第6話 あなたの呼びかた
6-CHAPTER1
拠点から目を離さないままヴァルダスが言う。
「そこらをうろつく盗賊らを先に実戦相手に出来れば良かったのだが」
「兵士どもが先に現れるとはな」
「現れるとはな、じゃないですよ」
ミルフィは少し憤慨した。仕方がないな、とヴァルダスは面白そうにミルフィを見た。
「あやつらの横を見付からないように通り」
「そのまま先に抜けるだけだ」
「だけって」
「危うくなったら俺が手助けをするから」
「先ほどのように、何も考えずにやってみろ」
これは指導というより、完全に遊ばれているような気がしなくもないが、此処を通る以外やはり他の手段はなさそうだ。
「ちょっと待ってください」
「何だ」
「傍にいるって言ってくださいましたよね」
「もう離れることになったじゃないですか」
まあまあ、とでも言うように、ヴァルダスは手首を動かす。ミルフィはため息をついた。
「どのような道順で進むんですか」
「そうだな、お前はあのだらけた男が立っている左手の壁を目指せ」
「あそこ、男性の目の前を通らないとゆけないじゃないですか!」
ヴァルダスが静かに言う。
「良く見ろ、あやつの真正面にも草藪がある」
ミルフィは目を凝らした。確かに男の前にはその男の身長ほど離れたところに、今潜んでいるのと同じような草藪がある。
「此処から見えている草藪や岩の影をじぐざぐに進み」
「男の前を抜けて壁まで行ったら、あとはあの男の横にある武器の入った樽に隠れて」
「そのまま拠点をあとにしろ」
ミルフィは手汗をひどくかいてきた。ヴァルダスが言っていることがほとんど頭に入ってこない。
「ヴァルダスさんはどうするんですか」
拠点に視線を向けたまま何とか問う。
「此処で体力を使うのも馬鹿らしいから、俺は反対側をゆく」
「ヴァルダスさん」
「何だ」
「ヴァルダスさんひとりでも隠れて進めるのなら」
「今後も斥候なんて必要ないじゃないですか」
ミルフィの動揺した声に、ヴァルダスは落ち着いて答えた。
「いや、此処ならば何とかなるというだけだ」
「今後は分からぬであろう」
ヴァルダスがミルフィの上腕を肘でぐいと押した。
「続きはあとだ」
「ほら、行ってこい」
ミルフィはうなだれながら、自分の鞄のベルトを締め、なるべく密着させてからダガーを先ほど教わったように、逆手に強く握る。
「拠点を抜けても気を抜くなよ」
「それからは全力で走るのだぞ」
拠点をあとにした先には隠れる場所はない。ゆえに静かに、そして確実にその場を離れなければならない。ミルフィは半泣きになったが、仕方がない。
ヴァルダスの視線を感じながら、ミルフィはまずひとつ目の草藪に向かうため、姿勢を低くした。
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