失意の冒険者
ちきびー
プロローグ
―アレウス君君は退学だ
―聞いたか…アレウスの話…ほんと最低だな
―アレウスあんた自分がなにしたかわかってるの!!ほんと最低!!
―アレウス君、君がそんな人だとは思わなかったよ…これ以上関わらないでくれるかな
―アレウス貴様!なんてことを言うんだ!もうこの家から出ていけ!
―アレウスあなたは優しい子だと思っていたのに…あんたなんか生むんじゃなかった…
なぜ俺なんだ
なぜ誰も俺の話を聞かない
なぜ俺の事を見ようとしない
なぜそんな奴の話を信じる
なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ
「ギェア」
目の前のゴブリンの断末魔が聞こえ首と胴体が離れる。
返り血などは気にせず、納品するための部位を腰に刺さった短刀で切り離していく。
「今日はもう少し奥に進んでみるか…」
取った部位をしまい森の奥へと進む。
アレウスのいる場所【ガフトフォレスト】は現在アレウスの住む町【ガフト】の南側に位置している。
この森に生息するモンスターは、初心者冒険者でも対処が難しくないモンスターばかりが目撃されているため、駆け出し冒険者は主にこの森の依頼をこなすことが多い。それはアレウスも例外ではない。
「ん?」
気づくとかなり森の奥へと来ていたのがわかる。
それと、普段とは違う森の雰囲気。あたりからはとてつもなく血の匂いが充満していた。
普段初心者でも依頼をこなせると言われている森の姿はここにはなかった。
「グガァ」
獣の声が聞こえたと思いその方向に目を向けると、一匹の漆黒の毛皮をまとった狼が森のモンスターたちを蹂躙していた。
「あれはロイヤルウルフ!?いや、毛の色も大きさも違う…」
この森に生息しているロイヤルウルフの毛は灰色、大きさも体長150㎝くらいだろう。
しかし目の前のモンスターはゆうに体長三メートルは超えている。
「(それに、同じロイヤルウルフも襲ってる…)」
普通ロイヤルウルフは群れで生活している。
仲間割れしているということは聞いたことがなかった。
「(あれは…オークも襲っているのか…)」
オークはこの森の生態系の頂点に位置しているモンスター、普段は森の最奥にしか生息していない。
それが、森の中部にまでいるのだ、その異常性は言うまでもない。
「(ヤバイ…)」
本能がこのモンスターはやばいと警告している。
このモンスターに見つかれば必ずほかのモンスターたちと同じ道をたどると。
しかしあまりの大きさと目の前で繰り広げられるその異様な光景
「(動け!動け!動け!)」
いくら他のモンスターに意識を向けていた狼といえど、その場に他の生き物の気配がしたらそちらに意識が向くのが必然。
「グルルルル」
「(見つかった!?)」
その刹那、狼が襲い掛かってくる。
いくら日頃から森でモンスターを相手しているとはいえ、それはロイヤルウルフやゴブリンといった下級のモンスター達である。
アリウスは狼が動く瞬間咄嗟に左へ飛び込み、その攻撃を逃れようとするが、オークをも凌駕する戦闘能力をもった狼の攻撃を、無事回避できる能力は備わっていなかった。
ザシュ
その狼の爪が、避けきれなかったアリウスの右足を一撃で再起不能にした。
攻撃を受けながらもなんとかこの場を逃れようとすぐさま立ち上がる。
右足からはとめどなく血が流れ、激しい痛みがアリウスを襲っていた。
すぐにでも止血をしなくてはならない状況だが、アリウスは回復呪文を使えない。仮に使えたとしても使っている時間はなかった。
その狼の尻尾が立ち上がった瞬間眼前に迫っていたのだ。
ドカッ
「ぐはっ」
尻尾による攻撃はアリウスの胸に直撃、そのまま数メートルの距離を吹き飛ばされた。
ふぅ…ふぅ…
「(息が…うまく吸えない…、骨も何本も折れてる…)」
尻尾による攻撃でアリウスは息を吸うのがやっと、その呼吸ですら激痛を伴う。
もはや起き上がることもできないアリウスに抵抗する余力はなかった。
「(もう無理だな…)」
アリウスはすでに死を覚悟した、ただでさえ相手にならない狼を前に起き上がることもできないのだ、無理もないだろう。
「グルルルルァ」
狼は捕食するために、動かなくなったアリウスに近づく。
「(クソが…やっとまともに生活できるようになるかと思ったらこれだ…、俺の環境はことごとく俺を貶めようとする。裏切られ裏切られ最後には犬の餌…俺が何ををした…)」
「(その目が嫌いだ…人を何とも思ってないあいつらと同じ目だ…そんな目で俺を見るな!)」
アリウスは最後の力を振り絞り、眼前に迫った狼の目に向けて短剣を突き刺した
「グルラアアアア」
狼は目を失った激痛に数歩後ろによろける。
「(ざまぁ見やがれ)」
狼は物の数秒で正気に戻り片目でアリウスをとらえる、目には片目を失った怒りが見える。そして、その大きな口を開きアリウスを捕食
「(全員地獄に落ちろ…)」
ズバッ
しなかった
「(ん?)」
アリウスは何が起きたかわからなかった、さっきまで確かに狼の口が眼前に迫っていたのは覚えている。それなのに一向に食べられる気配がないのだ。
ドサッ
何かが落ちる音が近くで聞こえる。恐る恐る目を開けるとそこには先ほどの狼の頭が胴体から切り離されていた。
「(何が起こった!?)」
そして、その狼の近くに一人の人間がたたずんでいるのがかすかに見える。
「(あいつがやったのか…)」
しかし、アリウスはもう目を開けているのがやっとの状態であり、焦点の合わない目を必死に動かすがその人物が誰なのかわからないまま意識を手放した。
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