第1話 蛟龍〜水の拳〜 第二十節
「いったいどこまで行くんだ」
福知山城公園を通り過ぎ、前を歩き続ける亜美に那美が問う。
「もうじき着きますわ〜」
豊かな髪量の縦ロールヘアを揺らしながら歩いて行く亜美は妙に嬉しそうだ。
那美に格ゲー勝負で勝った事が余程嬉しいのだろう。
それからしばらく歩いて行くと、亜美はとある雑居ビルの前で立ち止まった。
「着きましたわ、コチラがわたくしオススメの中華料理店、『パオパオ』ですわ!!」
大袈裟な手振りと共に亜美が紹介したのは、一軒の飾り気の無い小さな中華料理店だった。
看板には『中国料理 パオパオ』と手描きで書かれている。
「それでは参りましょう……
中国語で挨拶しながら店内に入る亜美。常連らしい。
「勝利の宴、なんて大仰に言っていた割にどんな高級店かと思ったらやけに慎ましい店じゃないか……」
などとブツブツ呟く那美に続いて照真も入店する。
炒め物を作るジャーッジャーッ、と言う音と共に美味しそうな匂いが漂って来る。
店内は、店外と同様、内装には凝っておらず、右手に厨房とカウンター席があり、左手にテーブル席がある。
昼過ぎの時刻ではあるが、店内に数名お客さんが居る所を見ると、休憩時間ではなく営業時間に間に合ったようだ。
その中の奥のテーブル席に亜美は進むと、奥側の席に着き、那美と照真を手招きする。
二人が席に着くと店員のお姉さんがやって来て、お冷とおしぼりを人数分置いて、
「何にいたしましょう?」と訊く。
「わたくしは五目そばと餃子を、貴女方は?」
亜美が注文をし、那美と照真にも尋ねる。
「私たちはさっき食べたから…」
と照真が苦笑しながら言うと、
「あと餃子を2人前、お願い致しますわ」
と亜美がお姉さんに言う。
お姉さんはかしこまりました、と言うと、厨房の親父さんにオーダーを通す。
親父さんはアイヨー、と答える。中国語みたいな訛りだ。
「おい竜王院」
抗議しようとする那美をチッチッチ、と指を振って制する亜美。
「文句は食べてから
「むぅ……」
黙らされて頬を膨らます那美。かわいい。
店内にはエアコンが効いていて涼しい風が吹いて来る。店の入口近くに設置してあるTVは野球中継を映していた。
そんな店内の様子を眺めつつ、しばらく経つと、五目そばと3皿の餃子が運ばれて来た、来たのだが……。
「餃子、デカッッッ!!」
目の前に亜美が置いた皿を見て照真が驚く。
普通の餃子の2,5倍はありそうな餃子が5つ、楕円形の皿の上からはみ出しそうに並んでいる。
那美も自分の前に置かれた餃子を見て目を丸くしている。
「フフフ……しかもただ大きいだけではありませんのよ……さぁ、頂きましょう」
いただきます、と手を合わせて五目そばを啜る亜美。
那美と照真もいただきます、と割り箸を割り、餃子をタレに浸けて、口に入れる。
「!!!!!美味しい!!!!!」
照真が3分の1程囓ってあまりの美味しさに驚く。
「ウチでもお母さんが餃子作るの得意で、美味しい餃子作ってくれるんだけど、それとは全く違う、でもメチャメチャ美味しい餃子だよ!」
その明るい照真の言葉を聞いた親父さんはちょっと顔が赤くなった気がする。店員のお姉さんもニコニコ笑っている。
「確かにこれは美味しいな……皮が厚めだがモッチリ軟らかくて、だがしっかり焼き目が香ばしくて、粗目に挽いてある挽き肉が使われている餡は肉汁をタップリ含んでジューシーだ……」
那美も一口で虜になったみたいで、ほうっ、と満足の溜め息をつく仕草がやけに艶めかしい。
そんな二人の様子を見た亜美は、上機嫌になり、
「そうでしょう、そうでしょう。お二方をお連れして大正解でしたわ」
と柔らかな笑顔で言うと、五目そばを啜った。
そうして和やかな食事の時間が過ぎ、亜美は席を立つと、伝票を持っていき、支払いを済ませる。
五目そばも餃子もボリュームたっぷりだったにも関わらず、値段は一般的なラーメンと餃子と変わらない値段であった。
「それでは御馳走様でしたわ、
振り返りながら手を振り、亜美は店外へ出る。それに続いて那美と照真も店外へ出る。
「ありがとうございました〜」
親父さんが手を振り、店員のお姉さんがニコニコと見送る。
「餃子美味しかったね〜、でも良いの?竜王院さんが払ってくれたけど……」
照真が尋ねる。
「構いませんわ。本日はわたくしが初めて御槌那美に勝利した記念日ですもの。偶然だったとは言え、出会えて良かったですわ」
そう言い、オホホホホ、と笑う。
それを見た那美は、
「竜王院、食事の代金は私に出させてくれ」
と言った。
「………」
その那美の言葉に意外そうな表情をする亜美。
「せっかく初めて勝てた記念日なんだ、御祝儀って程でも無いが食事代くらいは出すよ」
