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「これほんとにオーダーかよっ」
手渡されたウェットスーツはきつくて、まったく足を通らない。
なんとか足首まで突っ込んだところで、おばちゃんが乱入してきた。あわてて股間を隠して座り込む。
「あの、あの、」
「タカちゃん、ウェットスーツは水着の上に着るじゃんね」
「は、はい! はい!」
放っておいた水着を向こう向きで素早く履く。
「どうら、」
「あ、っす、大丈夫す、あの、」
「タカちゃん、そこ腕だら」
「あ、あ、」
「タカちゃん、ファスナーが、うしろよ」
「え? え?」
波乗り、初っ端から障壁高すぎる…
「いいじゃんね、似合ってる」
パッツン気味じゃないかと思うウェットスーツに、おばちゃんは満足げだ。
「ユウジがちっちゃいときにそっくりだら」
「…だれすか?」
ちなみにオレの親父はユウジじゃない。名前忘れたけどたしか最初に『た』がついた。
「ほら、そこのポスターの、」
「え?」
おばちゃんは、レジ横の、そこだけ新しいポスターを得意げに指差した。
真っ青な空を背景に、壁みたいな波でターンを決めてる、色黒マッチョなお兄さん。
オレが…たぶん、一般人が想像するサーファーお手本みたいな。
「わたしの、息子」
「あ、おかぁさんの、」
「そう、おかぁさんの、」
「あ、ませんっ」
あわてて口を閉じるけど、おばちゃんはクスクス、笑っいる。
「いまは、オーストラリア」
「はぁ、」
「外国、」
おばちゃんの得意そうな笑顔が、少しだけ、ほんの少しだけ、さびしそうだ。
「ユウジが波乗りはじめたのも、暮れだったら」
おばちゃんの目はポスターの向こうを見ている。けど、
「がんばりな」
その目がこちらに戻ってきたときには、その笑みは目から消えていた。口元だけ歯を見せて鋭くオレを見据える。
「冬にはじめた子は、強くなる」
新しいポスターのとなりに飾られてる、古い写真のなかでトロフィーを手に笑ういかにも努力家ぽい少年は、ちっともオレには似ていなかった。
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