08 - 初めて休みの日に遊んだよ




 ガル塔の食堂のお姉さん達とお喋りしながら珈琲を作ってもらってタンブラーに入れてもらうとまたおやつをたくさん頂いてしまった。


「シャシャちゃん、この間はありがとうね、アイテム凄い助かったわよ」

「あ、使うことがあったの?」

「そうなのよ、包丁で指突き刺してしまった子がいてね、すぐに回復アイテムで治せたわ!」

「3回くらいは使えると思うから、無くなったらまた言って。作ってくるよ!お姉さん達にはいつもおやつ貰ったりしているからね、お礼代わりに」


 回復アイテムの飾りを作って持ってきたんだ。スティック状のアイテムで患部に当ててボタン押すだけで回復魔法をかけれる優れもの。僕の付けているアクセサリーも全部そういうアイテムなんだけれど、紙に出来たら便利なんだよね。

 おやつに珈琲また大量になってしまったそれらをバスケットに詰めてもらってガル塔を出る。


「あ、あ、シャロンさん!私も行っていい?」

「2号室狭いからダメ~」

「ちぇ…」

「メロは仲いい子出来たんだろう?その子達と勉強しなさい、成績見たけれど…このままじゃ村に帰ったら馬鹿にされるよ」

「やっぱヤバイか」

「Cランクも下位だったもんなぁ…僕も努力すればなんとかなったから、なるよきっと」


 いや本当たくさん勉強したからね、僕は。早く村を出たかったし1人で生きていかないといけなかったし。この子みたいに恵まれた環境だとハングリー精神が足りないんだろうな。

 キーラ達も詰所から出てきたので珈琲もらったと伝えると2人も貰ってくると言って各々塔に入っていった。


「メロ、魔力を常に放出するアイテムをつけていると魔力量上がるよ」

「え、死ぬよ」

「僕はそれで魔力上げたからね」

「そ、そんなに、ヤバイ修業したのね…ちょっと試しにやってみる」

「まあ最初は程々にしないと本当に死ぬよ」


 塔に入っていったのを見送りアイテム工房の方へと向かう。途中でウィゼルドとクルミと遭遇した。


「あれ、何しているの?」

「シャシャガル、私も飲み物作ってもらってきたので一緒に行ってもいいですか?」

「え、狭いからダメって今メロも断ってきたんだけれど」

「せ、狭いならバロンドシャルフと隅で小さくなっているので!」


 いや、本当に4人で定員なんだけれどな。まあ1人無理矢理詰める分には何とかなるかなと思ったけれど、ウィゼルドがとっても嫌そうな顔で僕に「断ってくれ」と訴えている。


「作業の邪魔になるからやっぱりダメ」

「何でバロンドシャルフはいいんですか?」

「僕の大切な友人だからかなー」

「シャロン…」

「じゃあとりあえず、僕はもう作業始めるから入ってるね」


 その大切な友人は置いていった。

 作業室に入ると作りかけのアイテムとかを大まかに片付けてお茶やお菓子を広げれるスペースを作り、他の作業スペースに設計図とかを広げる。やっぱり研究施設に行くべきか…これはここ3ヶ月以上試行錯誤して作っているけれど形にならない。スティックとかアクセサリーみたいな特殊金属で出来た入れ物だと中に溜めておけるからそれを放出するきっかけを作れば出来るんだけれど、紙…。

 やっと誰か来たので開けると3人一緒だった。


「バロンド落ちてたから拾ってきたよ」

「落ちてたんじゃなくて絡まれてたのよ、ナージャ」

「まだ絡まれたままだったの?」

「なかなか離してもらえなくてな…」


 優しすぎるのも問題なんだけれどなぁ。それでも彼は突っぱねたりは出来ないんだろうな。

 研究中の僕の座っている横に椅子を持っていったウィゼルドは早々に場所取りして満足そうだな。なんか大型犬みたい。


「またおやつ沢山渡したからって食堂言われたわよ」

「うん、この間アイテム作ってあげたら喜んでくれて、お返しに作ったのにまたお返しされてしまったよ」

「なんのアイテムをあげたんだ?」

「回復魔法の入ったアイテムさ、指の怪我に使ったって喜ばれてね」

「俺でも使えるのはあるのか?」

「勿論あるよ、ウィゼルドにも何か作ってあげようか?」

「いいのか!?」


 嬉しそう。こんなに感情を顔に出すんだ…クルミだって気付けそうなものだけれど…恋は盲目ってやつなのだろうか?

