蒼く気高く咲く薔薇に 〜白きスコアに描く夢〜
六弦翠星
#1 始まりの唄 -Prologue-
200X年 12月…
この日、1人の少女の憧れが、人生に幕を下ろした…
「なんでよ…!なんで私より先に逝っちゃうのよ…!まだ何も…何一つ完成してないのに…!答えてよ!父さん…!」
父と呼ばれた横たわる男の横で、泣き続ける少女。
投薬治療で窶れ、ボロボロになった男の顔は、成し遂げたと言わんばかりに満足気な表情で眠っている。
「目を開けてよ…!ねぇ…!」
ピーーーーーーーーー…
無慈悲に鳴り渡る電子音。
「午前2時48分…心肺停止。ご愁傷様です…。」
医師が男の死亡を告げる。
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「あなた…うっ、うぅっ…」
抱き合い、崩れ落ちる親子。
少女は亡き父の横で、ただ力なく泣き続ける事しか出来なかった…
時は流れ、数年後…
20XX年 3月…
「…お父さんの嘘つき。私が結婚するまでは死なないって言ったのに。」
墓の前で花を手向け、水を撒く喪服姿の少女の姿がそこにはあった。
水瀬氷華、16歳。
後に時の人となる程の名声と人気を勝ち取る事になる、今はまだ何も知らない不良少女。
音楽が好きで、ギターを嗜む。
「どうして先に逝くのよ、嘘つき。ギターだって、全然教えてくれなかったじゃない。家だってどうするつもりよ。ライブハウスの管理だって誰が今やってると思って?」
墓の前でブツブツと文句をぶつける。
彼女にとって父は憧れの人だった事もあり、その思いもひとしおなのだろう。
「墓の前でブツブツと文句を言ってる可愛いお嬢さんがいるなと思ったら…なんだ、氷華じゃないか。」
カツカツと踵を鳴らしながら、黒の軍服を着た青年が墓の前へ歩み寄る。
「看取りの最後に間に合わなかったのは残念だが、話は母さんから聞いたよ。…お悔やみ申し上げます。」
花を手向け、線香に火をつける青年。
慣れた手つきで手を合わせ、墓前で経を唱える。
「あの…失礼ですがどなた…」
「おいおい…忘れるとは嘆かわしいな。まぁ仕方ないか、かれこれ3年会ってなかったからな。」
氷華は怪訝そうな顔をして考え込む。
誰だっけ…でも何か、懐かしくも愛おしい…そんな人がいたような…
「………!?もしかして、六!?」
「久しぶりだな、やっと思い出したか。このおてんば娘め。」
氷華のデコをツンと弾く、六と呼ばれた青年。
蒼葉六駆。17歳。
幼い頃からの氷華の幼なじみ。家庭の事情で中等部の間に軍の学校へ通い、海外出兵を経験して帰ってきた軍人。
現在は軍籍こそ置いているが、通常の高等科に通う事が決定している。
氷華と同じくギターと音楽を好み、彼もまた一躍時の人となる未来が待ち構えている…
「どうして…帰ってきたの!?」
もう二度と会えないもんだと思っていたかのように目を丸くして六駆に問う氷華。
「あぁ、出兵期間が終わったからな。これにてしばらくお役御免って事で、上層部曰く転校許可かつ休職扱いって話になってな。こうして戻ってきたって訳よ。」
対して何を言ってるんだと言わんばかりにヘラっと返す六駆。
パァン───!!
何を思ったのか、渾身のスナップを効かせて平手打ちをお見舞いする氷華。
「ッ!?」
頬を押さえ何が起きたかを理解する前に、氷華の顔を見て「あっ、コレはマズイですね…(^p^)」という顔をする。
何を隠そう、怒った氷華は手が付けられないと地元ではかなり有名な話で、もちろん六駆も例外なく幾度と経験しているのである。
「アンタって男は…!いっっつもそうやって!急に!何の連絡も無しに!黙って出てったと思ったら!黙ってしれっと帰ってきて!心配するこっちの身にもなりなさいよ!こんの…バカタレェェーーーッ!!!」
美しい容姿とは裏腹に、ものすごい般若の形相で六駆に怒鳴り散らす氷華。
さすがの剣幕にというか、幾度と経験しているので力量関係を弁えているからなのか、萎縮し正座する六駆。
「イヤ、ソレハデスネアノー…」
「…何?弁明があるなら、聞くけど?」
「ッスゥ…ナンデモナイデス…ゴメンナサイ…」
「分かればよろしい。」
怒りを鎮めてくれた様子に、ほっと胸を撫で下ろす六駆。
テンテテ♫テンテテテンテン♫テンテンテンテンテン♫
唐突に小気味よい着信音が鳴り響く。
「私だわ…ゲッ…会長…」
どうやら生徒会長からの電話だったらしい。
一気に渋い顔になる氷華。
「ッスゥ…もしもし?」
「もしもし?じゃなくてよ!貴女今どこで油を売ってるんですの!?単位足りてないのくらい自分でわかってらっしゃるでしょう!?」
あまりの剣幕に氷華も片目を瞑り、スマホを耳から遠ざける。
「るっさいね…そんなんアンタには関係ないでしょ、それどころじゃないのよ私は。」
「進級はおろか卒業すら危ないって事、前にも説m────」
プツッ。
ノーモーションで電話を切る。
1度こうなったらとにかく煩いのを、氷華自信が1番よく知っている。
彼女なりの自己防衛なのだろう。
様子を聞いていた六駆は、埃を叩きながら立ち上がり問う。
「おい、お前もしかして学校フケってるのか?」
「…うるさいな。六には関係ないでしょ。」
そう言って荷物をまとめ始める氷華。
「関係ないことは無いぞ、明日から氷華と同じ学校だからな。」
「…は!?」
「生徒会長と知り合いでな、理事長に口利きしてもらったんだ。」
「チッ…あの女狐め…!」
あまりにも面倒なことになったと言う事を悔しがるかのように爪を噛む。
「明日からサボろうったってそうはいかんからな、授業はちゃんと受けて高校は卒業してもらう。氷華の母さんからも頼まれてるからな。」
「母さんまで…ハァ…分かったわよ、行けばいいんでしょ?」
「分かればよろしい。」
「はぁ…またつまらない日常に戻るのね…」
でも、六と一緒なら…少しは楽しいかもね…
などと表には出さないが、少し嬉しそうな氷華なのであった。
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