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「…え、なに、」
「カレー、食いにきた」
凶悪な目がまっすぐこちらを見つめてくる。
他意なく凶悪らしい。表情も感情もなくすっげぇぶっきらぼう。生まれつき損するタイプだ。
海風に、アフロなり損ないみたいな下手くそパーマが揺れていてそれがかえって歳より幼く見せている。
「…カレーとかだれに聞いたんだよ」
「カレーのにおいがした」
「まだつくってねぇ」
「…ユリさんに聞いた」
ユリさんっ!
「これ、平井さんの『カミさん』から、」
「あ? あ、ちょ!」
オレが『お巡りさんのカミさん』からのお土産に気を取られているすきに、ビーサン(この寒いのにビーサンとかサーファー、バカだろ)を放りだしてオレの脇を抜けていく。
「ゔゔゔゔゔ…」
「ユキちゃんだ! ユキちゃんっ、」
警戒する雪を追いかけて、
「ぶぶぶぶぅっ!」
「ユキちゃんユキちゃんユキちゃん!」
嫌がる雪を犬ころ相手みたいになでまわしている。
「なんなんだよ…あ、」
会ったことのないお巡りさんのカミさんから渡された紙袋には、まだあったかい唐揚げと厚焼きたまごとなんかのサラダが詰められたでっかいタッパーが、重なって入っていた。
*
「よっし、ルゥいれる!」
「あぁ!」
『いけっ!』
「…、そんな気合い入れるとこなのか?」
ついにあとはルゥを投入するだけのカレーは、
「野菜切らないのか?」
そのままのニンジンとじゃがいも、豚こまがうまそうにごろごろだ。
「これが男のカレーなんだ覚えとけよ」
「ふぅん」
信じたこいつ。やっぱバカだな。
『お友だちくん、タカシ、バカだから包丁もたせないでほしいんだ』
「バカなのか?」
『バカなんだわ』
「うるさいよ梅ちゃん!」
「よし、いくぞ!」
ルゥを箱からだすだけで、まるでご馳走ができたみたいにうまそうな香りが、キッキンに広がる。
雪とカイトが羨望の眼差しでオレの手元を見つめる。
火を止め、お玉を手にして、
ピンポンピンポンピンポン
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