優等生の俺なのに、幼馴染先生のらりほーボイスに耐えられない【G'sこえけん応募作】
佐波彗
第1話 美人先生と居眠り男子
俺はこの授業中、絶対に居眠りをしないと決めていた。
手強い睡魔は、現国の授業になると決まって俺を眠らせようとするのだ。
「――昨日の授業では、教科書の80ページまで進めた思いますが、前回学んだことをちゃんと覚えていますか?」
しっかりとしていながらも、ふんわりと優しく心地よい包容力が含まれている声が、教室に響いている。
現国担当の教師の名前は、
美人教師と評判で、生徒と年齢が近いこともあり、うちの学校で圧倒的な人気を誇っている。
いかにも有能そうな凛とした顔立ちに、艷やかな黒髪は腰に届くほどで、白い肌は眩しく、そして大きな胸は特に人目を引いた。
白いシャツに黒いスーツ、同じく黒いタイトなスカートを履いていて、脚はタイツで覆われている。
「では、80ページの最後の段落から81ページまでを……今日は、鈴木くんにお願いしましょう。鈴木くん、立って読んでください」
「あっ、はい」
先生に見惚れていたわけではないが、突然の指名に慌ててしまう。
俺は立ち上がり、言われた範囲の朗読を終える。
「――ありがとう。この範囲は一番重要なところだから、丁寧に読んでくれて助かりました。鈴木くんは声が良いですね」
ただ教科書を読んだだけで褒められるとは、得をした気分だ。
それに、立って座ってという動作をして体に刺激を与えられたから、今日の授業は眠ることなく乗り切れるはず。
なんて期待したものの。
――キーンコーンカーンコーン。
気づいた時には、授業の終わりを告げる鐘の音が鳴っていて、俺は机に突っ伏した状態だった。
授業を受けた記憶が飛んでいる。
やれやれ、今日もダメだったか。
どういうわけか俺は、水野先生の授業だけは毎回居眠りをしてしまうのだ。
優等生であることが唯一の取り柄な俺にとって、授業中の居眠りなんてあってはならないこと。
どうにかしたいんだけどなぁ……そう思いながら顔を上げた時だ。
「――鈴木くん、鈴木
目の前に、俺を起こそうと名前を呼んでいたらしい、水野先生の顔があった。
本人は気にしている童顔だけれど、俺は愛嬌があるし親しみやすくていいと思っている。
だが、今はキレ気味だ。
「な、なんですか?」
決意に背いた罪悪感と、突然目の前に整った顔立ちが現れたことで、顔が熱くなりそうだ。
「今日もまた、居眠りをしてましたよね? 鈴木くんは、わたしの授業で起きていた試しがないように思うんですけど、なにか不満でもあるんですか?」
「不満なんてないです。昼飯のせいでちょっと眠くなっただけで、サボるつもりでは……」
「そんなことを言って、私の授業になると毎回ですよ?」
「それは……」
言い訳できなかった。
俺だって、水野先生の授業は真面目に受けたいのである。
それでも、どうしても眠くなってしまうのだ。
「鈴木くんは、帰宅部でしたよね?」
「あ、はい。運動も苦手だし、特にこれといって趣味もないんで。……あと、集団行動もわりと苦手です」
「つまりヒマってことでいいですね?」
「そうなりますかねぇ……」
「だったら今日の放課後、東校舎1階の空き教室まで来てください」
「……はい」
水野先生は眉を吊り上げ、有無を言わさない調子だったから、そう返事をするしかない。
呼び出しを食らってしまった。
これは……お説教されてしまうのだろうか。
そんな不安をよそに、水野先生は突然心配そうな顔をしてみせる。
「……空き教室の場所は職員室のちょうど真下の部屋。わかりますよね? 迷わない? 平気? なんだったら、帰りのホームルームが終わったら教室に迎えに来ますから一緒に行ってもいいんですけど?」
俺にだけ聞こえる声で、早口で言ってきた。
少し前までの凛とした表情はどこへやら。
ただ、俺は、水野先生の本当の姿はこちら側だと知っている。
「いえ、教室の場所はちゃんと把握してるんで大丈夫です」
「そ、そう? ……よかったぁ」
一瞬、それまでと別人になってしまったかのような気の抜けた姿を見せた水野先生だが、俺から離れて背筋を伸ばした時には人気教師としての顔を取り戻していた。
「では、待ってますから。遅刻は厳禁ですよ?」
「わかってますよ」
「……すっぽかさないでくださいね?」
「ちゃんと行きますって」
「あの教室、人通りないし電気点いてても暗いし、昔は理科室だったらしくてその時に置いてあった本当の人間の骨を使ったって噂の骨格標本が教室を覗きにやってくるなんてなんて怪談があるので、放課後に一人でいるとすっごく怖いんですよねぇ……」
「じゃあ別の教室にすればいいじゃないですか……」
「い、一度決めたことです。大人のわたしが生徒の大事な時間の一部を借りる約束をしたあとですから。撤回はできません!」
水野先生は両手を握りしめて、がんばるぞ、というポーズを示すと足早に去っていった。
「……あれでよくクールな美人教師っていうみんなからの評価を守っていられるよなぁ、『
昔からの顔馴染みである姉貴分の背中に向けて、俺はぽつりと呟くのだった。
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