第7話

 今日も、ふわふわの高級ベッドの中だった。奴隷のわたくしが、どうしてこの宮殿にいるのかしらね。今日もまたローランに別邸から宮殿に呼び出されたのだった。


 わたくしは奴隷で、一か月に一回だけのお相手でいいはずなのに、1週間に一回はローランと寝ている、というか襲われている。きっと、わたしが教えてくれた寝たキャラ、ありしあさんの呪いだと思う。もちろん、さっきまで襲われていたわ。


 わたくしは3年前、最初の夜伽の報酬として、ローランに魔導書を買ってもらった。


 初級の魔導書をね。


 ローランの奴隷になってから3年、地道に魔法の基礎を覚えた。


【属性魔法】

 火の初級魔法 ファイアボール 火の玉を飛ばす魔法

 水の初級魔法 ウォータボール 水の玉を飛ばす魔法

 風の初級魔法 ウィンドカッター 風の刃を飛ばす魔法

 土の初級魔法 ヒール 傷をいやす魔法


【無属性魔法】

 肉体強化 収納魔法 


 光の魔法はヒロイン(ナーシャ)様専用で魔物に特効を与える攻撃魔法だそうだ。もちろんわたくしには覚えることができない。


 初級魔法は鍛錬を積むことで詠唱速度が速くなり、無詠唱で唱えることができるようになる。魔導士が何年もの年月をかけて修行することで、ようやくその域に達することができるそうよ。威力は魔力に応じて上昇していく。魔力は、地道に魔法を使用するか、相手から奪うことで上げることができる。


 相手から奪う方法、それは魔力の高い者の肉を食らうこと、さすがに人間のわたくしにはできないでしょうね。魔物専用なのかしらね。


 王国を火の海にしてやりたい、あの悪魔どもを燃やしてやりたい、常日頃からそう思っている、わたくしは火の魔法に適正があり上達が早かった。だから、属性魔法は火の魔法だけを覚えることにしたわ。


 わたくしが最も重視する魔法は強化魔法よ。


 強化魔法は極めれば極めるほど、肉体が強化される。


 人によっては肉体の強さが10倍ぐらいまで跳ね上がるそうよ。


 収納魔法は、異次元空間にアイテムを保管したり出したりできる魔法で、わたしが言うには、魔法少女がコスチュームに着替えたり、杖を召喚したりなど、特撮ヒーロが、どこからか剣を取りだしたりなど、たぶん、それらに似たような魔法だと言っているわ。


 収納できる個数と大きさは魔力で決まる。

 

 いまのわたくしでは、ディーナが残していった形見の包丁ぐらいしか出せない。


 詠唱時間が長い中級、上級魔法は必要ない。


 仲間のいないわたくしには、0コンマ何秒でも敵に隙を見せたりしたら命取りになる。

 

 エタニティ王国の伯爵令嬢だったわたくしは、こういったものを買う事が許されなかった。女に剣は不要、後継ぎを生むだけの存在、男の飾りにすぎない、主人の言葉に、はいと頷くだけでいい。あの国は男尊女卑の激しい国、だから自由恋愛なんて夢物語だった。


 まだこのイザーク王国は女性の立場は良くも悪くもない。商才がないものはただ奴隷に落ちるだけ、実力主義だった。今のわたくしはその最下層にいるのだけどね。


 奴隷のわたくしに魔法を覚えさせて、大丈夫なのか? と思われるもしれない。奴隷の血判状の効果で、主に反抗することはすなわち死である。だから、ナニをされてもロリコン野郎様に服従しなければならない。


 それにエリスの事前報告もあって、わたくしの戦闘能力が高いことも知らされている。わたくしは戦闘奴隷、兼、愛玩奴隷として可愛がられているそうよ。


 戦闘技術と美しさだけでなく、魔法の才能も認められて、ローランは魔法の家庭教師をつけてくれた。奴隷としては破格だと思う。


 彼がわたくしに飽きて処分するとき、奴隷市場で高く売りつけることもできる。それを見越してのことだと思う。彼は曲がりなりにも商人だから。


 だけど、わたくしが、あと2、3年で死ぬことを彼は知らない。


 血塗られた冒険書の呪いで殺すと決めた相手を殺さないかぎり、わたくしが処刑された日を過ぎてしまうと心肺が停止し、わたくしは死んでしまう。そして、復讐を誓った5歳のときに、時間が戻ってしまう。


 王国を火の海に沈めないかぎり、わたくしは、時を進めることができないのよ。


 ねぇ、ローランとその部下たち、待ってなさい。


 わたくしの復讐の最期の日、あなたたちに最高のエンディングを用意してあげるわ。


 わたくしの隣で眠るローランに、満面な笑みをみせた。


 そして、朝になった。


 もう、消えてしまいたい。


 わたくし、今すぐ、こいつを殺して死にたいわ。

 

 気持ち悪くて、吐きそう。わたくしは彼の欲望の塊を必死に飲み込んでいた。大量の欲望の塊を飲み込んだせいか、わたくしは強烈な嘔吐感に襲われた。それでも我慢する。


「げほっ、ごほっ、あ、ありがとうございます、だんなさま」


 今日の朝は非常に運が悪かった。ベッドから目覚めたとき、ローランがわたくしを抱き枕にして寝ていた。なぜ、ロリコン野郎様がこの時間にいるのかしら?


 普段のローランは朝早くから商会に赴くため、目を覚ましたときは、ベッドの中にいるのはわたくしだけとなるはずだった。


 ベッドから目覚めたわたくしを持っているのが、宮殿のシェフが腕によりをかけた朝食、それが、どうしてこうなったのかしら?


 なのにローランへの朝のご奉仕が追加されてしまった。これからもするようにと言われた。わたくし、今すぐ死にたくなったわ。


 豪華な朝食も取る気が失せてしまうぐらい、濃厚なたんぱく質が含まれた白いミルクをたくさんガブ飲みさせられたから。


 朝の唯一の楽しみを奪われてしまった。


 殺意を覚えた。


 もうこいつ、今、ヤってしまおうかしら。


 ご奉仕後、すっきりさわやかな顔をしたロリコン野郎様から一冊の魔導書を受け取った。


「ありしあよ、ほれ、お前が欲しがっていた魔導書じゃ」


 それは召喚魔法の魔導書だった。


 最悪の朝が最高の朝になった。

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