この世界に生まれて本当によかった

@futsall14

第1話 世界が滅亡しないのなら、自分をこの世から消そう

「もう、たくさんだ」

汗だくになりながら、ようやく追手を振り切った。

地上32階、ある高層ビルの屋上で残り一本しか無くなったタバコに火をつけ、ギズだらけの口内を中和をするように吹かしながら青年、中森友康は呟いた。

「やっぱり染みるな。まあ、こんな感覚も死ねばもう味わうこともねぇよなあ」

誰かに話しかけるように喋っているが、そこには中森以外誰もいない。

無精髭を生やし、伸び放題の髪の毛は路上生活者の風貌を思わせる。端正な顔立ちをしているが長年のトラブル続きで古傷が目立つ。線は細いが、他人を威圧するような鋭い目つきは身を細め、終始虚な目つきで絶望という単語がお似合いな風貌だ。

「もう全て終わらそう、全て決まっていたんだ。運命なんて偶然に思えて全て必然

なるべくしてこうなり、運命なんて変えられやしない。俺が死んだところで世の中どうこう変わるわけでもなければ悲しむのなんてたかだか数人だ。俺にとって人生などなんの意味のないもの。これからここから飛び降りるのもまた運命だったのかもしれないな」

吸い殻を地面に投げつけ、何かを決心するように立ち上がり、目の前の3mほどの柵

こえ、あと一歩で全てが終わるというところまできた。


地上32階からの下の景色を見渡すと、半グレのような集団が血眼になりながら中森の捜索を続けている。しかし中森にはそんなことどうでも良かった。その時、中森は過去を回想していた。

社会に希望を持ち、社会に裏切られ、人を信じ、人に裏切られ残ったものは絶望、無気力、敗北、孤独様々なマイナスの感情が青年を襲う。

残ったものは恐ろしいほどの虚無感とこの世の中に対する絶望感のみだった。

全てを投げ出す準備は整った。自分の命を消そう

空中を舞うように身を投げ出し、後は自分の身体が木端微塵になるのを待った。

中森は後悔など微塵もなかった。

これでやっと終われる。


ー15年前ー

桜が満開に咲き、夢と希望に溢れる出会いの季節。

まだできて1年も経ってない綺麗に整備された公園の片隅のベンチに二人の少年

「おい中森、お前は勝てない相手に何故そう何度も挑むんだよ。あいつは空手もやってて、将来格闘家かヤクザになるなんて巷で言われているやつだぞ。お前の無鉄砲さに俺もそろそろ限界だ」


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