2.奴隷の髪を洗った日。(新婚生活5日目)

 

 盗賊の少女を奴隷に調教テイミングしてから「5日目」の夕暮れ。

 あらためて俺は「ここは異世界なんだなぁ…」と実感していた。


「まさか月が4つもあるとは……」


 夕暮れの空がゆっくりと紫色の夜空に染まっていくのを、部屋の窓から見上げる。

 その空にあったのは、青白い光に輝く4つの「月」だった。

 とっても幻想的ファンタジーな風景に、ちょっとばかり感動する。


「お、今夜は雲もないから明るいな」


 俺のすぐ隣に来た奴隷ちゃんが、俺と同じように窓から夜空を見上げる。

 俺が夜空の月を興味深げに見ていたから、気になって見に来たのかな?

 いや奴隷ちゃんマジ可愛いすぎる。

 こんなちょっとした奴隷ちゃんの言葉や仕草が、いちいち俺の心をくすぐる。


 ――あ、今ちょっとだけ俺の腕と奴隷ちゃんの腕が触れた。

 あぁ~奴隷ちゃんが少し照れてる。気づかれてないつもりかな?

 かわいい耳が赤くなってるぞ?


「つ、月が明るいとな、夜行性のモンスターも少し大人しくなるんだ。だから月の明るい夜はモンスターの接近を気にせず、ゆっくりできるんだぞ?」


 早口で喋りながら照れ隠しする奴隷ちゃんマジ天使。


「あれ、つまりそれは――」

「ん、何だよ?」

「今夜は外敵を気にしないでいいから、夫婦の夜のいとなみにはげめるわよ♪っていう奴隷ちゃんからの秘密のOKサインかな?」

「んなわけあるかこのドスケベ…っ//」



 ◇ ◇ ◇



 すっかり日も暮れた頃――

 奴隷ちゃんとの夕食を楽しんだ俺は、のんびりと食器洗いをしていた。


「おいおい、食器洗いなら私がやるから置いとけよ……」

「だ~め。家事はふたりで分担するって決めただろ?」

「……お前、絶対に奴隷の使い方まちがってんぞ?」


 ちょうど食器洗いが終わったので後ろを振り向くと、呆れた表情で俺を見ている奴隷ちゃんがいた。

 そんな表情もかわいいなぁ……あれ、ところでその手に持ってるのは?


「ねえ奴隷ちゃん、それは何を持ってるの?」

「今夜は散歩日和だからな。今から出かけるぞ、いいところに連れてってやるよ」

「え、まさか奴隷ちゃんから野外プレイのおさそ――」

「~~~っ//」 ゲシッ!(←殴る音)



 ◇ ◇ ◇



 ここで一度、俺たちが住んでいる森の地理について簡単に説明しよう。

 俺は現在、元「盗賊」の奴隷ちゃんが森に建てた隠れ家で同棲している。この森は、俺が異世界こちらに降り立った場所であり、俺と奴隷ちゃんが初めて出逢った場所である。姿を隠すのに適した森に、行商などが頻繁に通る街道がいくつも隣接している。要は「盗賊稼業」向けの場所なんだとか。


 そして今、その森を俺と奴隷ちゃんがゆっくりと歩いていた。


「わあ、本当に明るいなぁ……」


 月明かりに照らされた森は、(昼間ほどではないが)足元の小石が見える程度には明るかった。ちぇ、もう少し暗かったら「よく見えないから危ないよ」とか言って、奴隷ちゃんの手をすりすり握れたのに……。


「あれ? 奴隷ちゃん、川に出ちゃったよ?」

「ふふん。ここが今夜の目的地だぜ、ご主人様?」

「え、この川が目的地なの? ただの小さな川に見えるけど――んん?」


 月夜の森に小さな川が流れていた。川の幅だけ木々の間隔が広がるため、見上げれば、川の流れに沿って月夜の空がぽっかりと見える。その月光でゆらゆらと輝いていたのは――うっすらと立ちのぼる湯気ゆげだった。

