第5話 青の原(あおのはら)
もう子熊のバスはどれくらい走ったでしょうか。
セイジ君はとても沢山走ったと感じ、同時に少ししか走っていないとも感じていました。不思議なものです。
そして、セイジ君は疲れてしまったのか、眠っていたようです。
ふと窓の外を見ると、相変わらずの満天の星空でしたが、地面にはキラキラとした
その代わり、真っ青な草原がどこまでも続いていました。でも、どこか
セイジ君が目を
「あ、カッパがいる」
「本当だな」
じっと見ていたら、その青い草の上を、ぬいぐるみのような丸々と愛らしいキュウリ色のカッパが上手に平泳ぎで泳いでおりました。
「次はー、
そうして停留所に到着すると、バスの扉がプシューと開き、プシューと閉じます。
やがて、さっきのカッパがやってきて、セイジ君にお辞儀をした後、隣に座りました。
「ヘイ! カッパ君、今日も調子が良いみたいじゃないか」
白鳥さんの友達なのでしょうか。声を掛けました。
「うん、今日も絶好調だケロ」
カッパ君は元気よく返事をしました。
「こんばんは。ところで、君はここに来るのは初めてケロ?」
カッパ君は今度はセイジ君の目を見て話しました。
「こんばんは。うん、そう。初めてここに来たんだよ。それにしても……、ププッ、アハハハハ」
「急に笑い始めてどうしたんだケロ? 大丈夫ケロ?」
我慢できないと言った感じで笑い始めたセイジ君と、それを心配するカッパ君。
「だって、だってだって、君はカッパなのにケロケロ言うだなんて、まるでカエルみたいじゃないか。僕はそれがおかしくってたまらないんだ」
「カッパがケロケロ言ってはいけないと誰が決めたんだケロ? そしてケロケロ言うのがカエルだなんてことも、誰が決めたんだケロ?」
「それは……、うん、そうだよね。ごめんなさい」
セイジ君はカッパ君にとても失礼なことをしてしまったんじゃないかと思って、悲しい顔になって謝りました。
「そういうつもりで言ったんじゃないケロ。まぁ、とりあえずこれでも食べて元気を出してケロ」
そう言ってカッパ君は腰にぶら下げた
「お! カッパ君、ありがとうよ。大好きなんだよ、これ」
白鳥さんはそれをすぐに頬張って、あっという間に飲み込んでしまいました。
「あの、これって、なんですか?」
「これは外に生えてるあの青い草ケロ。とっても美味しいんだケロ」
セイジ君は外の青い草と聞いて、なんだか苦い味を想像してしまいます。
「坊主、この草、甘くておいしいんだぜ。食べてみろよ」
白鳥さんに勧められて、セイジ君は勇気を出して食べてみることにしました。
そして、プルプルと揺れる草の先っぽを口に入れ、思い切って噛んでみると、なんと
「美味しい。カッパ君、これは甘くて美味しいね」
セイジ君もぺろりとそれを平らげました。
「そうなんだケロ。あの青い草は甘くて美味しいんだケロ。でも、僕の仲間にもあげるんだけど、気味悪がって誰も食べてくれないんだケロ」
「それは残念だね」
「そう、残念なんだケロ。でも良いんだケロ。君みたいに美味しいって言う人と、たまに出会えるのが楽しいケロ」
「これってカッパ君しか
カッパ君は「うん」と
「この青い草は
「カッパ君はバカにされて悲しくないの?」
「少し悲しいケロ。でも、それ以上にこの青い草が大好きなんだケロ。だから楽しいケロ」
「おう! カッパ君、よくぞ言った。かっこいいぞ!」
「白鳥さん、照れるケロよー」
「それにしても、こいつは採るときにベトベトするのか。どうりでカッパ君から甘くておいしそうな匂いがするわけだぜ」
「ケロ!? 白鳥さん、僕は食べても美味しくないケロ!」
慌てて反対側の席に逃げるカッパ君に、白鳥は「ごめん。冗談だ」と謝りました。
その光景にセイジ君は幸せな気持ちになって、思わず笑ってしまいました。
「次は、
バスの車内に子熊の運転士の可愛らしい声が響きます。
「お、もう着いたのか。俺は次で降りるぜ」
「僕も次で降りるケロ」
どうやら白鳥さんとカッパ君とは、次の停留所でお別れのようです。
やがて真っ青な草原が見えなくなると、星空の下にはとても濃い
その
「さよならケロ」
「じゃあな、坊主。バスもなかなか楽しかったぜ」
2人は
セイジ君には、賑やかな外の橙色がとても眩しく見えました。
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