 作業中は大人しく僕の横で自分の武器の手入れをしていたり、力仕事を頼まれるとやっていたりと何だかんだ暇はしていないけれど、いつ体力作りだの筋トレだのってやっているのだろうか?


「ウィゼルドいっつも僕たちといるけれど、道場行ったりとかしないの?」

「邪魔か?」

「いや、鍛えなくていいのかって」

「四六時中一緒にいるわけじゃないからな、合間合間にやっているぞ!シャロンに指摘されない程度には維持しているつもりだ」

「ならいいけれど」

「バロンドって本当シャロン好きだよね」

「大型の犬が懐いているようにみえるものね」


 ほら、2人にも言われた。

 みるみる内に顔を赤くするウィゼルドを見て面白くて笑ってしまった。そこが可愛いんだっていうのにね。

 討伐の仕事はウィゼルドが本当に維持出来ているのか見せてもらおうかって久々に一緒に乗ったんだけれど。なんなら前より強くなっていた。本当、どこでどうトレーニングしているんだ?


 珍しくウィゼルドと休みがかぶった日に珍しくウィゼルドに誘われた。休日に一緒に遊ぶっていうのは…1度もなかったかもしれない。でもさ…渋っていたら寂しそうに「休みの日まで仕事相手に会うの嫌か?」なんて聞かれたらさ、行くって言っちゃうじゃない。

 昼ごはんから一緒にって言うから待ち合わせ場所に着くと、適当な木陰のベンチに腰掛けて本を読んで20分くらい待つ。


「シャロン」

「ああ、もう来たの?」

「まだ15分も前だぞ、約束時間」

「そっくりそのまま返すけれど」

「…そうだな」

「僕は待ち合わせ場所が、読書するのに最適な公園だなと思ったからここで時間を潰していただけだよ…君は?」

「午前中はトレーニング施設で動いてきたのだが、待たせてはいけないと思ってな」

「それにしても早いけれどね」


 早いけれど店に行こうかと本を閉じて立ち上がろうとしたら止められた。そして横に座るウィゼルド。


「少しゆっくりしてから行こう…はい、飲み物」


 そう言って珈琲をくれた。公園の前にある珈琲店のだ。…ってことはもう少し早くついていたんだな。


「正直な、嬉しくて早く着きすぎてしまって」

「これをあそこで並んで買ってくれているってことは5~10分はもっと早くついていたって事でしょ?」

「ああ…」

「並んでまで買ってくれて嬉しいや、ありがとうね」


 それよりも前か。声かけてこなかったのは何でかは分からないけれど、褒められたのが嬉しかったのかくしゃっと笑っている。やっぱり大型犬だな。


「ウィゼルドは何で僕を誘ったのかな?他にも仲良くしている人もいるでしょう」

「うむ、皆とは上手くやれてはいる。だが、休日でも一緒にいたい相手とはまた違う」

「僕といても面白くないだろうに」


 珈琲飲みながら何をこんな卑屈になっているんだかと考えた。一緒にいたい理由なんてわかっているのに…言わせようとしてどうするんだ?僕は…。


「ま、まあ…仲のいい友人だもんね、面白くないわけはないか…誘ってくれて嬉しいよ、僕は!」

「あ、ああ…」


 慌てて言葉をひねり出したけれど…何で僕はこんなに1人で焦っているんだ?休日に一緒に遊ぶなんて、友達なら普通なんだろうな…キーラとも遊んだことあるし、ナージャとも遊んだこともあれば3人で出かけたことだってある。っていうかあの2人としか僕遊んだことない!!


