第10話

 とうとう、わたくし、15歳になりましたの。うふふ、今日は、わたくし、一人でお出かけすることにしましたわ。一人でも大丈夫なのかですって? そうですわね。わたくし、あまりスポーツが得意ではありませんけど、25mを1秒ぐらいのペースで今は走れますから、大丈夫かもしれませんわね。もちろん強化魔法を使用しておりますわよ。


 なぜ、わたくしが、お出かけするのかと言うと、ベアードさんが、お世話になったスラムの子供たちがいたでしょう。だから、親元さんに、今までのお礼に伺おうかと思いましたの。


 はぁ……本当は綺麗な装いで伺おうかと思ったのですけど……ずいぶん汚れてしまったわ。


 この水色のワンピース、お気に入りでしたのに残念ですわね。ドス黒い赤に染まって、もう残念でなりませんわ。仕方がありませんわよね。わたくしを襲おうとするんですもの。おかげで、スラムの人達、ほとんど殺しちゃったわ♪


 さてさて……、


「ねぇ、正直に答えてくれないかしら、スラムの王さん、もってる情報を、うーん、そうね、あなたの全てをよこしなさい」


 机の上に男を寝かせ、手錠とロープで固定し動けなくしている。


 もちろん、私の手には包丁が握られている。


 だって今からお料理をはじめるんですから、当たり前ですわよね。

 

 この食材が誰かって?


 ローランが表社会のボスなら、この人が裏社会のボス、スラムの王さん、彼の本当の名前は、まだ分からないのよね。教えてくれませんから、ほんと困った人よね。


「女の皮をかぶった悪魔が、ぺっ!」


 彼がわたくしの頬に唾を吐いてきたわ。


 本当に活きのいいお肉ですわね。


 さっさと、ぶち殺してヤりたいですわ。


「酷いわ、わたくし、あなたのせいで、たいへんな毎日を送っているのよ。日中夜問わず大量のお肉が贈られて……、初めは嬉しかったわよ。でもさすがにお休みが欲しくなってきたわ。ねぇ、ベアードさん」


「きゅるぅ!!」


「そうよね、ベアードさんもはやく最終段階に進化したいですわよね。だからあなた、A級のお肉はもう飽きたの。無駄金使う暇があるなら、エリスみたいな最高級のS肉を贈りなさい。ねぇ、聞いているのかしら? だから、さっさと、吐きなさい」


「ふん、貴様のようなアソコが腐った匂いのする雌豚に誰がしゃべるか」


 ザクリッ!!


 彼の右手首に向けて包丁を落としてやった。


「うぎゃあああああ!!」


「ごめんなさい、手が滑ったわ。この程度の痛みで声をあげるだなんて、あなたって、まだまだよね、100回ぐらい死んでみるといいわ、そのうち、何も感じなくなるから♪」


「きゅるぅ!!」


 ベアードさん、どうしたのかしら、急に声をあげて、あらあら、落ちた手をじっと見て、お腹がすいているのかしら。


「あんなにいっぱい、食べたのに困ったベアードさんね、いいわよ、お食べなさい」


「ガツガツゴリゴリ」


「お、おれの手が、や、やめろおおおおお!!」


 スラムの王さんのアジトは、お掃除がたいへんそうよね。だって、壁に大量の血がしみ込んでいて、地面には血の跡と血しぶきが大量についているのよ。


 生臭い血の匂いが充満して、常人が見たら、阿鼻叫喚してしまいそうよね。


 わたくしみたいな、繊細で敏感な神経を持った人間でも、これはちょっといただけないかしら。


 でもアジトにいた人、みんな、ヤっちゃったから、仕方ないわよね。


 死体の数が少し減ってしまったのはベアードさんが食べちゃったから、ほんと、食いしん坊さんね。


 あとは、わたくしの火の魔法で黒焦げになってしまったか、残っているのは安物のお肉ぐらいしかないのよ。


 最近のベアードさんはグルメだから、B級以下は食べないのよね。


 王さんの顔色が悪くなってきたわ。さすがにここで、出血死させるのもダメよね。

 

 わたくしが彼の右手首に向けて手をかざすと、


『ヒール』


 淡い光に包まれて出血が止まった。


 これが土魔法の初級よ。


 わたくし、慈悲深いから傷口を塞いであげたのよ。でもね、再生魔法じゃないから、手はなくなったままだけどね。


 こうやって、お肉達に毎日、火の魔法と回復魔法の練習をしているから上達が早いのよ。わたくしって努力家よね。


「まだまだ、切るところがいっぱいありますから、話したくなったらいつでもいってくださいね、うふふ」


 わたくしは微笑みながら、彼の左手首に向けて包丁を落とした。

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