幻獣戦争〜人類滅亡へのカウントダウン〜[二章完結]
ケンシンゲン
第一章 希望の翼
プロローグ
熱帯地域特有の激しい雨が、小さな無人島を、沈めるような勢いで、降りつけている。鬱蒼と生い茂る木々は、葉を雨に激しく叩かれ、沼のようになった地面に、その根を露出させている。
そんな悪天候の下を、二人の少年が駆けていた。ずぶ濡れで泥んこになっていたが、足元の悪さにも、吹き荒ぶ嵐にも負けずに走っている。
「急げ、
前を行く黒髪の少年が、後ろを走る白髪の少年に叫ぶのが聞こえる。
「おおっとぉ!」
勝志と呼ばれた少年は、一瞬、木の根で足を滑らせたものの、素早い身のこなしで体勢を立て直し、後に続いた。
二人は岸に辿り着くと、泊めていた小さな漁船に乗り込む。素早くエンジンを掛け、千切れそうな係留ロープはいっそ千切り、荒れ狂う海へと出発した。
船は、船体が隠れる程の高波に激しく揺さぶられながらも、嵐の海を突き進んで行く。
黒髪の少年が、上着のポケットからこの辺りの海域の地図を取り出した。次の島へは、船が迂回しなければならない危険なエリアがあったが、彼は構わず最短ルートへ舵を取った。
「この雨で軍やハンターは捜索に出られないだろうね。それに、
少年は自身の黄色の双眸を、爛々とさせて言った。
「幻獣を見つけ出すのは僕らだ!」
――――――――――――――――――――
希少生命体―
学校は運良く夏休み。宿題や家の手伝いはあったが、彼はそんなモノ全てすっぽかし、友人の勝志と共に、引退した漁師の船を借りて、嬉々として海へ出た。
既に幻獣は、軍が追跡し、カネ目当てのハンターも狙っている。しかし、少年は、彼らよりも先に、幻獣に辿り着く自信があった。
この辺りの海には幼少の頃から出ていて、誰よりも詳しい。島の位置はもちろん、幻獣が隠れるに適した森や洞窟にも、見当が付いている。それらを調べていけば、必ず見付け出せる算段だ。
計画は、やや無謀でリスキーだったが、少年は危険な冒険にこそ、胸を躍らせてしまう性分だった。
雨は益々、激しさを増し、波はうねりを上げて船を襲う。どんなに腕のいい船乗りであっても、転覆は免れない状況だ。
しかし、少年達は構わず船を進める。
「おっと! ……まぁ、いいか」
波に隠れた岩礁が船体を擦ったが、元々ボロ船なので傷の一つや二つ増えても、年寄りには分からないだろうと、少年は気にしない事にした。
そろそろ危険なエリアだ。今のような暗礁が至る所にある。少年達はより
海育ちとはいえ、特別な知識や技術を二人は持っていない。寧ろ、そういったものがあれば、こんな海には出ないだろう。
少年達には、こういった危機的状況になると、不思議と
この奇妙な能力を、少年達は、幼い頃から無茶なことばかりしているから養われた、即ち、経験則だと認識していた。
しかし、残念ながらこの才能が、二人をより無茶苦茶な行動に誘っているとは、夢にも思っていなかった。
危険エリアを無事突破し、目的の無人島の探索を行った二人だったが、夜になると流石に休息を取った。
嵐を凌げる洞窟に駆け込み、焚き火を熾して服を乾かす。持ってきた食料が尽きてしまった為、少年達は少年らしい話題で空腹を紛らわせた。
勝志が言う。
「大体は白だよなー。……たまに水色やピンクのやつがいるけど」
「カレンみたいにね」
クラスメイトのことだ。漁師の娘で、焼けた肌に白いランニングシャツが似合う、気立ての良い性格をしている。
夏休みの初め、父親の漁船の掃除を手伝っていた彼女に、水を掛けて悪戯したことを少年は思い出す。
「ちょっとぉ、透けちゃたでしょー!」
―とかなりご立腹だった。
「あの日は魚が貰えなかったな……」
食いしん坊の勝志が、余計なことも思い出してしまった。
結局、女子の下着の話だけでは、勝志の腹の虫は鳴り止まず、雨音と共に、朝まで洞窟内に響き続けた。
――――――――――――――――――――
嵐の海を船で移動し、入れない入り江は泳いで渡り、食事は魚や果樹を取って食べ、崖があれば登り、谷はロープで降り、空振りならば次の島へ向かう。
そんなサバイバルも十日が過ぎた頃、少年達の冒険は、遂に実を結ぶ。苦労して辿り着いた無人島の一つで、待望の幻獣を見付け出したのだ。
幻獣は、高い崖の中腹にある、裂け目のような洞窟に潜んでいた。下からも上からも見えないこの場所を見つけたのも、殆ど二人の勘だった。
茶色と灰色の体毛をした幻獣は、黄色い瞳と嘴のある頭部、大きな二対の翼、鉤爪のある前足と猫科を思わせる後ろ足を持ち、丁度、空想上の生き物、グリフォンを思わせた。
ライオンのように大きな身体をしているが、少年の印象に一番強く残ったのは、エジプトの壁画などで見るアイシャドウを描いたような、黒い毛で縁取られた鋭い目だ。
幻獣は、そんな特徴的な目を少年達に向けている。
「私に何か用か? ……ニンゲン……!」
幻獣は人語を扱えた。
少年は益々、胸が躍る。
「ずっと幻獣に会いたかった」
少年が名乗る。
「僕は
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