「同性の友達…いたことなかったんだ…僕」

「え」

「っていうかキーラが初めて心を許した友人だし…僕そういえば、友達と遊ぶなんて経験凄い少ないんだった」

「…ははっ、一緒だな」

「そうなの?ウィゼルドってなんか友達沢山いますって感じするのに」

「ずっと修業していたからなぁ…遊ぶといっても弟達とくらいだからな…それもまだ幼いあいつらとだけだった」

「そういえば、その子達ってどういうつながりで弟って言うようになったの?」

「ああ、そいつらの父親がシャルフでな、俺が10になる前に弟子入りしたいって直接言いに行った」

「凄いね」

「そこから一緒にトレーニングなんかをしたり色々面倒見てくれて…その家庭に子供が生まれたんだ…俺が幼い頃から兄妹を面倒見ていたからな。恩返しのような感じだったが…やはり独りだった俺は家族が欲しかったんだろうな…弟達が俺を兄と呼んでくれるようになって…嬉しかったんだ。今では俺も仕送りをその家にしている…母さんのカレンさんはとても優しくてよく家に泊めてくれた…美味いご飯も作ってくれた…親を知らない俺を救ってくれた家族なんだ」

「親を、知らない?」

「ああ、俺は捨て子でな、施設で育った」

「そうだったんだ…魔物に殺された両親を覚えているだけ、僕の方が幸せなのかな」

「どうだろうな…親を知っていて、いなくなったシャロンの辛さは俺にはわからないけれど、きっとそっちの方が辛いと思う…思い出にいるのに会えないからな…俺には思い出も何もない。年子の妹は俺と違い里親に引き取られたと聞いた…今じゃどこにいるのかわからない…記憶にもないくらい昔の話だ」


 家族というものに憧れていたんだ。僕には幼い頃一緒にいてくれた両親も兄もいた、暖かい家庭だった。その記憶が残っているからたまに寂しく思うこともあったけれど。


「じゃあその弟もシャルフになるのかな?」

「素質があればなるかもしれんな…今度休暇を取って1週間程修業がてら戻ろうと思っているんだ!どうやら来年になってからだが、ルイバの騎士団から中央に行くことになったと言うからな」

「そのお父さんが?」

「ああ、それで挨拶がてら…キャルならば1時間もかからず行けるからな」


 結構いい時間になったので店に行こうかと立ち上がり公園を出る。

 この人は今凄いハキハキとしていて、優しい人だけれど…どれだけ泣いて来たんだろう。子供の頃の僕みたいにずっとメソメソしていたのだろうか?


 食事をして映画を一緒に観に行ったり服を見たりとキーラ達とも遊んだコースを一緒に回ったけれど、同性とだとまた感覚が違う。なんだか楽しいな。


「晩ごはんどうしようかな」

「一緒に、行くか?」

「んー僕は…どっちでもいいけれどー」

「あ、先に少し買い物があるんだが」


 そういって止まったのは武器店。そういえば僕もあったなぁと思ってその店に入る。


「俺は掃除用の物を買うからあっちだな」

「僕は小物関係の棚だから反対側だ」


 店内でバラバラに分かれて買うものを探す。武器に備品に魔法道具なども扱っているまあまあ広い店だから大体のものはここで揃う。大まかに欲しい物をレジに持っていくと会計を済ませてウィゼルドが向かった方に行く。


「本当、こんな所で会えるなんて…嬉しいです」

「偶然だな!」

「バロンドさんも手入れ用の道具買いに来たのですね、私もですー今日お休み一緒だったから、なんなら一緒に回れたら、よかったのに」

「トーマスシャルフもか、それはまた偶然だな!」


 なんだ、クルミか…。運悪いな、ウィゼルド。


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