鈍感と鋭いの2人が“愛しい”という気持ちを知っていくけれどなかなか辿り着かないものだ。

鯛飯好

01 - とりあえずアイテム職人として働きます



 新しい季節、僕は学校を卒業し資格も取り晴れて『ガル』を名乗ることが許された。それは17歳の夏だった。

資格を取ったからといっていきなり国の中央にある都市で仕事をするのは無理な話。いくら僕に才能があったとしても、だ。

 とりあえずは自分の出身の村の近くで仕事を探すかなと思い『エ族』の村に帰ってきているが、求人広告なんていうものはこの村には張り出されているわけでもない。


「族長いるー?」

「シャロン、帰ってきたのか」

「うん、ただいまー…資格取ってきたしAランク認定してもらってきた」

「卒業と同時に資格も取り、更には上級ランクまで!!このエ族でもそんな奴いなかったぞ!!流石シャロンだな」


 ランク認定を受けてないとFランクから始まる。ランク認定はガル協会かガルの指導資格を持った人が授ける事が出来るんだけれど、僕はそのまま認定も受けてきたのでガル協会に認められたAランクだ。

 大体の人がまずはEかDスタートらしいけれど、僕の村は魔法が得意っていうのもあり、皆Cスタートが多い。Aに認定されるのは凄いことだというのは知ってはいたけれど実際なってみるとそうでもなかった。


「仕事を探しているんだけれど、2年くらい近場で働きたいんだよね、その間にお金も貯まるだろうし、それから部屋借りればここから通わなくても済むでしょう」

「寮がある所に行けばいいだろう」

「うーん、そうだけれど…近くにはないでしょ?」


 辺境の地ってほどでもないけれど中央からは随分と離れたこの村は自給自足をして暮らしているくらいだ。多少は町から近いっていうのもあり物を作っては売って収入はあるけれどね。その近くの町だって大きくはない。


「1年くらいここで仕事してもいいけれど、お金稼げないでしょ?だから町で働き口紹介してほしいなって」

「シャロンだったらもっと大きな所でもすぐに採用されそうだがな」

「いいの、まずは近場で」


 族長はコネクションが結構ある。なので色んな職場の求人情報を集めるのも難しくはない。2日後にはわかるっていうので僕も就職の支度を始めた。

 自宅に帰ると誰もいない寂しい部屋が出迎えてくれる。

 そう、僕には家族はいない。両親は他界し、兄が遠くにいるけれど連絡も年に数回だけ。1人で生きていくにはお金が必要なんだ。ガルだって色んな装備が必要になるからね。


 ガルというのは魔法使いの中でも上級魔法使いと同じかそれ以上の地位だ。『シャルフ』という『特別騎士』がいて、そのシャルフに魔法でサポートして魔物と戦うのが主な仕事。

 白、青、緑、赤、黒という魔法の種類がありその全てを使え、更に薬学やアイテム作成技術、乗馬や医学など色々な事を勉強し覚え使えなくてはいけない。


 白魔法は傷や体力の回復。ヒーラー職の人、他には医療関係で働く人たちの中にはこれが使える人が多い。僕も勿論使えるが得意というほどではない。


 青魔法は状態異常回復やバリア。これもまたヒーラー職の人、それに医療関係の人は状態異常回復を使える人もいる。僕はバリアがそんなに得意ではないがガルなりたての新人よりは能力は高く硬いバリアは張れる。


 黒魔法は攻撃魔法。これも資格が必要になる魔法で攻撃を主とする魔法。普通に使える人もいるが仕事で使うとなると資格は必須である。僕の1番得意な分野だ。


 赤魔法は物へ対しての魔法付与。例えば武器等に殺傷能力向上の魔法を付与したり、魔物の核を探す探索魔法もそう。自分の武器に魔法付与するのは資格はいらないが、他人の武器へは資格が必要となる。赤は他の職業の人たちも必要なので使える人は結構いたりする。これも僕は得意な方だ。


 そして最後に緑魔法は特殊なものだ。人体に魔法付与出来るのだが、普通の魔法耐性の無い人に魔法を付与しようとしても付かないし下手すれば殺しかねない。人間は魔法で能力を向上させるなんて出来る仕組みをしていない。

白や青みたいに何かを『治す』事は出来るが緑魔法は普通の人では拒否反応を起こしてしまう。

 

 そこでシャルフだ。彼らは特殊なマナコアを持っている。そのコアは空っぽで魔力を生み出す事が出来ない。

生まれてすぐの赤子ですら多少なりとも魔力を帯びているはずが、一切魔力が無い人間が稀にいる。空っぽなマナコアの持ち主の中でも更に少ない特殊な人が『シャルフ』になる資格がある。

マナコアは魔力を練ったり貯めたりするのに使うが、修業や勉強をしなければこれを上手くコントロール出来ないので魔法を使うことが出来ない人間の方が多い。僕の村では幼子からずっと教えられてくるので皆使える。

 シャルフのマナコアは空っぽだけれど、緑魔法を付与するとその空っぽのマナコアに魔力が流れ溜まりそれを自分の身体用にカスタマイズして流すことによって能力向上魔法を定着させるんだ。何倍、何十倍にもなったシャルフの脚力は3階建ての建物もジャンプで飛び越えられるし、大きな岩だって素手で叩き割るようになる。


 僕はそんなシャルフをサポートする仕事にその内就く、はず。最初はどっかの薬師の仕事とかでも全然構わない。1人暮らしがとりあえず出来るくらいの資金を貯めてからちゃんとした所で働くんだ。


