太陽は誰のために

なーなー

叶の日常

 今よりちょっとだけ未来の日本。

 鳴り響く目覚まし時計。朝ご飯の匂い。今日も薄暗い朝が来た。

 今日は目玉焼きか…

「叶(かな)、何時だと思ってんの!悟(さとる)も葵(あおい)もご飯食べたよ!起きなさい!!!」

「何時って7時?」

「お母さんはそーゆーこと聞いてんじゃないの!遅刻するから早く起きな!」

「へーい…」

仕方ない。起きよう。

 私の名前は高野叶。平々凡々な高校1年生。家族はさっき私を起こした母の他に

「おはよー、姉ちゃん。お先〜」「叶ちゃんバイバーイ!」

「おはよ…いってら…」

このバドミントンのラケット持ってる方が弟の悟(中2)。隣のランドセル背負ってる方は従兄弟の葵(小2)。

「お、叶は今日も重役だな!」

「そのために超近場の高校受けたんだもーん」

メガネを磨いてるのが父。

「早起きは三文の徳って言うぞ!なあくるみ。」

ひたすら拳をしゃぶってる従姉妹のくるみ(1歳)と彼女を抱っこしてる祖父に

「叶、今日のお祖父、唐揚げだからね。」

「ありがとう、おばあちゃん。」

お弁当を作ってくれる祖母。

「叶起きたか。お、そろそろ出ないとな。くるみー、保育園行くぞ。」

「おはよ、叔父さん。行ってらっしゃい。」

くるみを保育園に送って行こうとしてる叔父と

「今日先生に電気のカード出してね。連絡帳の袋に入ってる。叶おはよ。」

「おはよ。叔母さん」

荷物の確認をする叔母。その様子を私は目玉焼きご飯を食べながら眺める。

 3世帯、3世代。10人家族。

 現在政府は世帯数を減らすため国民に「特別な事情(家庭内暴力や虐待等生命が危険にさらされる可能性がある事情)がない場合は3世代以上の同居を推奨」している。

 我が家は同じ県内に住む祖父母の世帯、両親と私と弟の世帯、叔父夫婦の世帯で同居している。正直人が多くて疲れることもある。でもいつも家に大人がいるのは安心できる。

 ちなみに同居する世帯数が多ければ多いほど税金が安くなる仕組みだ。だからおばあちゃんとお母さんはあんまり仲良くないけど同居してる。いつか我慢できないくらいお互いが嫌いになったらうちはどうなるんだろう。

「叶!ほら電気のカード!先生にちゃんと出してね。」

「うん。」

電気のカード。自転車の形をした発電機にカードを差し込んで必死に漕ぐと電気が貯まる。学校、病院等大量の電気が消費される施設を利用する際に提出が義務付けられる。

 なぜこんなカードが必要なのか。

 それはこの空に浮かぶ人口太陽ができる前にさかのぼる。




「臨時ニュースです。気象庁は太陽の燃え尽きに備え、宇宙空間に人口の太陽を打ち上げる計画を発表しました。」

普段は淡々と原稿を読むアナウンサーが珍しく興奮気味だったのでよく覚えている。

 私は夫と自分の夕食を配膳していた。なんだか現実味のない話だった。でも20年くらい前から太陽が半分燃え尽きたとか話題になっていた…気はする。

「初ー、帰ったよ。」

「お帰り。ねえニュース見た?」

「人口の太陽だっけ?スマホで見て驚いたよ。」

発表があった日は夫と2人でそんな話をした。

 実際人口太陽が打ち上げられる時には発表があった時お腹にいた長男の大悟(だいご)が生まれていた。だからもう40年くらい前になる。

 人口太陽の光はこれまであった太陽と比べるとやや弱いらしい。足りない分は国民も自家発電して補うそうだ。私は話を半分に聞いていたせいか打ち上げまで知らなかった。

 大悟は学校を出た後、友達の紹介で知り合った幸(ゆき)さんと結婚した。叶と悟は2人の間に生まれた私の孫だ。


「不思議だねえ。お父さんが生まれた頃はぎりぎり太陽があったのにね。」

「おばあちゃんまたそれ?しょうがないじゃん、もうないんだから…。行ってきまーす。」

「はーい、行ってらっしゃい。」

太陽の分まで電気でカバーしないといけないから私達にとって電気はお金の次くらいに価値がある。電気を作るために昨日も足がぱんぱんになるまでペダルを漕いだけど遅刻しそうだから自転車を早漕ぎする。

「太陽があった頃は電動自転車なんてあってさあ、電気で走るんだ。あれは楽らしいな。じいちゃんのお母さんが乗ってたよ。」

おじいちゃんのお母さん、いいなあ…。ひ孫もその電動自転車で学校行きたっかったよ…。

 家から坂道を10分上り続けたら学校がある。1年5組21番。今日も朝礼のチャイム5分前に無事着席。

「かな〜、おはよー!」

「おはよー!ももっち〜」

「ねえねえ、今日学校終わったらクレープ食べに行こ!」

「行く行く!!しーちゃんとかんちゃんも誘っていい?」

「いいじゃん〜誘うべ!」

「いえ〜い!!」

クラスに着く頃にはばっちり目が覚めて授業も始まってないのに放課後の約束をする。学校は楽しい。友達は優しい。

 12時になっても空は薄暗いままだ。昔は晴れとか快晴とか色々お天気があったらしいが今多くの日は曇りか雨だ。

次の授業は理科。今日の単元は「天体の歴史」。

「えー、今はよく見えないことも多いんだけど60年くらい前の山奥ではこういう星が見えていました。じゃあDVD見るから電気お願いね。」

ラッキー。教室の電気消えるからうとうとしてもバレないんじゃない?

 私は電気を消す三浦くんの背中を見ながらまだ寝ようとしていた。でも寝れなかった。

虫の鳴き声っぽい音をバックに流した星空が見たことないくらい綺麗に見えたからだと思う。小学校でも中学校でも天体の単元はあったはずなのに今日のはなんでこんなに綺麗に見えたんだろう。

 

 楽に生活するにも太陽が必要。

 

 星が光るにも太陽が必要。

 

 丈夫な体を作るにも太陽が必要。

 

 私の毎日は「太陽があれば」でいっぱいだった。太陽って何なんだろう。

 私はあの綺麗な星空を直に見ることが出来ないんだろうか。


「お待たせしました。チョコチップパーティーのお客様〜」

「あ、私だ。ありがとうございます。」

代金を払いクレープを受け取る。

「かな、こっちこっち!」

「今行く〜」

「かんちゃんのバナナ?」

「そうそう、しーが桃だっけ?」

「ひと口食べたいな〜」

「ももっち共食い!!!どぞどぞ。」

「私のももは百だからセーフです〜。いただきまーす。」

「私、かなのチョコ食べたいな〜」

「いいよ〜」

「ありがとー!!」

きっと皆が食べてる果物だって太陽があればもっと甘くて美味しいんだと思う。

 「太陽があれば」私や友達はもっと将来に夢を見れるんじゃないか。将来に夢を見れないのは私が悪いんだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る