第4話 3限目

 ※この第4話はいじめの場面があります。


早坂瞬はやさかしゅんという人物を筆頭に取り巻きの加賀下洋馬かがしたようま佐久間忠さくまただしに主人公の柏正樹かしわまさきはいじめられた。


 これだけ把握してもらっていればそれほどストーリー展開に支障はないと思います。苦手な方は第5話に飛んでください。


※本日(2022年7月24日)18時頃に第5話は投稿予定です。

















 授業は3限目からで107号教室でデッサンの時間だった。107号教室は石膏を中心に木製イーゼルが円になるように配置されている。


 各々が目測し遠近感を確かめつつ前回の続きの場所に木製イーゼルを移動させていく。


 正樹も木製イーゼルを移動させて前回のデッサンした場所を探しキャンパスを固定させ、指で四角を作ってそこから覗いて構図を確かめた。


 そこへ早坂瞬はやさかしゅんがやってきた。


 早坂は指をカツカツと壁にぶつけている。髪の毛はワックスでかため眼鏡は黒縁。黒いシャツに黒いズボンという黒ずくめの男だった。


 早坂がきたことで正樹はちょっと顔に強張りがでる。


「よう、さっそく描いてるのか?相変わらずデッサンも構図もたいしたことないのな。」


 ニヤニヤしながら煽りにくる。後ろについてくる2人の男は汗をだらだら流し袖でふきまくっている太った佐久間忠さくまただしとゴボウのようにひょろっとした加賀下洋馬かがしたようま


 どちらも早坂の仲間だった。


「こんな絵を描いてて君はどうするのさ。デッサンができない素人でパースも狂ってるし遠近感もオカシイ。なぁ、この絵はおかしいよなぁ?」


「オ、オレもそう思うよ。基礎サボってるんじゃないかね。」


と佐久間は早坂に調子を合わせた。


「この線はオカシイよなぁ。いっちょ、俺が描いてやるよ。」


と、早坂はちょちょいと線を勝手に描いてしまう。当然


「何をするんだ!」


と反論する正樹。だが、


「今、早坂さんが描いた線の方が構図がすっきりしていいよな。」


と加賀下はひょろひょろしながら早坂が描いた線を評価する。


「正樹、お前デッサンすらまともに描けないのに画家なんか目指してんじゃねーよ。才能ないんだから早く諦めた方が人生無駄にしなくてすむと思うよ?」


と早坂は正樹が描いた絵を指さして笑うのであった。


 だが悔しいことにその早坂が描いた線の方が確かに綺麗に描けているというのは事実だった。自分の線よりも強弱のバランスのきいた生きた線。


 早坂はそういう線を描けてしまうのだった。


「さ、さすが美術賞とった早坂さんの線は違うね。」


と佐久間は汗を拭きながら同調しはやし立てる。


 正樹と早坂達は同級生で大学3年生。大学1年生でいきなり美術賞をとり注目されていたのが早坂だった。


「僕だっていつか描けるようになるさ。いつか有名な画家になるんだ。」


と強がってみるが声は徐々に小さくなっていき自信は失われていった。



 正樹は早坂と同じ美術賞に応募して落選しているから実力は悔しいけど、早坂の方が上だと分かっていた。だが、だからといって自分の絵に他人が線を勝手に描くのは許せなかった。



「僕は僕の好きなように描く。ほっといてくれ。」


と早くここからいなくなってくれることを願って叫んだが早坂は正樹を蛇のように追い詰める。


「描きたいように描いた結果できあがった売れない絵に何の価値が?」


と正樹の絵をコンコンコンと人差し指で弾いた。正樹は何も言えなかった。


 心に突き刺さる言葉だった。



 そこへ木崎明美きざきあけみが教室に入ってきて異様な雰囲気になっているのを感じ取る。


 またなのと思いつつ正樹と早坂のところにやってきて


田之島たのしま教授くるから席に戻って。」


と注意する。


 その言葉を聞いて早坂達3人は正樹の場所から離れていき各自の席に着く。

 

 しかし正樹は描きこまれた数本の線をみて拳を握りしめ、消しゴムで跡形あとかたもなくなるまで線を消し続けた。

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