【完結済+六話】「ねぇ、知ってる?」
久坂裕介
第一話
あの頃、私、
去年の三月二十四日に、妻の
「最近、ちょっと調子が悪いの」と言って優子が市立病院へ行ったのは、おととしの九月上旬だった。
私は、そんな様子に全く気付かなかったので大丈夫、大したことは無い、薬をもらって二、三日休めば元気になるだろうと思っていた。
しかし病院へ行った優子は精密検査を受け、その結果が出る日、私は病院へ呼ばれた。
ひんやりとした診察室に入ると、白衣を着て白髪が目立つ初老の医師がいた。デスクトップのパソコンが置いてあるグレーの机の前の回転椅子に座っていた。
彼は自己紹介をした。
「奥さんの主治医の
私が早速
「あの、どうして私が呼ばれたんでしょうか?」と、たずねると
「本人には、言いにくいことだからです……」と主治医は答えた。
私は嫌な予感がしながらも、たずねた。
「え? それって、どういうことですか?」
「奥さんは、ガンです。それも末期のステージⅣです……」
「ちょっと待ってください、ガンってどこのガンですか?」
「すい臓です……」
私は信じられない、と思い、つい大きな声を出した。
「え? そんな?! 優子は年に一度の市の健康診断を受けていたんですよ!」
「残念ながら市の健康診断では、すい臓ガンは見つかりません。もともと、すい臓ガンを見つけるための検査は、していないはずです……」
私は、市の健康診断の項目を思い出して言った。
「確かに市の健康診断の検査は、肺ガン、胃ガン、大腸ガン、乳ガン、子宮頸ガンだと思いました……」
「はい。今回、血液検査、超音波検査とMRIによって発見されました」
「あの……、手術とか、できないんですか?」
「はい。先ほども言ったように、すでに末期ですので手術は不可能です。
考えられる治療法としては開腹手術を行い病巣付近に集中的に放射線を照射して、ガンの成長を遅らせる放射線療法と、様々な方法で免疫系を活性化させ、ガンの進行を抑える免疫療法ですが、どちらも根本的に治療することは不可能です」
私は、あせった。
「それじゃあ優子は、もう助からないんですか?!」
主治医は残念そうに答えた。
「はい、残念ながら。もって、あと半年だと思われます……」
私は、いちるの望みをかけ、たずねた。
「そんな、どうして優子が……。あ、そういえば、お義父さん、優子の父ですが、以前すい臓ガンになったんですが手術で切除して完全に治ったんですが?!」
「それは、運よく早期に発見できたからでしょう。繰り返しますが奥さんは、すでに末期ですので手術は不可能です。それにしても、そうですか……、お父さんも、すい臓ガンでしたか……」
「え? 何か関係があるんですか?」
「はい。割合としては高くありませんが家族に、すい臓ガンにかかった方がいますと、そのガンにかかるリスクが高くなるんです」
「そうですか……。では先生、優子は、どうしたらいいんでしょうか?」
主治医は冷静に答えた。
「先ほど言った治療に加えて痛みの緩和、消化器症状の緩和、栄養状態の改善などを行う支持療法を受けるのが最善と考えられます。しかし、もって……」
「半年、ですか……」
「はい、残念ながら……」
「分かりました。では治療と支持療法を、お願いします」
「ですが本人には、検査と療養だと伝えます」
「はい……」
そして優子は七カ月後に亡くなった。
予想はしていたが優子が亡くなって、私は生きがいを失った。私は、お笑いが好きで、今でもバラエティ番組を見て笑ったりする。うどんも好きで、週に一度は行きつけのうどん屋に行き食べ、美味いと思う。だが、それでもやはり満たされなかった。
テレビの女性アナウンサーの声が聞こえた。
「おはようございます。時刻は午前七時になりました。それでは六月十七日、今朝のニュースをお伝えします。
昨年の自殺者数は二万一千七人で前年に比べ七十四人、率にして〇、七%減少しました。
しかし二十歳代、四十歳代及び五十歳代の自殺者が増加したため、政府は新たな対策を検討し始めました……」
それでも私は自殺する気には、ならなかった。優子が亡くなったことが理由で自殺をしたらそれは間接的に優子が私を殺したことになる、そんなことを優子が望むはずが無い、そう考えたからだ。
だから私は優子がいなくなったこの世界で、取りあえず生きていくことにした。
私はリビングで、インスタントのみそ汁をすすり、のりと目玉焼きをおかずに朝食を取った。
優子は料理が上手かった。だから朝食のみそ汁もちゃんとダシをとっていて美味しかったし、私が好きなニンジンの漬物も毎日ついた。
少し物足りない朝食を済ませるとタバコを一本、吸った。私は付き合い程度にしか酒を飲まないので、代わりにタバコを吸った。
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