第9話

 14歳になったわたくしは、身体が成長し胸も大きくなった。


 今のわたくしはアリシアちゃん~♪


 ではなくアリシアさんである。


 皮肉にもローランに呼ばれる回数が増えてしまった。あなた、ロリコンじゃなかったのかしら?


 おかげで洗礼のミミズ箱もランクアップし、遅行性の毒が入ったお菓子や飲み物、毒草までいただけるようになった。今までは子供だから見逃してやった、もう容赦死ない、ヤってやると言うことらしい。


 黒くなったベアードさんは、それはそれは美味しそうに毒物を平らげていた。


 たまにドス黒いオーラが出ているのだけど、気にしないことにするわ。


 ベアードさんはとっても優しい子なのよ。


 深夜、わたくしを起こさないように、物音を立てず、暗殺者を食べてくれるの。偉い子よね。それとね、わたくしにデザートをお裾分けしてくれるのよ。


 見てくださるこれを、暗殺者の目玉、枕の側にそっと置いてくれたの。


 でも、ごめんなさいね。


 これはさすがに、わたくし、食べられないわ。


 火の魔法で焼いて、ベアードさんのお菓子にでもしようかしら。


 ベアードさんは、顔が怖いけど心はとっても優しいドラゴンなのよ。


 見た目だけで判断してはダメだからね。


 ベアードさんの身長は、20mぐらい? 子供がとっても大好きなのよ。


 あれは、たしか、わたくしが、スラムに置き去りにされたときかしら……


★★★


 今日もローランに夜伽の世話を言いつけられて宮殿へと向かうことになった。


 迎えの馬車から降りると、あら、ここはどこかしら?


 スラム街?


 スラムの子供たちが、わたくしの前に姿を現し、逃げられないように囲みだした。


 もちろん、馬車はそのままわたくしを置きざりにして走り去ったわ。


 今日はミミズ箱ではないみたいね。


 ベアードさん、今日はお肉の日よ


 良かったわね。


 彼らの年齢は8歳から12歳ぐらい、わたくしより年下みたいだわ。


 彼女が言うには、小説の世界だけにイケメンだらけだそうよ。スラムの子供たちも顔のスペックがかなり高く、ローランは、規格外のブ男だそうよ。


「うわ、このねぇちゃん、すっげぇ、めちゃ、このみだ」


「ころすの?」


「でもぼすのめいれいだよ」


「ねぇちゃん、ごめんな」


 顔はいいけど、口がとっても悪い子たちね。


 ひぃ、ふぅ、みぃ、数え切れるだけで10人以上いるわ。


 彼女が言うには寝たキャラ、アリシアさん、スラムでイケメン、ショタ、輪姦ENDに突入してしまったそうよ。ショタ好きにはご褒美かもしれないけど、私たちにとっては最悪ね。


 さて、どうしようかしらね


 説得してみようかしら?


「ねぇ、おねぇちゃん、このまま帰ってもいいかな?」


「だめだよ」


「そうだよ」


「いまから、おねぇちゃんでぼくたちがあそぶんだからね」


「うんうん、おねぇちゃん、ぼくらが、とっても、きもちよくしてあげるよ」


「あはは、そうなんだ、だめよね」


 説得はだめみたいね。


 どうしましょう、困ったわ。


 こんな時はベアードさんに聞いてみようかしら。


 なになに、今回はロリコンどもじゃないから、どうしていいか、分からない。


 そうよね。困ったわよね。


 だから、子供たちと追いかけっこがしたい?


 そうよね、ベアードさんも生まれて1年ぐらいだから、遊びたい年頃よね。


 分かったわ。ベアードさん遊んでらっしゃい。


 夕飯までには帰ってくるのよ。


「ねぇ、僕たち、お願いがあるの、あそんでくれないかしら」


「いいよぉ」


「ぼくたちのアジトに、おとなしく、ついてくるんならね」


「いいことして、あそんであげるよ」


「ありがとう、遊んでくれるそうよ。良かったわね、ベアードさん」


 わたくしは地面に手をかざし、召喚魔法を唱えた。


 地面にドラゴンの紋様が描かれた魔法陣が現れ、


「グァァァァァァァァァァァオ!!」


 そこから、ベアードさん(ドラゴン黒)が現れた。


「ぅわああああ!!」


「なんだよ、これ」


 ベアードさんは、ドシンドシンと地面を踏み鳴らし、一人の少年を睨みつけると、追いかけっこをはじめた。


 あらあら、ベアードさん、大はしゃぎね。


 鬼ごっこが楽しいのかしら。


「うわあああ、たすけてえええ」


「おまえ、ついてくるなよ」


「そうだ、あっちにいけ」


 子供たちは、恐ろしさのあまり絶叫をあげ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「あらあら、ベアードさん、あんなに喜んで、はしゃいで、楽しいのね」


 数秒たらずで、ベアードさんが一人の少年を口で咥え捕まえてしまった。


「ベアードさんもう捕まえたのね。すごいわ」


 わたくしは感動のあまりパチパチパチパチと拍手してしまう。


 そしてーー


「バリバリガツガツ」


「うわああああああ!!」


「あらあら」


 ベアードさん、実はお腹がすいていたのかしら。食いしん坊なんだから。困ったベアードさんね。


「バリバリガツガツ、バリバリガツガツ、バリバリガツガツ、バリバリガツガツ、バリバリガツガツ」


 そして――、


 さきほどまで、無邪気に鬼ごっこをしていたスラムの子供たちは、誰一人いなくなった。


「さて、そろそろ帰ろうかしら、ベアードさん、今日もご機嫌ね」


「きゅるぅ~♪」


 ミニドラゴンに戻ったベアードさんは、羽をパタつかせて、ご機嫌だった。


 今日の夕飯はなにかしら、わたくしもお肉が食べたいわね。

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