3-CHAPTER2
しかし直ぐになるほど、とミルフィは納得した。あのお茶に騙されたと言ったのは、苦味が原因であったのか。
ヴァルダスの本来の意味は、勿論違ったのであるが、ミルフィは安堵した。あのお茶はほとんど苦味などない茶葉を使っていたのだが、ここまで好まないとは思っていなかった。次からはヴァルダスさんのお茶には何か甘いものを混ぜよう。
ミルフィはそのようなことを考えながら、そうでしたかとにっこりして、自分に出来ることが失くならずに良かった、と思った。
「それでは呪文を回復する薬も作りましょう」
「どなたかにお渡しする機会がないとも限りませんし」
「それから」
「体力を回復する薬の味を変えることも出来ますよ」
「ほんとうか」
ヴァルダスの顔が明るくなる。
ええ、とミルフィは頷いた。
「材料と作り方を変えるだけです」
「お前、そのようなことが出来るのか」
「だから言ったじゃないですか」
「わたし薬草には詳しいんですよ」
笑ったミルフィを前に、ヴァルダスは徐々に彼女の腕を信頼してきた。
「あとは何の薬を使っていましたか」
そうだな、とヴァルダスは組んでいた腕を解き、片手を顎の下に寄せた。
「俺が買ったり適当に作っていた薬はそのふたつだな」
「それだけですか」
ミルフィは驚いた。
ヴァルダスがたとえ呪文師であったとしても、旅人には余りにも不足してやしないか。味だけで飲んでいたものを除けば、ひとつしかないなんて。
「怪我や病気の際はどうしていたのです」
「傷などしばらく放っておけば痛みもなくなる」
「出血した際は布で押さえれば良いだけだ」
ヴァルダスは顎から手を放し、当たり前のように言う。そして続けた。
「それから、腹が痛くなっても死にやしないから、人目に付かない所で寝転がるくらいか」
ミルフィは言葉が出なかった。そして声を張り上げた。
「ヴァルダスさん!」
「何だ」
その声にヴァルダスは動揺して、ミルフィを改めて見た。
「そのようにしていられたのはヴァルダスさんがお強いだけではなく、運もそうですが、生命力があったからです」
ほう、とヴァルダスは良く分からないまま答えた。
「今後もそう過ごせるか分からないですよ」
「何事にも必ずそうなると、決められているものなどないのです」
ミルフィは珍しく強い語気になった。ですから、と続けた。
「今後はわたしをちゃんと使ってください」
「どんな傷や病にも対応して見せますから」
おお、と思わずヴァルダスは声を出した。こやつは思ったより頼りになるかも知れない。
「それならば今までより、強く長く戦えるやも知れぬな」
ミルフィは一瞬黙ったが、言った。
「そういうことになるかも知れませんが」
「無駄に薬を使うのは駄目ですよ」
薬の話になるとこやつは手厳しいな。ヴァルダスは見下ろしながら思った。
「その場で直ぐに目当ての素材が多く手に入るとも限りません」
「見つけた際はなるだけ多めに採取はしますけれど」
「気を付けてくださいね」
「そうしよう」
ヴァルダスが理解したようだったので、ミルフィはふう、と息をついた。
これからは周りをしっかりと見て歩かなければ。薬の材料になるものを逃すわけにはいかない。
ミルフィは先ほどまで陽に透かしていた足元の花を見た。これも何かに使えるだろうか。念のためこの場所を覚えておかなくては。
ミルフィがそんなことを考えていると、おい、とヴァルダスの声がして、振り返った。
「これ、もう履けるのではないか」
ふたりのブーツをそれぞれ手にして、いつのまにか入り口に戻っていたヴァルダスがこっちを見ている。ミルフィは返事をして、ベルトのポケットに花を仕舞った。
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