オレは誰だ?逃げろ!逃げろ!逃げろ!戦え!戦え!戦え!

楠本恵士

第1話・何かから『逃げろ!』

 男は見知らぬ荒野の景色の中で──岩肌に背もたれた格好で座っていた。

(ここは、どこだ?オレは誰だ?)

 男は十字ラインが入った電子単眼モノアイで、自分の体を確認する。


 スプリングが付いていて自由に伸び縮みする、細い機械の手足。

 やや細いが強固な機械の体には、胸部に青い半球体のようなモノが埋め込まれていた。

 少し引っ込んだ半球は、金属の網で保護されている。

 手足は疾走するのと、岩の壁を登るのに適した構造になっていた。


(この姿はなんだ?)

 機械異体の男は、立ち上がって周囲を見回する。方位と座標が示される電子の目で見た世界は、こけが進化したような植物が岩に生えていた。

(植物をつかんで、登れそうな岩もあるな)


 その時──視界の座標に近づいてくる赤い光点が示された。

 光点の正体は、岩の向こう側で見えず正体もわからなかったが男は直感で『敵』だと察知した。

【逃げろ!】その言葉が指示されたように、男の脳内に浮かび、何もわからないまま機械の男は走り出す。


 崖をよじ登り、谷を飛び越え、荒野を走る。

(いったいオレは、何から逃げているんだ?)

 逃げる! 逃げる! 逃げる!


 逃げ続けていた男は、ついに敵と遭遇した。

 岩の上から、男の前に飛び降りてきた敵は、人型をした毛むくじゃらの怪物だった。

 胸部にはベストのような防具を付けていて、男の胸にあるのと同じ、半球があった……半球の色は赤だった。

 巨大な戦斧アックスを持った怪物が、唸りのような声を発した。

「≧≦≠?♂?♀?〓%?∵」

 意味があるようにも、無いようにも聞こえる声を発した怪物は、巨大な戦斧を振り上げると男に向かって掛けて振り下ろす。

 逃げ場はない。

(わけもわからずに、オレは死ぬのか!)

 男がそう思った時──飛んできた一条の閃光が、怪物の足元の地面をえぐる。


 怪物は一目散に逃げていった。

 安堵する男に向かって、岩の上から声が聞こえてきた。

「大丈夫か? あんた?」

 見上げると、自分と同じ姿をした単眼モノアイの機械人が。

 ショットガンのような武器を手に立っていた。

 岩の上から飛び降りてきた、機械人の胸部に埋め込まれた半球体は青い。

 武器を持った同種の機械人が、男に向かって手を差し出しながら言った。

「立てるか?」


 男を助けた機械人は、歩きながら男と会話をする。

「そうか、あんたも自分が誰なのか……ここがどこなのか知らないのか……わたしと同じだな」

「すまない、助けてもらったのに何もわからないんだ」

「気にするな、今まで出会った仲間の奴らも全員、自分が誰なのか、ここはどこなのか知らなかった」


 風が吹き抜ける岩と赤土の荒野を並列で歩く男は、前方を歩く背中にショットガンタイプの武器を背負った機械人の男に質問する。


「その武器は、どこから?」

「これか……【アイテムボックス】で見つけた」

「【アイテムボックス】?」


「たまに、いろいろな場所で発見する……洞窟とかで遺跡とか……条件はまだ、わからないが個別に開けられて使えるモノは決まっているらしい……並んでいたボックスのもう一個の方は、どうやっても開かなかった」


 男は獣人についても聞いてみた。

「あの、ケダモノみたいな生物は?」

「わたしは『獣人』と呼んでいる……この世界には機械人と獣人の二種類しかいないみたいだ、小動物みたいなのはいるが」

「獣人は機械人の敵なのか?」

「敵である時もあれば、味方である時もある……今日の友は明日の敵、今日の敵は明日の友」

「???」


 立ち止まって振り向いた機械人が言った。

「わたしも、いつ敵に変わるかも知れないから、用心した方がいいぞ」

 男の単眼視界の一方向から、猛スピードで接近してくる赤い二つの光点が映る。


 機械人が言った。

「敵だ! 逃げるぞ!」

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