第4話 私はヤられる前に騎士団長の息子をヤル。

 フルボックは最後の閉めとして、彼女に最後の言葉を投げかける。


「お前の罪がこの場で全て暴かれた、何か異論はあるか」


 そう言って、アリシアに目を向けるフルボック。


「……何も言わないか」


 やはりアリシアは無言のままだった。そこで、フィナーレを迎える。


 ナーシャがアリシアに問いかける。


「どうして、私に、このようなことなさったのですか、アリシア様」


 彼女は転生者なのだろう。身体震わせ涙ぐむ仕草の裏にはヒロインとしての悦が入っていた。自分はヒロインであり彼女は悪役令嬢、ルートにそって歩けば自分はハッピーエンドを迎えられると思っていたのだ。


 だが、無言を貫くアリシア。


 たまらず、フルボックが割って入る。


「どうした、ナーシャが聞いているのだぞ、答えろ」


 しかし、それでも、アリシアは無言のままだった。


 フルボックは握りしめた拳を前に出し怒りを現した。


「その態度はなんだ、婚約破棄だけですまされると思うな、お前のような心の醜いヤツはこの国には必要がない」


 フルボックの怒りを含んだ言葉が会場全体に響き渡る。なによりも権力が一番高い王族の言葉である。熱が伝導していくように、会場にいる者達から、罵声が上がり始めた。


「そうだ、そうだ、そんなやつ追放してしまえ」


「いっそ、罰をあたえてしまえ」


「この国から出ていけ!!」


 出て行け! 出て行け! 出て行け! 出て行け! 出て行け! 出て行け!


 会場内はアリシアを弁護する味方はいない。アリシアは悪で、自分たちは正義なんだと思っている。


 悪役令嬢アリシアに正義の鉄槌を行ったと思っている王子達、それにヒロインを演じきったナーシャ、このままベストエンディングになるはずだと思っていた。


 だが、しかし、無言を突き通していたアリシアの口が開いた。


「あの~」


 先ほどまで喧騒だった中、彼女の声で場内が静まる。


「これで終わりですよね? そろそろ、わたし、ヤっちゃってもいいですか?」


 アリシアは相変らずの無表情だったが、その声に僅かに悦びのようなものを感じた。フルボックはそんな彼女の声を今まで聞いたことがなかった。


 だがなにを今更口を開く、声をだそうが無駄だ。アリシアの不敬な言葉に血がのぼる。


「不敬にもほどがあるぞ、今のお前は、もうこの国にはいらない、この国の汚物だ。何がやっちゃってもいいですかだ、やれるものなら──」


 アリシアはその言葉を待っている。とっても待っていた。


ってみるがいい──!、お前は、その場で首をはねられるだけだ」


 アリシアは──


 花が咲くように笑った。


「ヤっちゃっていいんですよね。今から本当にヤっちゃってもいいんですよね、ここにいる皆さんも異論はありませんよね」


 無表情だったアリシアが、可愛らしく嬉しそうにしていたのだ。まるでお花畑を歩く可憐な少女のように、そうこの場ではあまりにも場違いだった。


「誰も何も言いませんね。よかったぁ、ありがとうございます。もう我慢しなくていいんですよね、うふふ……」


 先ほどまでの嘲笑や怒り、蔑みなどに包まれていた空気が一転する。皆が呆然とする、まるで一瞬、時が止まったかのように、彼女を見ている。


 アリシアは子供がおもちゃを与えられたかのように笑っている。


「お、お前は、気が狂ったのか?」


 フルボックの言葉に、アリシアは顔をぷんぷんさせる。今までにない表情を見せていた。


「失礼ですね。狂っていませんよ。わたし、5歳の頃、先輩達に時の挟間で何千年も鍛えられましたが、狂わなかったんです、ヤリマンとして認められたんです。そう猫の穴では至極真っ当な部類なんです、わたし、いきなり何も言わず、先輩達のようにヤったりしませんから。あは、ヤルときは、エンターテイメントのようにして華麗にして、私なりのイベントを発生させて盛大にヤルほうが好きだから、ここまで、うーんと、ヤリ禁して我慢してたんですぅ」


 アリシアは、えっへんとポーズを決める。これがアリシアではなく、どこかの令嬢であれば、すっごく可愛かったのだろうが、この場ではあまりにも不自然だった。


 フルボックに困惑の色が見えてきた。


 アリシアは常に無表情で血の気のない顔をしていた。ただ人をじっと恨めしそうに見てキミの悪い幽霊のようだった。


 フルボックは、アリシアのこの表情豊かな言動を初めて見たのだ。


 フルボックは、アリシアの言動が何を意味するのか、思案するが今はその時ではなかった。


「さっきから下らんことを言っているが、お前の罪は、もうなくならないのだぞ」


「あはははははは、最高、爽快、ヤり放題~、これよりイベントを開始しま~す♪」


 ただ一人喜んでいるのだ。

 フルボックは眉間に皺をよせる。

 今のアリシアには人間の言葉が通じない。


「貴様あああああ!! さきほどから、殿下に対して、無礼だぞおお!!」


 そこで、騎士団長の息子ササレタが怒りの形相でアリシアを組み伏せようとするのだが、ササレタの視界が急に切り替わる。絨毯のカーペットしか見えないのだ、


「はえ?」


 ササレタの首が地面に転がっていた。切断部分から血が噴き出てくる。場内に悲鳴とどよめきが広がっていく。突然何が起こったのか分からない。


 フルボックは唖然としたままそれを眺めていた。しかし、その中で一人、恍惚な笑みを浮かべる者がいた。


「あははははは、ササレタ様、私の首じゃなくて残念でしたぁ~♪」


 アリシアだった。

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