第3話 

 あれから私は……150回の死を迎えた。


 -side 悪役令嬢アリシアちゃん LV150


「うぐぅっ……!」


 私は……さるぐつわに目隠しをされたまま、どこかの倉庫に運びこまれている。扉の開く音がした瞬間、突き飛ばされた。相手のなすがままだった。わたくしは拘束の首輪をつけられ、手錠をはめられている。


 どうして、わたくしが、このような場所にいるのか……


 それは兄オーガストの代理として参加したパーティの帰り道に起こったのだった。


 迎えの馬車で屋敷に戻る途中、わたくしが最も信頼していた女性。この国では珍しい黒髪に黒い瞳をもった、5歳年上で笑顔がとっても似合う姉のような存在。幼少時代からわたくしを支えてくれた専属メイドのエリスも、わたくしを裏切ったのだった。そう……彼女もわたくしを裏切った、裏切った、裏切った。


☆☆☆☆


 馬車に乗るのは、わたくしとエリス、それに、わたくしが鍛えあげた御者を含む腕利きの護衛三名だった。


 復讐を達成させるためにも仲間が欲しかった、5年前、奴隷市場から彼らを引き取り戦闘訓練を積ませたのだけど、予想外のでき事がおこってしまった。わたくしの馬車が森に入ろうとしたときだった。


 エリスによる突然の奇襲で、わたくしたちは、なすすべなく倒されたのだ。


 馬車の中で倒れているわたくし達を、エリスが一人ずつ担いでどこかに運びだしている。最後にわたくしを担いで、森の奥へと連れだした。


「…………ぅぐっ」


 そして、わたくしは地面に投げ捨てられた。わたくしは地に伏せたまま、ニンゲンだったモノを呆然と眺めていた。


 エリスは、表情をかえず護衛たちの死体、それらを肉斬り包丁のようなもので細かく切り刻み、処理していた。


 あなたが、まさか、このような形でわたくしを裏切るだなんて、あなただけは信頼しようと思ったのに、結局、信じられるものは、自分自身の力だけしかなかったんだわ。


 わたくしが育てあげた護衛三名が、あっけなく彼女に殺されてしまい、貴重な5年間が無駄になってしまった。味方を作るにも、わたくしの命がつきる10年間だけでは厳しすぎる。

 

 バラバラに解体されてしまった護衛たちの肉片がそこら中に投げ捨てられ、赤い水たまりになっていた。


 この森は死体処理にはかかせない場所だった。


 わたしが言っている。


 飢えた魔物や獣がゴロゴロしているから、きっと、肉片一つすら残らないわね。これでも、体術にはかなりの自信があったのに、こうもあっさり負けるだなんて、まだまだ、修行が足りないのかな。もう少し、鍛錬できる時間があればいいのだけど、社交界に関してはあなたに任せきりなっているけど、なかなか時間が取れないのよね。


 わたくしに代わる。


 エリスが使用していた魔法のようなもの。肉体を何倍も強化する魔法を使うことができれば、さらに上を目指せるかも知れないわ。


 足音が近づいてくる。


 とうとう、わたくしの番かしら。


 わたしに変わる。


 逃げるにしても、身体がピクリとも動かない。これはもう、完全に詰んだわね。


 エリスによる突然の奇襲。馬車の中で油断しきっていた、わたしと護衛たち……


 エリスがメイド服に忍ばせていたナイフで、護衛二人の首が掻き切られ死亡、異変に気付いた御者はナイフを頭部に打ち込まれ死亡、隣りにいた私には首筋を狙った手刀、それを避け、エリスに一撃をくわえたことで、眉間にシワをよせたエリスが、強化魔法まで使い、殴る蹴るして、私を瀕死寸前まで追い詰めるとか、幼児虐待もいいとこ、あばら骨、ぜったいに、折れてるわよ。それ以外にも手足があられもない方向に曲がってるんですけど、逃げられないように、ここまで徹底的にするだなんて容赦がないよね。


 またわたくしに代わる。


 足音が止まった。


 わたくしも彼らと同じようにバラバラに解体されて餌にされるのかしら。


『ほんと、どうせなら、一思いに殺してほしいわね』


 ああ、わたくしのドレスが……脱がされていく。下着まで……、酷い、裸にされてしまったわ。


 わたくしの衣服が血だまりの中にすべて捨てられてしまった。ドレスが水色から赤色に染まっていく。


 あのドレスは、わたくしのお気に入りでしたのに、うん、なにかしら?


『首に冷たいものが、ジャラジャラとした音がする。ああ、あれだよね。思い出したくもないんだけど。』


 この感触は、やっぱり。


 行動不能にする拘束の首輪ですわね。絶対に逃さないように徹底していますわね。


『次はきっと、アレがくるね』


 親指にチクリと痛みを感じた。


 意識が混濁している中で本人の意志もなしで奴隷の血判状を無理やり押し付けるとか、エリス、あなた、まさに外道の極みですわ。


『うーん、なるほどね。護衛に裏切られた私は、森の奥まで連れ込まれ、そこで偶然、魔物に襲われて皆殺しになったという筋書きかな。』


 これから、どうなるのかしら、また奴隷市場にでも売り渡されてしまうのかしら。


『ああー、5年間の奴隷生活か、今回は結構長いね。誰に買われてしまうのかな。出来れば優しい人がいいな』


「これで完了のようです。驚きましたわ。私が手加減できないなんて、お嬢様がここまでお強いとは知りませんでした。本当に残念です。お嬢様が奴隷市場に興味をおもちにならなければ、そう、あの方の目にとまらなければ……、お嬢様、これから異国の地で、さるお方の奴隷となって頂きます。あちらの国との友好の架け橋として、この国の王も、お嬢様のお父上もたいへん、お喜びになっておられるようです。大丈夫ですよ。お嬢様なら可愛くおねだりすればきっと、可愛がってくれますから」


 ほんと、ご忠告感謝しますわ。そういった行為も慣れたくはないけど、もう慣れてしまったわ。


 異国の地で強制売春させる、この国の王も、お父様も、あなたも、いつか必ず、殺してさしあげますわ。


『あっ、だめ、もう限界かも……、たぶん、これは寝たキャラ、ありしあさん、ロリコンおっさんハーレムEND確定かもね』


 次はもっとうまくうまくやりますわ。


 私達は目蓋をゆっくりと閉じた。

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