第3話

「この上の部屋で寝かされていたの?」

私は恐る恐る聞いてみた。曾祖母が嫌なことを思い出したらどうしよう。聞いてよかったのか悪かったのか。でも思いのほか、曾祖母は穏やかな顔だ。

「そうなんだよ。私、しょっちゅう、倒れてなあ。みんな野良仕事が忙しいから一人で寝かされて。よく窓から樫の木を見ていて。」

「寂しかったでしょう?」

私が聞くと、曾祖母は首をふった。

「いいや。征男さんが来てくれたから。樫の木を登って、二階の部屋の窓から入って来てくれてね。『大丈夫か、寂しくないか。』って聞いてくれた。時々、どこでどうしたかわからなかったけれど、食べるものも持ってきてくれて。それが嬉しくて。」

 曾祖母は嬉しそうに笑っている。

「家風かねえ、この家はみんなきつい人ばっかりだったけど、征男さんは私に優しくしてくれた。みんなに内緒で。かげでこっそり。」

「じゃあ、表立ってかばってくれたわけじゃないんだ。」

私が、思わず口を尖らせると、曾祖母はふふっと笑った。

「そんなことをしたら、後で私がよけい、いじめられるからだよ。特に姑さんと小姑の勝代さんが意地悪でね、一足先に帰って食事の支度をしているところに鉢合わせをすると、『役立たずの嫁に何をしてやるんだ。』って言われるから、征男さん、樫の木に登って二階に来てくれたんだよ。」

 曾祖父のことを何と情けない奴と言いたいところだけれど、曾祖母の幸せな思い出をぶち壊すわけにはいかない。

「わかった。だから樫の木を切ったらだめなんだね。よ〜く、征史にいちゃんに言ってあげる。」

私がそう言うと、曾祖母は納得したのか疲れたのか、うとうとし始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る