数百年の呪いにサヨナラヲ

とあるデルタさん

第1話 幕開け

 「笹原くん出番です」

 「ちょっと俺の使い道荒くないですか?」

 「貴方の専門でしょう?」

 インナーイヤホンから聞こえる上司と会話して最悪な気持ちになる。

 第一なぜ都会の大きい十字道路でこんな無駄にデカい魔害と殺りあわなきゃいけないのか。

 そして今日は貴重な休日、寝不足の俺が唯一寝られる日だ。なのに休日出勤。

 最悪な気分も分かってくれるだろう。

 「それは…そうですけど……。あぁはいはい分かりましたやります。やりますよ」

 嫌な気持ちを払い数十メートル先にいる敵に目をやる。

 全長三メートルはあろうか、その歪な形をした巨体を持つ魔害まがいは辺りにある車や信号を次々壊していった。

 凹ませ、砕き、潰す。それを延々と繰り返す姿はまるで工場の機械たちだ。

 暫らくの間それを見て感心していると魔害がこちらを見つけたようで戦闘態勢に入った。

 その魔害はとても発達した腕をこれでもかと振り上げ道路を思い切り陥没させた。

 此処が縦横共に広い道路だからまだ良かったが、街中だったら軽く数件はお店が沈んでいるところだ。

 「ねぇ宮田さん。これホントに俺一人でやるんです?」

 「…上からの指令です大人しく従ってください」

 「はぁ…ひっど」

 肩をすくめて落胆していると、魔害は準備運動が終わったのかこちらに勢いよく走ってきた。

 怪しい霧のような黒いもやを漂わせながら走ってくるので、なんとも見えづらい。

 だが魔害はそんなこと気にした様子も無く二つの豪腕を繰り出してきた。

 「うわ!はっっや!」

 その拳の速度はまるで有名なボクサーのそれだ。

 右、左、右、左、時偶下から飛んでくるアッパーをバク転で避ける。

 「ねぇ宮田さん魔害コイツのこと数秒そっちにタゲ向けられます?…っあぶね」

 顔面スレスレのアッパーが飛んできて危うく永遠のKOを告げられるところだった。

 気を一瞬でも抜くと禄なことがない。

 「…わかりました。ですが少し時間をください」

 「っと。分かりました、刀抜く時間が!っ…欲しいんでなるはやで!」

 「了解しました。直ぐ射撃に移行します」

 宮田さんは予め用意していたスナイパーライフルを稼働させ狙いを定めた音を奏でた。

 …そして魔害は拳が中々当たらないことを悟り、より複雑な打撃で襲ってきた。

 一瞬、いやそれ以上の時間すらも引き合いに出されそろそろ身体が音を上げそうだ。アドレナリンでなんとか疲れを柔いでいるがいつ切れるか分からない。

 だから早く宮田さんの合図が出ることを願って必死に避け続ける。

 「…笹原くん、三秒後そいつから離れてください」

 「了解…しぃまぁしぃたぁ!」

 「よっ!と」

 バァン!!

 魔害から離れたと同時に、魔害の左肩へ銃弾が炸裂した。

 「ァガガ」

 左肩を抑えながら唸声を上げる魔害に狙いを定める。

 「…斬り裂け悲喜交交ひきごもごも!」

 左腰に携えた愛刀悲喜交交を抜き、魔害の左鎖骨から斜めに斬り裂く。

 詰まることなく斬り抜き鞘に収める。

 「ふぅ。お仕事終了。宮田さんお疲れ様でした。それにしても相変わらず良い腕してますね」

 「お疲れ様です。笹原くんの抜刀術も眼を見張るものがありますよ。では笹原くん至急撤退してください。後はこちらでやっておきますから」

 「ありがとうございます」

 インナーイヤホンを外し軽く伸びる。

 「ふぅはぁ。家帰ったら風呂入ろ」

 ふと背にしていた魔害の方へ向き黒い靄が無くなっているのを確認する。

 魔害はその身から溢れ出る負の感情が黒い靄として現れるので、その靄が無くなればその魔害は死滅したということになるのだ。

 出ていれば生きていて、出ていなければ死んでいる至極簡単な原理で魔害は存在している。

 「これがオーガ級か。まぁなったばっかりだし弱い方で助かったな」

 そして魔害は全七段階で選別される。

一番弱いD級から一番強いORGA級まで。

 俺の仕事は基本ORGA級が現れた時の支援なんだが今回は人手が足りないということで、ほぼ単身討伐の命令が下りてきた。

 実際問題、上の人間も働けばあまり人手に困ることは無い筈なのだが…。

 「成仏しろよ。俺はお前たちを斬ることでしか楽に出来ないから」

 そう俺たち緋星ひしょうは魔害を殺すことでしか何かを守れないのだ。

 

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