腕時計
雪見そら
第1話
「ねえ、今何分?」
「二十分」
だからあと五分くらいで移動するよ。左手首に視線を落としながら続けたその人に、はーいと返事をする。
その人、小野さんは部活の同級生だ。真面目で責任感が強くて、ちょっと頭が固い。いくら自分がいじり倒しても、あしらうことなく毎回返事をしてくれる。だからついつい調子に乗っておちょくってしまう。それにまた小野さんが返事をする――そんなやり取りを続けること、少なくとも二年半。気軽なやり取りができるくらいの間柄にはなっていた。
「ていうか高村、スマホで見ようっていう気はないの?」
普段こちらへの返事と事務的な話しか振ってこない小野さんからの珍しい振りに目を見開く。雑談というよりお小言に近い気もするが、何となく口に出すのはやめておいた。
「たっしかに。でも小野さんに聞いた方が早いし」
「Siriか何かだと思われてる?」
「ヘイ小野さん! 今の時間を教えて!」
「それで聞かれたらさすがに返事するのやめるからね」
ジト目を向けられたので、さすがに「ごめんって」と謝る。それに向こうも慣れたもので、呆れたような、仕方ないとでもいうような表情をしてくれるから。
だから、また調子に乗ってしまうんだろう。
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