大魔王ディアボロス殺人事件 ②

「……ヒーロー?」


 あまりにもぶっ飛んだ回答にアドリブ力はそこそこある東間も返せなかった。

 残りの2人も脳内の思考が一時停止する。

 東間は3秒の間からとりあえず無視する事にした。


「やべぇ女だ、関わらない方が吉だ」

「ちょっと私も関係者ですよ!? 超電光グリッターのヒロインやってるんですからね!」

「いや傍から見ると変身ベルトつけてる異端者だよ」

「ぐはぁ!」


 西宮は精神に会心の一撃をくらい膝から崩れ落ちる。

 よほど東間の言葉が突き刺さったようだ。


「……よく言われますけど……そうですよね……はは……ははは」


 東間はどことなく申し訳なく思った。


「東間、謝りなさいよ」

「ま、まぁ……そんな落ち込まずに……ところで、さっき言ってた大魔王ディアボロスってなんだ?」


 西宮はなんとか気を取り戻し、立ち上がって、監視カメラの映像に映った怪人に指をさして説明する。


「大魔王ディアボロスって言うのは、超電光グリッターに出てくる悪役で電脳世界『ワンゼロン』のコンピューターウイルスの魔王なんです。『バグラーズ』と呼ばれるコンピューターウイルスの怪人を用いて電子機器を介して現実世界に侵略を行い」

「長い長い長い! まだ説明あるのか!?」

「え? まだ1話の話しか」

「悪役だけでいいから。なんか途中専門用語挟まってるよ!? オタクの悪い癖みたいなのが」

「あっすみません、とにかく悪役です」


 碧は呆れつつも、とりあえず事情聴取をとることにした。


「西宮舞さん、でいいわよね。あなたは昨夜何をしてたの?」

「ええっと……あっ、1人で『超高速スピーダー』を復修してました」

「うん、アリバイは無いわね。というかシリーズなの?」

「はい、ハイパーシリーズって言いまして、超勝利ビクトリーから超電光グリッターまで現在26作目まで言ってましてシリーズ通して、必ずヒーローとしての使命や」

「また、オタクの悪い癖出てるわよ」

「あっ、すみません。好きで好きで」

「……なんか可愛いわね」

「いや〜お姉ちゃんほんとに好きだからさ〜つい話しちゃうんだよ。というか刑事さん、なんでここに女子中学生がいるんですか?」

「私は女子中学生じゃありません! 日向署の刑事の南碧です!」

「……刑事さんなの!?」

「事情聴取してから気づくのね?!」

「あっそういえばしてた!」


 そんなドタバタな事情聴取をしていると、スタジオに男が入ってきた。


「舞、こんなところいたのか、早くシーン25の撮影するぞ」

「あっ、はーい」


 その男は皮のジャケットにTシャツでジーパン姿の男で、東間よりもやや身長は高く、顔つきも凛々しく、東間でもかっこいいと感じてしまうほどだった。


「誰?」


 東間が碧に聞くと、碧は手帳を開いて確認をする。


「えっと、秋山剛あきやま ごう19歳、超電光グリッターの主役をやってる人ね」

「ほーん、あんなイケメンがか」

「そりゃ、俳優は顔が命だからね」

「まぁそうか」

「とにかく、関係者に話聞くわよ」

「えっあいつは?」

「撮影の後、これから脚本家とかに聞くの」



 2人は、超電光グリッターの制作会社である日向映像社に来ていた。

 社内は昨夜の事件のせいで、慌てている。

 マスコミにはなんとか隠せているようではあるが、かなりベテランのプロデューサーだった為、社内は大変な様だ。

 そんな社内の一室に、東間と碧はある人物を呼んだ。


「……どうも」


 その人物はボサボサの髪の男で、パーカーにジャージのズボン、足にはサンダルというかなりの軽装である。


「脚本家の中村悠二なかむら ゆうじさんですね」

「はい……まあ」


 東間はやや不潔なその姿に嫌悪感は持ちつつも一応仕事なので我慢する事にした。

 尚、こんな人によくある不潔な臭いなどは無く、一応風呂には入っているんだと確認できる。


「中村さんは、昨夜何をしていましたか?」

「ええっと……脚本書いてましたね。他のドラマの脚本もあるので」


 中村はノートパソコンを開き、少しだけ原稿を確認する。

 そんな彼にも碧は事情聴取を続ける。


「中村さんは独身でしたね。という事はアリバイを証明出来る人物は居なかったと」

「そうなりますね。プロデューサー……でしたっけ、殺された人」

「はい」

「まぁ、あの人なら誰に殺されてもおかしくは無いな」

「……それって」

「あの人、昔からちょっと横暴でね。多少恨みは買ってでもいい作品は作るべきって人なんですよ。まぁ、僕はそんなに恨んでませんよ。脚本の締切うるさいですけど」

「そうですか、ありがとうございました」

「ええ、大丈夫ですよ」


 中村は部屋を出る。

 その刹那、中村は何かを呟いた。


「……の事故か」


 東間はその言葉を聞いたものの、あまり気にする事は無かった。


「どうかしたの? 東間」

「……いや、なんでも」


 その頃、とある廃工場の撮影現場では、スタッフの勢いのあるカットの声が鳴り響いていた。


「はーい、西宮舞さんと秋山剛さんクランクアップでーす!」


 現場のスタッフ達から、拍手が鳴り響き、西宮と秋山は花束を貰う。


「ありがとうございました!」


 西宮は笑顔でスタッフに挨拶をする。

 現場は明るくなり、秋山もそんな彼女と同じように、礼をし、現場を後にする。

 西宮も同じように現場を後にする。

 しかし、西宮舞の影は、可憐な彼女の形をしては居なかった。

 赤い眼光を光らせる。

 彼女が憧れる。英雄ヒーローの様な、影だった。

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