 思わず川に近づいて手を入れてみる。うむ、温かい。


「これって、ひょっとして温泉?」

「どうだ珍しいだろ~。川底からお湯が湧いてんだ。上流や下流に行きすぎるとただの川水だから冷たいぞ。お湯が適温なのは、そこの木からあそこの岩までの間だな。よし、さっさと入ろうぜ♪」

「これは驚いた、まさか異世界こっちで露天風呂に入れるなんて……」

「喜んでんなら良かったぜ――で、何でこっち見てんだよ?」

「どうぞ気にしないで服脱いでいいよ♪」

「~~~っあっち向いてろバカ…っ//」



 ◇ ◇ ◇



「あぁ~これはいい湯だなぁ~」


 月明かりに照らされた温泉は、不思議と居心地が良かった。

 川のせせらぎと鈴虫っぽい鳴き声が、静かに鳴り響いているのがとても風流だ。

 一糸まとわぬ麗しの奴隷ちゃんが隣りにいたらさらに良かった……何で俺から少し離れているのかな?


 奴隷ちゃんが言うには、もう少し暖かくなると「ほたる」みたいな暗闇で光る虫がこの辺りを飛び交うらしい。そんなロマンティックな光景をふたりで観賞したら、ウットリした奴隷ちゃんと盛り上がっちゃって×××したり×××しちゃったり大変じゃないか。今度絶対に来ます。


 俺が「その頃になったらまた一緒に来ようね」と言うと、奴隷ちゃんは「え? あ、いや、そうだな…べ、別にいいけどさ…」と少し戸惑い、恥じらいながら、けど嬉しそうに返事した。



 この初々しい反応がたまらない。とにかく可愛い。

 ――なんて思った俺だったが、少ししてからその理由に気づいた。



 奴隷ちゃんは幼少期に両親を亡くし、今まで盗賊稼業をしながら生きてきた。

 ずっとひとり暮らしで、たまに会う人間は盗賊稼業の獲物ターゲットか貧困街の盗掘商ぐらいだ。交される言葉は「金を出せ」「死にてーのか」「助けてくれ」「この子だけは許して」「このクソガキが」「くたばっちまえ」「逃がすな」「殺せ」……生きる意味も目的も分からず、盗賊の少女は孤独の中を生きてきた。



 奴隷ちゃんは、誰かと「約束」をした事もないんだ……。



 だから奴隷ちゃんは、何気なく俺が提案した「約束」にここまで喜んでくれたのだ……。


 その事実がたまらなく切なくて、たまらなく愛おしい。俺は、心から奴隷ちゃんを幸せにしたいと、奴隷ちゃんに「人の温もり」をあげたいと思った。

 理屈じゃない。だって俺は奴隷ちゃんを心から愛しているから――



「……奴隷ちゃん」

「んぅ…何だよ…?」



 俺は温泉からザバァと立ち上がると、少し離れたところで湯につかっていた奴隷ちゃんのもとへ歩み寄る。奴隷ちゃんは少しビクッとしながらも……逃げずにジッとしている。

 ちなみに、この温泉はもともと川なので緩やかながら「流れ」がある。タオルを身体に巻いて湯に入ると、タオルが流される恐れがあるので、湯につかる時は裸体推奨である。近づく俺に対して、胸元を片腕で隠しながら恥じらう奴隷ちゃんの可愛さは筆舌に尽くし難い。


