名も無き何でも屋の生い立ち手帳(左編)

万事屋 霧崎静火

Episode1 ~researcher~

 1944年、12月。アメリカ合衆国のとある兵器開発所に、俺は所属していた。





ジャントレール・ハマナーク。それが俺の名前だ。家族や同僚からは…想像つくだろうがジャックって呼ばれる。ちなみに今年の8月20日で俺は30歳になった。なんのジョークからか知らんが同僚からは誕生日プレゼントなんて言われて「ジャックダニエル」を1瓶丸々もらっちまった。ちなみに俺は酒は馬鹿みたいに弱い。





 今日は12月24日。クリスマスってわけで今日、明日は休みを取っていた。1人で暮らす一軒家…。今はあの世にいる親から形見でもらった一軒家だ。ぶっちゃけ1人で過ごすには広すぎるんだが、結婚する気はない。まあそんなわけで今年もクリスマスは1人で過ごす。夜の8時。郊外にある自宅に愛車のシボレーADに乗って帰る。辺りは暗くなってきていた。ガレージにシボレーを停めて家の中に、誰にともなく「ただいま。」と呟き電気をつける。ダイニングテーブルには今開発中の戦車の設計図が広がっている。

「…まあいいや。」

一瞬設計図をどかそうか迷ったがどうせ1人なんだ。無精することにした。ソファに座り、持って帰ってきた紙袋を開く。中身は近所で買ってきたミートパイだった。

「うめえな…。」

そのまま手づかみで食べきる。よく行く店で買ったものだが、相変わらずの旨さだった。口元を拭き、ダイニングテーブルに行く。一通り設計図を眺めまわした。

「…明日でいいか。」

そうつぶやく。設計図の仕上げを明日に回すことにした俺はさっさとシャワーを浴びてベッドにもぐった。


夢を見た。嫌な夢だ。俺は、今開発段階にあるはずの戦車の操縦席に座っている。その戦車はオープンハッチ(天板がなく、上からは搭乗員が丸見えな物を指す。)車両なので、全体的に風通しが良く、外の音がよく聞こえた。…おかしかった。俺は操縦席にいるが、少なくとももう1人、砲手席に誰かいないと発砲できないためわ戦車は機能しない。砲手はいないのか…?しかしその疑問は一瞬で吹き飛んだ。乗っている車両が発砲したのだ。次の瞬間、背後で爆発音がした。

「なんなんだお前…一体!」

言った瞬間肩を蹴られた。誰か分からない、若い女性に近い声が言った。

「早く、…………でしょ?逃げなさい。」

上手く聞き取れなかったが、俺の本能は逃げる行動を取っていた。





また、これだ。同じ夢を見た…戦車に乗って、なぜか砲手席に分からない女性がいる。ここんとこ2ヶ月くらい同じ夢を見ている。ただ確実に言えるのは、時が経つにつれ、俺の脳内で開発中の車両は事細かに現実的になってきているという事だ。2ヶ月前に見た夢だと大半ボヤけていたが、今の夢の中ではギヤ操作からネジ1本まできっちり配置がみえるようになっている。


そんな事を思いながら夢から覚める。既に日は上り朝を迎えていた。ベッドから起き上がり、伸びをする。

「…今日も行くか。」

ろくに朝ごはんも食べていないが、とりあえず職場に向かうことにした。

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