と言い、財布から代金分を出して亜美に握らせた。
「そ、そこまで言うのでしたら頂きますわ……正直お小遣いもそんなにありませんし……」
那美からお金を受け取りながら頬を紅く染めて言う亜美。
後半は小声になってしまう。
「仲良しって良いね……」
そんな二人のやり取りを生暖かい表情で見守る照真。
幼い頃からずっと繰り返して来たようなやり取りなんだろうな、と思う。
「「別に仲良く無い!」ですわ!」
とまたもハモる那美と亜美。とても仲良しである。
道端のポプラ並木を午後の日射しが明るく照らす。
照真は、昨日までは色々有ったが、今日は市内に来て本当に良かったな、と思った。
「そうだ、竜王院さん、あなたの事、亜美ちゃん、って呼ばせてもらっても良いかな?」
照真が先を歩く亜美に聞く。
「亜美ちゃん……まぁ、よろしくてよ、でしたらわたくしも貴女を照真さん、と呼びますわ」
素直にそう答えた亜美の言葉に、自分の名前を覚えててくれたのが嬉しかった照真は、
「うん!よろしくね、亜美ちゃん!!」
と満面の笑みで言った。
「じゃあ私もお前の事を亜美ちゃんって呼んでも……」
二人のやり取りを見て那美がそう言うと、亜美はげんなりしたような嫌そうな顔になり、
「貴女がわたくしをそう呼びたいのでしたら、格闘ゲームでの勝負に勝ってからにして頂きますわっ」
と言い放つ。
「なんだよ!!照真とはえらく態度が違うじゃないか!!」
そう言われ亜美に食ってかかる那美。
だが本気では無いのは照真にも解った。
「あはは……ところで、亜美ちゃん、今日はどうやって来たの?」
照真が亜美に尋ねる。
「わたくしですか?バスで来ましたわ」
と答える亜美。
とは言え、朝晩の通勤通学時間以外は極端に本数が少なく、一時間に一本だけで、夜には8時が最終便となってしまう。
更に土日祝日には2時間に一本まで減ってしまっていた。
つまり亜美は駅前に着いてバスを待つと、最大2時間は待たされる事になってしまうのだ。ド田舎恐るべしである。
「そっか……あの、もし亜美ちゃんが良かったらなんだけど、ウチの車に乗って帰らない?」
亜美が長時間待たされる事になるかも知れないのを気の毒に思った照真はそう持ちかける。
「あら!よろしいんですの!?それではお言葉に甘えさせて頂きますわ……照真さんは優しい方なんですのね」
感激した亜美が照真を褒める。その様子を見ている那美も誇らしげな表情になる。
「いや〜、そんな、優しいだなんて」
褒められて照れる照真。
そんなこんなで福知山駅前まで歩いて来た三人は、横断歩道で道の向かいに渡ると、照真が腕時計を見て言った。
「今で3時半を過ぎた所かぁ……5時前くらいまでちょっと買い物でもして時間つぶそうかな」
その言葉に亜美が、
「でしたら、さとうの裏通りにあるカメレオンクラブにでも参りましょうか」
と言った。
「カメレオンクラブ?何だそれは」
那美が聞く。
「ファミコンショップですわ。って、貴女はゲーム自体なさらないから知らなくても無理はありませんわね」
と、亜美は言いつつ先に立って歩き始めた。
その後ろを那美と照真は付いていく。
土曜日の夕方の駅前通りは多数の買い物客や、遊びに来ている老若男女の通行人で賑わっている。
それらに混じって三人は『ショッピングセンターさとう』の裏手に差し掛かった。
するといきなり、若い男たちの五人組が声を掛けて来た。
「なぁなぁ自分ら、これから何処か遊びに行くん?」
そう亜美に声を掛けて来たのはパーマを掛けたニキビ面の男で、大学生位の年に見える。
「……なんですの?貴方がたは」
露骨に嫌そうな声で亜美が言うと、
「なんですの?だってよ、お嬢様じゃね、この子!」
と仲間と共にゲラゲラ笑い出す。
「俺たちこれから車で
頭に剃り込みを入れたアロハシャツの男が照真の腕を掴みながら言う。
「イヤッ……離して下さい……!」
照真がその手を振り払おうとする。
その男の振る舞いを見た那美はみるみる険しい表情になると、男の脇腹に中段突きでも叩き込んでやろう、と拳を握りしめる。
次の瞬間、
「オァチャァァァァァァァァ!!!!!」
ドガッッッッ!!
何者かがアロハシャツの男の頭に飛び蹴りを喰らわして来た。
「ガハッ!!」
吹っ飛ばされるアロハ男。
「なんじゃあ!!テメェは!!!」
仲間のスカジャンを着た男が
その言葉に、飛び蹴りを喰らわした人物……ショートカットの少女が叫ぶ。
「悪党に名乗る名は無い!!だが、この
少女はそう言い放つと、テコンドーの型の一つであるコンヌンソギの構えをビシッ!!と決めた。
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