「……うぅ、お前、せめて前を隠せよな…//」

「やらせてくれないか?」

「…………は? え…ちょ…何を急に…//」

「俺は奴隷ちゃんを愛してる」

「あ、いや、けど温泉の中でやったらお湯が入っちゃうし…//」

「奴隷ちゃんに、人の温もりを感じてもらいたい」

「ま、待てよ…その、実はまだあそこがヒリヒリしてるから…//」

「いっぱい優しくするから……ね?」

「…あ…うぅ…//」


 奴隷ちゃんは恥じらう様に視線を横に流すと――覚悟を決めたのか、目をギュッと閉じて、胸元を隠していた腕をそっと湯の中に沈めた。くっ、悶絶しそうになる可愛らしさだ。

 俺が奴隷ちゃんのすぐ隣りに腰を降ろして湯につかると、奴隷ちゃんの身体がピクンと震えたのが分かった。いやいや、かわいすぎるから……。



「それじゃあ奴隷ちゃん――」

「…は…はぃ…//」

「――今から奴隷ちゃんの髪の毛を、俺が洗ってあげるね?」

「……はあっ!?」



 奴隷ちゃんが(月明かりだと分からないが)顔を赤らめながら俺を睨みつける。

 俺はニンマリ笑いながら「んぅ~どうしたのかなぁ~俺は(洗髪を)やらせてくれと言ったつもりだったんだけどなぁ~ひょっとして奴隷ちゃんはHな想像しちゃったのかなぁ~?」と少しイジワルする。


 奴隷ちゃんはクギゅ~と顔をしかめて「わ、わざとだろテメーっ//」と言いながら俺にお湯をパシャッとかけた。


 ああ、俺の奴隷は本当にかわいいなぁ……。



 ◇ ◇ ◇



 それから数分後――

 奴隷ちゃんに機嫌を直してもらってから、いよいよ俺が奴隷ちゃんの髪を洗うことになった。

 まず川底に適当な大きさの石2つを縦に置くと、前側に奴隷ちゃんを座らせた。そして、俺は奴隷ちゃんの後頭部が見えるように背後側へと座る。


「髪ぐらい自分で洗えるってのに……何でそんなに洗いたいんだよ?」

「髪の毛ってね、誰かに洗ってもらうとすっごく気持ちいいんだよ」

「…へぇー…」

「それじゃあ始めるよ。石鹸の泡が目に入らない様に目をつむってね」

「ん…」


 俺は日本にいた頃、美容室に行くのが好きだった。

 髪を切ってもらう感触や音も心地良いが、特に素晴らしいのが「シャンプー」だと思っている。頭皮マッサージにもなって、とにかくこれが気持ち良いのだ。何より「自分でやっても味わえない」ところが今回のポイントだ。


 奴隷ちゃんは、ずっとひとりで生きてきた。

 誰かに髪を洗ってもらった事もないだろう。

 この気持ち良さを奴隷ちゃんに贈りたい。

 誰かがいれば手に入った小さな幸せを、奴隷ちゃんにたくさん贈りたい。

 これをその最初の贈り物にしよう――がんばれ俺、美容師さんに教わったコツを思い出すのだ。



 まずは奴隷ちゃんの髪にじっくりとお湯をかけて、丁寧に「予洗い」をする。

 奴隷ちゃんの明るい茶髪(ショートボブ)が、月明かりでツヤツヤときらめく。さらさらの髪は指通りも良くて、洗っている俺が気持ち良いぐらいだ。俺が「奴隷ちゃんの髪はキレイだね…」と褒めると「う、うるせーよ…//」と照れ隠しされた。照れさが隠れてないのがまた可愛い。



 「予洗い」を終えれば、いよいよ次は「シャンプー」である。

 俺は石鹸を手の上で転がし、たっぷりと泡立てる。それを奴隷ちゃんの後頭部から髪全体へと泡で包むように馴染ませる。このキレイな髪を傷めない様に、ゆっくりと丁寧に。

 まずはかゆみを覚えやすいフェイスライン(生え際・つむじ・耳周り・襟足)から洗い始める。爪ではなく指の腹を使って、頭皮を揉む様に、少し体重をかけながら、左右の手を交互に動かしながら、スピード&リズム良く、指圧に強弱をつけながら、下から上へとリフトアップさせながら――


