風味なのにそれから多くの味に変化する。一体どういうことだろう。
帰宅してもその謎は解けず、俺はついに製造元へ電話をしてみることにした。
「すいません。バカジタガムのことでお伺いしたいのですが」
「はい。少しお待ちください。」
数分後
「お電話変わりました。担当の舌上です。今日はバカジタガムの質問と言うことですが何でございましょうか。」
「はい。このガムを買わせてもらった者ですが、私だけ味が全く変わらないのです。他の人は味が変わったというのですが、私はミント風味から変化がないんです。」
「ふむふむ。」
担当者のシタガミは俺の話を最後までしっかりと聞いていた。そして聴き終わると謎が解けたという。
「お客さま。味がしない理由は決して当社の製品の不備ではございません。これから言うことはオフレコで頼むんですが」
そういうと声を抑えて彼はバカジタガムの秘密について語りだした。
「このガム実は厳密にいうと味が変わるわけではないのです」
シタガミはゆっくりとその効果について語りだした。
「このガムを味が変わると錯覚するのは脳の影響なんです。分かりやすく言うとその場面や状況、精神状態に作用して味が甘くなったり辛くなったり、苦くなったりするのです。」
「と言いますと、わたしには刺激がないということですか。バカジタガムを刺激するほどの」
「はい。申し訳ございません。」
俺は電話を切ってガムの包装紙を見つめた。
そこには3匹の猫が描かれていた。楽しく3匹が遊んでいる様子は田舎にいた頃を思い出す。
俺は三兄弟の末っ子で兄貴たちには世話になった。二人とも地元に残って公務員をしている。俺だけ上京してきて少し疎外感を感じていた。そして猛烈に母が作る料理が食べたくなった。
「久しぶりに顔出してみるか。」
そう呟くと口の中がほんのり肉じゃが味に変わった。
「ふん。俺はバカジタかよ。」
バカにしかわからないガムの味 古びた望遠鏡 @haikan530
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