元少年達の償い ②
翌日。
東間は日向塾にて自習をしていた。
事件が起きた教室の近く以外では、塾の様子ほとんどいつもと変わらなかった。
ワークを広げて東間は英文と戦い続ける。
「わっかんねぇ……」
東間が頭をかきながら熟考していると、後ろから教師が肩を叩く。
「そこにbe動詞は入れませんよ」
東間はびっくりして肩をあげて、後ろを振り返ると、黒髪のスーツ姿の男がいた。
顔つきはどこか優しそうで、とても若々しい。
「
彼の名は
「やはり成績が伸びるのが遅いですからね、英語は。この前の模試も東間君は確か2……」
「あーあーもーわかってってからやってんだろ英語。とゆうか、先生はあんな事件起きたのによく塾に行けんな、他の学生は夏休み序盤だってのに、怖くて行けなくなってるのに」
「私が狙われるとは思えないので」
「んまー先生日下部高校を庶民の地位でありながら首席で卒業したって言ってるしな〜。」
「自慢じゃないですけど……まぁ」
「うわぁーイヤミだー」
「さっさとワーク進めなさい」
御陵の顔に少し血管が浮き出たのを見て、東間は口を止めて、渋々ワークをすすめた。
「そこ違いますよ」
「え」
一方その頃、南碧はとある法律事務所に来ていた。
その法律事務所にはガーデニングの施された綺麗な庭に、それを一望出来る窓が貼られ、それをバックに弁護士の机が置いてあった。
左には六法全書の詰まったアンティークな棚、右にはどこからかき集めたのか分からぬ骨董品やコーヒーカップが自慢げに並べられていた。
そして碧の目の前には茶髪のニヒルな男が長身の美人秘書の入れた紅茶を片手に碧を見ていた。
彼の名は
「……ここは女子中学生の来る所じゃ無いよ。依頼なら、親御さんを呼んでもらおうかな」
「女子中学生じゃありません」
碧は警察手帳を見せる。
「日向署刑事課兼特殊捜査課の南碧です。今回はあなたが弁護を担当した3年前の少年殺人事件についてお聞きしたいのですが」
「あーあの件ね。まぁ少年法でもなんとか最小限まで抑えたんだけど、あの事件のせいでうちも『悪徳だ』だのなんだの言われちゃってさ。正直困ってんのよね」
「そうじゃなくてですね。実は先日、その少年の1人が原因不明の死を遂げたんです」
「ふーん」
浅岡は紅茶を飲みながらあっけらかんとしている。
「ですから! 彼らの当時の様子を知りたいんです」
「僕になんの関係がある訳?」
「それは……」
「いいから帰ってくれるかな? 警察が居るってだけでも、うちがなんか悪い事してるみたいになるでしょ? はっきり言ってその事件はもう聞きたく無いのよ。だから帰ってくれる?」
「……ですが」
「小さい犬程よく吠えるよね」
「……また後日来ます」
碧は資料を渡して、事務所を出た。
夕方になり、日が沈み、街中のスピーカーから帰りの音楽が鳴り響き、遊んでいた小学生が
元気よく帰ろうとしていた。
「あったまきた! あの男〜!」
碧はサンライズでやけくそに焼きそばを食っていた。
もう既に3杯食っており、作っていた北崎はやや驚いている。
「……それで資料渡して終わった訳」
「ええそうよ! あいつったら『警察がいると〜世間の目が〜』じゃないのよ! 私別になんも悪い事して無いし! 第一紅茶飲みながら片手間で話聞くような無礼な奴ですよ! こちとら警察よ! 警察!」
「それ、弁護士に向かって言ったら職権乱用になっちゃうから気をつけてね」
「それより焼きそば!」
「はいはい」
北崎が焼きそばを出すと、腹ぺこの猛犬かの如く焼きそばを口にいれる。
「あーもう……浅岡……絶対……許さん」
「食べるのと喋るのを交互にしないでね」
その後、碧はやけくそに今どき珍しい二千円札を出し、サンライズを去っていった。
「結構子供っぽいな〜碧ちゃん……」
北崎は残された皿を洗剤を染み込ませたスポンジで、皿についたソースの汚れを落としていく。
「東間君とは……うまくやれてそうだな」
北崎は皿を洗い終えると、店の裏に行き、とある人物に、電話をかけ始めた。
「……もしもし、南です」
「…………南君か、久しぶりだね」
電話の声は、蝦夷松道夫だった。
「ええ、一応。碧と接触したとの事で、その時の彼女の様子を知りたくて」
「そういうことですか……まぁ少し寡黙になってましたかね、やや苦手意識を持ってたというか。まぁこう見えてそういうのには弱いんだよなぁ、俺」
北崎は鼻でフフと笑う。
「お、おい笑うな」
「いやぁ、蝦夷松さんは強面ですから」
「そういうお前は、わざわざこんな事してまで、奴を捕まえたいのか?」
「ええ、必ず捕まえてやりますよ」
「まっ、せいぜい気をつけろよ、相手はどこに潜んでるか分からない。まさに影の住民だからな」
「わかりました。ありがとうございます」
北崎は電話を切り、夜空に光る星を眺める。
「……碧」
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