 想像以上の全身運動に、俺の身体中から滝のように汗が流れる。

 だが妥協はしない。俺の奴隷が喜んでくれるなら、どれほど心血を注いでも構わない。俺はこの奴隷の少女を幸せにすると決めたんだ――



 数分後――

 俺は「シャンプー」の締めとしてフェイスライン際をリフトアップさせながら、こめかみを両手でグリンと強めに揉む。すると奴隷ちゃんは「んぅ…」と小さくかわいい声を漏らして――俺の身体に、その小さな背中をトンッともたれかけた。

 おいこら可愛いすぎるぞ! かわいい乳房が丸見えだぞ! まだヒリヒリするとか言われちゃって「おあずけ」状態のこっちの身にもなるんだぞ!


「…ぁ…もう…おわりか…?」


 奴隷ちゃんは上半身を少しひねると、うっすらと瞳を潤ませながら恍惚こうこつとした表情で俺を見つめる。すっごくエロかわいい。


「うん。洗い過ぎると髪が傷むからね」

「そっか…これ…すっげ…きもちーな…ぁ…」

「また今度、温泉ここに来たら洗ってあげるよ」

「ホントか…約束だぞ…?」

「もちろん。こんな可愛い反応されたら、毎日洗ってあげたいぐらいだ……」

「…ばぁか…」


 では最後に「すすぎ」に入ろう。

 俺は奴隷ちゃんに「お湯で泡を流すから目を閉じて…」と耳元で囁く。奴隷ちゃんは小さな声で「…ん」と呟くと目をそっと閉じた。俺は奴隷ちゃんの背中に左腕を回すと、お姫様だっこの要領で上半身を少し持ち上げる。奴隷ちゃんを仰向け状態にしたら、前髪をかき上げる様にして可愛いおでこを出してあげる。そして、温かいお湯を優しく何度もおでこから髪全体にかけていく。泡が残らない様にゆっくりと丁寧に。



 ――よし、これで「シャンプー」は終わりだな。



 ひと息ついた俺は……あらためて、左腕に抱く奴隷ちゃんの魅力に惹き込まれた。瞳を閉じた表情にはうっすらと微笑みがこぼれ、水滴に濡れる肌は艶っぽい。ゆったりとした呼吸と共に乳房がたゆんと揺れる。



 ……ごめん奴隷ちゃん、俺がんばったから少しご褒美くれるかな?



 俺は奴隷ちゃんの頬を優しく撫でた後、細い首筋に手を回して――その小さくてぷるんとした唇にゆっくりと口づけした。

 唇が触れた瞬間、奴隷ちゃんの身体がピクンッと小さく痙攣する。それでも唇を愛撫すると……恥じらいながらも甘く応じてくれた。奴隷ちゃんの口から漏れ出る荒い吐息が耳に心地良い。ああ、気持ち良すぎる。



 しばらくの間、口づけを重ねた後――

 奴隷ちゃんが俺の胸に頬を擦り寄せて、とろんっと大人しくなった。俺は両腕で奴隷ちゃんを包み込む様に優しく抱きしめる。俺が「愛してる…」と耳元でささやくと、奴隷ちゃんは微笑みながら「ん…」と小さく頷いて、俺の首筋に甘えるように接吻キスをしてくれた。くっそかわいい……この娘が好きでたまらない。

 ふたり一緒にいられて、むしろ幸せなのは俺の方かもしれないな……。



「なぁ、ご主人様……よるのいとなみ、しないのか?」

「無理しないでいいよ。まだヒリヒリしてるんだろ?」

「ん…もうなおった…」

「またヒリヒリしちゃうよ?」

「……べつにいいぞ」

「んあぁ~もうかわいい奴隷ちゃんがわるい!」

「あぅ…//」



 それから俺たちは、夜空を眺めながら、もう少しだけ温泉を楽しんだ――。



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