おせっかいオヤジ

簪ぴあの

第1話

 戦いすんで日が暮れて……

美沙を出産してからというもの、私の日常は戦場だ。そう言えば、退職した会社の社訓が「常在戦場」だったな。

 甘かった。一足はやく子育て経験をしている同級生に聞いた話では、おっぱい(母乳)さえ飲ませたら、たいがいのことは何とかなるらしかった。嘘だ。そんなことで赤ん坊は黙ってくれない。まず、私は母乳が出ない。なぜ?どうして?出産したら当たり前のように母乳が出ると思っていた私がばかだった。

 おむつをかえて、手間暇かけて調乳したミルクをしっかり飲ませても駄目な時は駄目なのだ。そもそも、美沙は人一倍、イラチで癇癪もちなのだろうか。いやいや、ウチの子に限ってそんなことはありえない。

 でも、今日も美沙はご機嫌ななめ。仕方なく抱っこする。抱いているといい子で大人しいんだな。だけど、夕ご飯の支度どうするよ。両手、完全にふさがってんだけど。

 落ち着いたところで、美沙をベビーベッドに寝かせて、ベッドの柵に取り付けたオルゴールを鳴らす。音楽にあわせてクマさんやウサギさんが回ってくれてるけど、こんなごまかし、いつまで通用するだろうか。

 ベッドを回転させて、美沙の目を見るようにする。調理はできるだけ電子レンジを使う。あとはフライパンにアルミホイルを引いて焼き魚。洗い物は極力減らす。スマホが鳴る。残念ながら、いやいつものことだが、夫の帰りは今日も遅くなるようだ。ということは美沙のお風呂の準備だ。機嫌のいいうちにバスタブを洗い、お湯をはる。タオル、美沙の着替を準備。

 自分の体をざっと洗い、美沙を抱えてお風呂に入れて、自分は濡れたまま、美沙を拭いてパジャマを着せる。それから、自分も体を拭いて服を着る。母乳が出ないので湯冷ましを飲ませる。本当はミルクを飲ます方がいいらしいけど、作っておくのを忘れてた。

 このあと、意識がとんで気がついたら……声がする。姿は見えないが、でも、聞き覚えのある声…

「美沙ちゅあ〜ん。いい娘でちゅねえ〜」

美沙は機嫌よく、アーとかウーとかしゃべっている。声の主は……

「オヤジ!あんた何やってんのよ!」

私は大声を出した。

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