学園連続狙撃事件 ⑥
入学してから、彼女と俺は話す機会が少し減った。
俺自身も生徒会で忙しいから、夜にちょっとLINEで連絡を取り合うくらいだった。
彼女と会ってから人生が少しだけ楽しく感じる様になった。
今まで心の底から分かり合える人なんて居なかった。
誰も俺と関わろうとしなかった。
ただ勉強と向き合う日々だった。
もし彼女がいなければ俺は今頃どうなっていただろう。
俺は彼女に救われた。
そう思っていた。
そんな日々が続き、半年が経った。
次の授業の準備の為、移動教室に向かうと、彼女とすれ違った。
そんな彼女は半年前とは全く変わっていた。
あの艶やかな髪は痛み、顔も痩せこけていた。
「……▉▉、か?」
俺は呼びかけるも、彼女はそそくさと逃げてしまった。
何があったのだろう。
俺はその夜、彼女にLINEをした。
しかし、メッセージに既読すらつかなかった。
どうしたんだろう。
それが気になって、目の前の数式が求められない。
翌日。
高校の門の前にパトカーがいくつも止まっているのが見える。
俺は近くにいた生徒に話を聞くと、俺は耳を疑った。
「女子生徒が首吊って死んだんだとよ」
その言葉は直接的に俺の心を突き刺した。
その日の朝、全校集会で校長はこの事を口外しない事を伝えた。
校長が言ったその名は、彼女だった。
数日後、彼女の葬式が行われた。
彼女の死を悲しむ家族や、クラスメイトがいた。
その葬式が終わり、帰ろうとしたその時だった。
ある会話が偶然俺の耳を通る。
「おい、やっぱりちゃんと言うべきじゃ……」
「馬鹿、自殺で片付いてんだ、わざわざ謝んなくても良いって」
「そうだよ、お前本当ビビりだな。たかが軽く首吊ってみただけで死ぬんだ。あんな湿っぽい女死んでも何も変わんねぇよ」
……は?
俺は、それ以外の言葉が無かった。
もし右手にナイフでもあれば、俺はその3人を刺し殺していただろう。
しかも、彼らの親は医者、社長、政治家と有名な所の生徒だった。
なんでだ?
あんなクズが許されるのか?
彼女は、誰よりも明るくて、勉強しか無かった俺の人生に光を与えてくれた。
それを、あいつらは奪った。
そしたら、この力は発現した。
「こんな感じだ……」
「……そうか」
東間はそれしか言わなかった。
すると、宮部が息を切らしながらやってきた。
「はぁ……はぁ……東間、お前……って生徒会長がなんでここにいるんだ?」
「もう生徒会長じゃねぇよ」
東間がそういうと白石は軽く笑った。
「そうだな、もう俺は終わりなんだ。親に見せる顔もない」
「……終わりじゃねぇよ」
東間はそう言うと、白石の手に手錠をかけた。
「こんな事して、彼女が報われる訳ねぇだろ」
「……でも、俺にはこれしか無かった」
東間は白石の胸ぐらを掴み、顔面に1発殴る。
その1発は重く、儚かった。
「あいつを救いたいんだったら、お前の罪を償え。あの時、彼女に手を差し伸べてたら。こんな事。無かったんじゃ無いのか?」
「……ああ、そうだな」
白石は顔面を手で抑えて、膝から崩れ落ちる。
彼の指の隙間からは涙が流れ落ちていた。
その後、警察が来て、手錠をかけられた白石を連行していくことになった。
「……あ、君」
パトカーに乗る直前、白石は東間に話しかけてきた。
「なんだよ」
「君の仲間を狙撃した件。申し訳ない。その罪も償う」
「ああ、わかってるよ。だから1発殴ってやった。俺がどうなっても構わねぇけど、仲間に手ぇだしたら俺が許さねぇ」
「……海賊かよ」
白石は、パトカーに乗り連行された。
こうして、学園の悪霊もとい、狙撃手による殺人事件は、幕を下ろした。
孤独な青年の涙と共に。
翌日。
東間は碧の病室の扉の前に、フルーツの籠を持ちながらドギマギして、なかなか病室に入れずにいた。
(碧に迷惑かけたしなぁ謝るのは普通だろ? でも何も考えてなかったら……あいつの為に戦って来たとか言うことになる……完全に脈アリだと思われる……そのためのフルーツなんだけどそもそも女ってフルーツで許してくれるか……?)
東間は扉の前でウロウロしていると、百々谷佳奈が東間に駆け寄って来た。
「あれ? 君って碧ちゃんと一緒に来た転校生だよね?」
「えっ、まぁはい」
「やっぱりー?! 碧ちゃんとはど・う・い・う関係なの?」
「えーと……幼馴染かと」
「んじゃあなんでここでウロウロしてるの?」
「えっいやその……」
「さっさと入ればいいじゃん」
「あちょ」
百々谷は東間の手を引いて、堂々と病室の扉を開ける。
病室には、同じくフルーツの籠を持っている北崎とそのフルーツをバクバクと元気よく食べている碧の姿がいた。
りんごはまるで童話のように芯だけになり、バナナはどこぞのレースゲームのように放置され、メロンは1玉丸ごと消えていた。
「あっ東間に百々谷さん。フルーツ持ってきてくれたの? お腹すいてて食べ足りないのよ。それちょうだい」
何も気にも止めていないような彼女のリスのように膨らんだ頬を見ると、今まで心配していた東間の心配はどこかへ消えていってしまった。
そして、かわいた笑いが込み上げてきた。
「ちょっ、何笑ってるのよ気持ち悪いわねぇ」
「……いやさ、心配しすぎた俺がアホみてえでよ」
「何? どういうこと?」
「まぁ事件は解決したんだ、いいだろ」
北崎はその言葉を聞くとあっちょっそれはと少し慌てた。
東間はきょとんと首を傾げると、北崎は指で隣を指した。
「……あー、ぶ、部外者」
「事件って何? どういうこと?」
「いやー実はね……」
東間は事情を説明した。
「なるほど〜別に私は大丈夫だよ?」
「え? どゆこと?」
「だって私、日向署の署長の娘だもん」
「「「えええええええええええぇぇぇぇ!!?!!?!!!?!!!」」」
病室に響き渡る驚愕の声。
「しょ、署長の娘……? 確かに苗字は同じだとは思ったけど娘とは……」
「え? 何? 碧ちゃんの上司だよ?」
「何衝撃的な事を言ってんだよ!?」
「そりゃ警察の人だからさ、ってかこんなに可愛い警察部下に持ってるお父さんって……」
「おうおうおう、碧。署長の娘にいかがわしい目で見てるぞ!」
「そ、そんな関係じゃ無いですよ!?」
「冗談だってばー」
佳奈は笑顔でダブルピースを決める。
「って言うかサンライズの店長も警察なんだ〜ってか警察って公務員でしょ? 喫茶店なんてしていいの?」
「ああ、その点は大丈夫」
「ふーん、そっか! じゃ碧ちゃんまたねー! あっ後東間……くん?」
「なんだよ」
佳奈は耳元で囁く。
「碧ちゃんを落とせるようにファイト」
その言葉に東間は顔を赤くしてしまった。
「ん? どうしたの?」
「な、な……何でもなあああああああああああぁぁぁい!」
東間は病室を逃げる様に出ていった。
東間と碧の恋愛は、まだまだ始まったばかり。
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