beach glass
1
「パパ、」
風呂に浸かり、湯煙のあいまから折れそうな真ん丸の月を眺める。
真ん丸に満ちた月の灯りを映し、海には灯りの道が伸びてさざめいている。
青白く浮かぶ樹々のはざまで、青鷺が鳴く。
青鷺は凛と張って冬の空気を震わし、その漣に星が瞬く。
夕飯まえの風呂に、オレとパパで月を見ている。
「ユキちゃんはオレと入るらしいぜ」
雪が男の子だと知ったカイトは勇んで雪を連れてさきに風呂に入り、今夜、オレはパパとサシだ。
「パパ、」
パパは目を閉じたまま、だ。
指の傷が痛む。じくじく痛む。それが指の痛みなのか、もしかしたら気持ちの痛みなのか、わからなくなっていた。
*
カイトは雪を連れて風呂へ。
パパは庭でオレがぶつけたボードのリペアを。
で、
「天くん、指、たたまないと危ないわよ」
「あ、はい」
「震えてるよ? 刃物恐怖症?」
「あ、はい」
じつはその逆で、禁断症状でないか、じぶんに震えてます、なんていえない。
『包丁、自粛中』なんていえなくて、今夜はユリさんのお手伝いだ。
きょうはまきまき手巻き寿司。肉を切り込む感触を思いださないように集中してサーモンを切る。
「あ、そうだ、」
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