大魔王ディアボロス殺人事件 ③

 2人は、大道具の倉庫に来ていた。

 倉庫の中には、様々な怪人やヒーローのスーツ、板や廃材、中にはヒーローが乗るであろうバイクや車もあった。


「うわ〜めっちゃある〜」


 東間は様々な道具を眺めて、目を輝かせる。


「おっ、これはわかるぞ」


 東間は箱からカットラス型の武器を取り出す。


「何よそれ」

「『超深海サブマリン』の敵の武器だよ」

「……それ何年前の武器よ」

「俺が小さい頃だから……もう10年くらいか」

「よく覚えてるわねー」

「俺このキャラ好きだったからな〜えっと……名前なんだっけ……」


 その時、東間の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「深海海賊ジャックラス3世の武器、シャークセイバー」

「そうそうジャックラスジャックラス、あいつカッコよくてさぁ〜悪役なんだけど……って西宮ぁ!?」

「先程撮影終わったんでついつい寄って来ちゃいました」

「へぇそうかい……」

「んで、捜査は進んでるんすか? 私も協力しますよ? ヒーローなので」


 目を輝かせる西宮に碧は困り、手で払う。


「あんたみたいなお調子者が入って良い所じゃないの。そんなテレビのヒーローみたいに、世の中は綺麗事ばかりじゃないんだから。さっさと、帰りなさい。仕事、終わったんでしょ?」

「え〜」


 西宮は諦めて、倉庫から去ろうとした。

 その時である。


「うわぁああぁああああ!!!!!!」


 向こうから叫び声が鳴り響いた。

 おそらくここのスタッフだろう。

 碧達はすぐさま現場に向かって走る。

 そこには、大道具のスタッフであろう男が、腰を抜かしていた。

 男の視線の先には、超電光グリッターのマスクが置いてあった。

 そして、そのマスクを掴む手があった。

 しかし、碧達の視線からは、手以外が何も見えない。


「……どうかしたんですか?」

「な、中村さんが……」

「えっ……」


 碧は男の視線の先を見ると、そこには、喉元を切り裂かれ、絶望に歪んだ顔のまま殺された脚本家、中村悠二の姿があった。

 西宮は初めて見る死体に、絶句し、吐き気を覚える。

 東間はそばにあったビニール袋を西宮に渡す。


「……中村さん」


 西宮は嘔吐し、東間は背中をさする。

 碧は死体に近づいて、状態を確認する。


「……まだ死んでから間もない。犯人は近くにいる」

「よし、碧は西宮頼む。俺探してくる」

「わかった」


 東間は倉庫の外へ向かい、怪しい人物が居ないのか探し回る。

 しかし、怪しいと思える人物どころか、人すら居ない。


「くっそどこにいんだよ……」


 犯人はもう既に居ないと確信した東間はそのまま現場に戻る。


「犯人は?」

「もう居なかったよ。逃げ足は早いなあいつ」

「まぁそうよね……ってあなた吐きすぎよ」


 西宮はビニールに顔を突っ込んだまま嘔吐し、その中に溜まるゲロの臭いからまた貰いゲロをするという無限ループに差し掛かっていた。

 胃の中ののり弁当がドロドロのペースト状になって出てくる。


「ゲロ……臭い」

「顔をそんなに入れるからよ早く出しなさい」

「ぷはぁー! くっさ、私のゲロ」

「死体なんて見るの初めてでしょ」

「そうですよ……しかも、中村さんの……」

「あぁ……知ってる人なら余計ね」

「ちょっとまだ気分優れないんで帰ります……」

「そうしなさい」


 西宮は碧に抱えられたまま、倉庫を出た。

 その光景はまるで、妹に運ばれる姉のようだった。

 年齢は担いでいる方が上であるが。

 東間は後ろからどことなく可愛さを感じた。

 

「……意外と軽いわね」




 その日の夜、東間は倉庫に戻ってきた。

 殺害現場は一時的に封鎖され、規制線が貼られている。

 ほとんど捜査は済んでおり、人気など全くない。


「まぁ……犯人は現場に戻るって言うけど……そんなわけないか」


 碧は戻ろうとしたその時、突如後ろから刃が振り下ろされる。

 碧は咄嗟に避け、後ろを振り返るとそこには、黒い鎧の角の生えた兜を持つ怪人の姿があった。

 碧はその姿を見た事があった。

 あの時の監視カメラに映った、怪人。


「……大魔王ディアボロス」


 碧は影を纏い、影乃警察に変身し、銃で再び振り下ろされた刃を防ぐ。

 そしてがら空きの胴に正拳を放ち、大魔王ディアボロスは後ろによろめく。


「犯人は本当に戻ってくるのね」


 影乃警察は銃を腰のホルダーから抜き、大魔王ディアボロスに向けて放つ。

 しかし大魔王ディアボロスはそれを弾く。そして剣を光らせ、影乃警察に向けて斬撃を放つ。

 影乃警察は慌てて避け、地面を転がる。

 装甲はある程度硬い為、そこまでダメージにはならないが、斬撃の飛んだ方向にあった木材は真っ二つに割れていた。


「あれは、当たらない方が良いわね……」


 すると、大魔王ディアボロスはマントを広げる。そしてマントの中の暗闇からわらわらとゾンビのように黒い人の形をした怪物が湧き出てくる。

 彼らは地面に落ちながら現れると、影乃警察に覆い被さるように倒れる。

 影乃警察はなんとか払い除けようとするが、数が多いうえに全身に抱きつくためなかなか離れられない。


「この……邪魔よ……どきなさい」


 そのすきに大魔王ディアボロスは剣を振り上げ、怪物ごと、影乃警察を斬ろうと剣を振り下ろした。

 影乃警察も一瞬、死を覚悟した。

 その刹那。







 何者かが上空から現れ、大魔王ディアボロスを弾く正拳が放たれた。

 大魔王ディアボロスはたじろぎ、剣を落としてしまう。

 大魔王ディアボロスが衝撃の来た方向を見ると、そこには、戦士の姿があった。


「……あなたは」


 影乃警察は問いかけるが、戦士は無言のまま、戦闘の構えをとる。

 その姿は、大魔王ディアボロスという悪を倒す為に現れた。


 英雄ヒーローだった。





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