第2話
「征男さん…まだかねえ…」
曾祖母がつぶやいている。まるで恋人を待っているみたいだ。
「ねえ、お茶飲もうよ。」
私が声をかけても、曾祖母は相変わらず樫の木を見ている。
征男は確か曾祖父の名前だ。曾祖母は亡き夫の名前をよく口にする。今では考えられないが、曾祖父と曾祖母の結婚は、双方の父親が決めたと聞いている。
でも、曾祖父の名前をつぶやいている曾祖母は優しい顔をしている。仲のいい夫婦だったのだろうか。
私は先にお茶を飲みながら、
「征男さん、早く来るといいねえ。」
と話しを合わせる。
「私はね、体が弱かったから、農家の嫁としてだめでねえ、嫁に来てから舅さん、姑さん、他のみんなに『役立たず』って言われてばかりでねえ。」
何度も聞いている話しだが、
「大変だったんだね。」
と慰める。
「私はいいんだよ。でも令子、あんたが私の体が弱いところが似てしまって…本当にごめんね。あんたは農家じゃなくて、お勤めしている人のところにお嫁に行けるように征男さんに頼んであげるからね。」
「心配してくれて、ありがとうね。」
いつもならここで話しが終わるのだが、今日は違った。
「昔はね、この部屋の上で、二階で寝かされてたんだ。」
「えっ?二階で?」
二階といっても、昔ながらの農家住宅で、天井が低くて、部屋としては使いにくいからと、今は物置き状態になっている。そんなところで曾祖母は寝かされていたというのだろうか。
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