 とりあえずまずは今晩の食料の調達に行かないとな…と外に出る。


「アルーシャさん」

「ああ、シャロン君、こんにちは」

「しばらく帰ってない内にお腹凹んだね」

「うん、元気に出てきたわよ」


 そういう彼女は僕の家の隣のリア家の奥さん。その奥さんの横のゆりかごにはまだ小さくて可愛い赤ちゃんが寝ている。


「女の子よ…モルシャっていうの」

「へぇモルシャか…赤ちゃんって小さくて可愛いね」

「起きている時に抱っこしてあげて」

「ふふ、僕ちゃんと抱っこ出来るかな?」

「大丈夫よ」


 赤ちゃんを起こすのも可哀想だから自分の晩御飯を探しにいこうかな。


「じゃあ僕ご飯調達に行かないとだから」

「あ、そっか帰ってきたばかりかしら?家で一緒に食べなさいな、貴方1人分くらい余裕よ」

「じゃあジゼさんにも聞いてくる」

「んもう、私がいいって言っているのに…まああの人もシャロン君に会いたがっていたから顔出してあげて、今日は川の方で漁しているわ」


 挨拶をして川に向かうと旦那さんのジゼさんに声をかけ、僕も漁の手伝いをすることにした。その晩はリア家でご飯頂けたので助かった。


 2日後に族長に呼ばれて仕事の一覧を貰った。すぐ近くの町での仕事ともう少し先の町での仕事もあるな。


「気に入ったのがあったら明後日までに言ってくれれば」

「これ」

「なんだ、もう決めたのか?ちゃんと全部見たのか?」

「見たよ…ここがいい」

「給料で決めたな…」

「まあ僕ならなんとかなるでしょ!」

「なりそうだけれどな…外にまだ商人がいるからそいつに伝えてきなさい」

「うん、ありがとう」


 外に出ると商人を探し、その人に話すと明後日来るときに面接の日取り教えてくれるというのでお願いをした。

 薬師とアイテム作成の工房での仕事だったけれど、すぐに受かりすぐにでも働けることになった。僕の村や学校での薬の知識もトップクラスだったからね。村から片道50分歩いて通勤も近くて楽でありがたい。魔法で走れば20分くらいなものだ。

 まあそんな職場でしっかり給料もらって貯めて2年で本当に辞めてきた。


しかし、夏っていうのは暑くていやになる…呼吸が苦しくなるくらいの暑さの中帰宅すると次の職場と家探しの為に少し離れた町に行く支度を始めなくては。

 まずは族長の所に向かう。


「ただいま族長」

「シャロン、おかえり」

「明後日くらいには家出るんだけれど仕事決まったら家の中身も抜いちゃいから潰しちゃっていいよ」

「は?」

「帰ってくる予定はないから…それに帰ってきたら帰ってきたでちゃんと家建てるからいいし」

「…は?」


 なんとか理解してもらって許しをもらうのに1時間も話し合ったんだけれど。別に僕がどこでどう生きようが勝手な気もするけれど。村の掟がどうのっていうのは「古臭いから僕には関係ないし僕には似合わない」と無視してやった。別に村を裏切るわけじゃないからってことで許してもらえた。


 19歳の夏、僕は新しい職場に就職が決まった。騎士団での魔法使い業務。

 騎士団員の中には何人かシャルフがいるみたいだけれど、僕以外にもガルが何人かいるみたいだしそんなに組む事はないはず。…と思っていたのに初日から威張ってて嫌な感じのおじさんに付くことになった。


「こんなひょろっこくて大丈夫なのか?」

「まあ?ガル…ですし?いいんじゃないですか?」

「それに、Aランクっていうのも怪しいな」

「ガル協会認定なので協会に異議申し立てるならご自由にどうぞ」

「お前、俺を馬鹿にしているのか?」

「馬鹿になさっているのはそちらですよね?僕、仕事はしっかり出来ると思うので無駄話しか出来ない相手なら僕からお断りさせて頂きたいです、団長殿」


 おじさんシャルフの後ろにいた団長にそう声を掛けると、バッと振り返ったおじさんシャルフが驚いている。


「またガルいじめているのかお前は…」

「そ、そんなこと…こいつが生意気ばかり言うから」

「いいえ、言われた事に対して対応したまでです、口ばかり動かして仕事の出来ないシャルフとお見受けしますが、僕のサポート無いと更に仕事出来ないんでしょう?大人しくさっさと仕事に向かったほうがいいかと思いますが?」


 今日はバディ2組での魔物討伐になっている。もう1組は支度して現地に向かって行ってしまっている。


「はあ…なんか凄い子が入ったな…まあ兎に角ガルの新人教育も仕事の一環だ…仲良くしてくれよ…」


 団長はそういうけれど仲良くするつもりなさそうなおじさんシャルフ。僕も別にちゃんと仕事出来て給料出ればいい。


「行くぞ!」


 怒りながら馬に乗ったシャルフ。その前に一緒に戦う馬に挨拶をしないとね。


「初めまして、僕はシャロンです。今日は君に乗させてもらいますのでよろしくお願いしますね」


 挨拶を終えて撫でると目を細めて気持ちよさそうにしてくれる。可愛いな、馬は…罵ってきたり馬鹿にしてきたりしないもんね。

 まあ初めての仕事にしてはしっかりと出来たと僕は思う。おじさんシャルフが思っていた以上に動けなくて驚いたけれどね。


「ちくしょ…認めたくないけれど、お前のランクは正しいな…」

「僕は自分が思っていた以上に動けてない貴方に驚きが隠せません…」


 結局そんな仲良くならなかったけれどいじめられたりする事もなく、なんだかんだでそこから2年くらい一緒に仕事する事となったけれどね。

 ガルとして2年…ここでも頑張ったなぁ。とあっさりと辞めてというか紹介状を書いてもらって更に大きな街での仕事に就いた。


 今度の職場は今までの小さな領地を守る騎士団とは規模が違う。中央に比べたら全然なんだけれどね。



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