第13話 緊急クエスト発生しました
薬師ギルドで色々手続きとかしていたら、もう夜だよ!!
冒険者ギルドに顔を出すと、一番込む時間帯に来ることになるとは。
とほほな気分である。
買取カウンターへ直行し、待つこと30分。
「次の人」
職員に呼ばれたので、意気揚々とギルドカードを渡した。
「スライム討伐の依頼です。スライム以外に狩ったモンスターのドロップ品も買い取って貰えますか?」
手渡したギルドカードの裏を見た職員が、何やら焦っている。
「えっ? は? ちょっ、ちょっと……お嬢ちゃんこっち来て」
何やら慌てた様子で買い取りカウンターから出て来た職員に誘導されて、私は何故か別室に通された。
一体何なんだ!? と思っていたら、討伐したモンスターが問題だったらしい。
数もさることながら、駆けだしの冒険者がソロで倒せるようなモンスターでないものを狩ってきたのが原因だった。
「スライム討伐10匹を受けているが、ウルフやホーンラビット、レッドボアも討伐しているよね? それもかなりの数」
何故分かったし!
嘘ついても意味はないのでコクリと頷けば、受付のお兄さんは手で顔を覆い大きなため息を吐いた。
「ワーウルフも、君が一人で倒したとギルド職員内では噂の的なんだよ。将来有望な新人が来たって。魔物討伐は常にあるし、遭遇したら狩るのは分かる。でも、これはやり過ぎだ。Fランクの登録したての子が、レッドボアまでポンポン狩られると他の冒険者の依頼が達成できなくなる。それに、全て買取するとなると大金になるし、何より素行の悪い輩に絡まれて翌日には死体になっている可能性もあるんだよ」
何か怖いことを言い出した。
乱獲すれば他に迷惑が掛かるのは分かる。
しかし、素行の悪い輩に絡まれて最悪死亡とか異世界怖い!
完全に死亡フラグが立つじゃないか。
「すみません。自重します。それより、何で私が狩ったものが分かるんですか?」
「最初に説明受けなかった? 討伐したら自動的にギルドカードに情報が載るって」
あー……そんなこと言われた気がする。
遠い目をしている私に、受付のお兄さんはハァとため息を一つ吐いた。
「これからは気を付けて下さいね」
「了解です。それで買取なんですが、ウルフの毛皮×53枚・スライムの核×89個・ホーンラビットの毛皮×25枚・ホーンラビットの肉×15個・レッドボアの毛皮×1枚・レッドボアの肉×1個・こん棒×68個・黄色の魔石(極小)×21個・青色の魔石(極小)×3個は買取って貰えるんでしょうか?」
もう隠す必要はないと思い開き直って聞いてみた。
「君は、アイテムバック持ちなんだったね。買取はさせて貰うよ。ウルフは金貨10枚と銀貨6枚、スライムの核は銅貨8枚と青銅貨9枚、ホーンラビットの皮は金貨1枚・銀貨2枚・肉は銀貨4枚と銅貨5枚、レッドボアの毛皮は状態が良いから金貨2枚だ。肉は金貨1枚だな。スライム討伐の代金が銀貨1枚。魔石は極小だから値段は下がるけど黄色は金貨1枚と銅貨5枚・青銅貨1枚だ。手数料2割貰うから金貨13枚・銀貨9枚・銅貨8枚・青銅貨4枚だ」
日本円で139,840円か。
命をかけている割には安い値段だ。
「それでお願いします」
「お金は銀行に預けるか?」
「金貨以外は、全部預けます」
「大丈夫か?」
まあ、大金を持ち歩くんだから心配になるわな。
アイテムボックスが無かったら預けている。
金貨は
生活費を確保する意味でも、元手がないとやっていけないのだ。
「大丈夫です。こう見えても強いですから」
隠密で大抵の輩からは逃げ切れる。
絡まれても最悪、ダミーの財布を渡せば済むことだ。
「くれぐれも気を付けて下さいね」
何度も念押ししてくる受付の兄ちゃんに、私はハイと良い子のお返事だけしておいた。
それが悪かったのか、ギルドを出てたら速攻で絡まれました。
人の忠告をちゃんと聞きましょうという教訓が頭をよぎったのは言うまでもない。
屈強な男が3人・ひょろい男。
か弱い女の子相手に往来でカツアゲするとは、流石異世界。
治安が悪い!
「ガキの癖にアイテムバッグ持ちとは、景気が良いねぇ。ちょっとばかし、俺らにもおすそ分けしてくれや」
ニヤニヤ笑う男共に、先程のお兄さんとのやり取りの伏線回収がされた。
緊急イベント発生に名前を付けるなら【素行の悪い冒険者に絡まれる!】だろう。
コマンドがあれば、こんな感じだろうか。
→にげる
たたかう
逃げられない!!
チラッとギルドの入り口を見るが、目が合った受付嬢や他の冒険者達はサッと目をそらしている。
ギルドを一歩でも外に出た時点で、全て自分で解決しなければならないのか。
遅かれ早かれ、
バッグに手を突っ込み、アイテムボックスからマイクを取り出し、目を反らした奴らに聞いた。
「目の前でカツアゲされているんですけど、これは撃退しても正当防衛になりますよね?」
硝子越しにコクコクと頷く受付嬢を見た後、マイクを仕舞ってゴブリンが落としたこん棒を取り出した。
出刃包丁だと過剰防衛になりかねない。
ゴキスプレーも-85℃を食らえば、最悪失明や凍傷になる可能性がある。
加えて、私の戦闘スタイルを見せるのも得策じゃない。
消去法で行くと、手持ちの武器で無難なのがこん棒だった。
「だそうですので、か弱い女の子(という年ではないが)から金品強奪するなら、それ相応の覚悟はありますよね?」
ポンポンとこん棒を掌で叩きながら、ザッと相手のレベルと職業を鑑定する。
レベル20前後で、剣士・拳士・
一番弱い奴から倒すのが定石。
というわけで、最初の獲物はひょろ男こと魔術師に定める。
「警告です。今すぐ投降して下さい。さもなくば、全員全治3ヵ月です」
3ヵ月で済めば良いけどね。
手加減なんて出来ないし、最悪死ななきゃ良い。
「誰に向かって言ってんだ? 俺たちはCランクのタイガーウルフだぜ。そんな棒切れで俺たちとやりあうつもりなのかよ。こりゃ傑作だ」
ギャハハハッと品のない笑い声が響いたのは数秒だけだった。
隠密を発動させ、一瞬の隙をついて
声を出すことも出来ず崩れ落ちる様を冷ややかな目で一瞥し、弱い順番にこん棒で昏倒させていく。
急所を理解していれば、攻撃を当たるだけで動きを阻害することも出来るし、気絶させるのも容易になる。
ものの数分で全員を伸したところで、布ガムテープを取り出し男の達の手足を拘束していく。
粘着力の強いガムテープなのでそう簡単には剥がせない。
冒険者ギルドに戻り、憲兵を呼んでもらうようにお願いした。
その時、私を見る目が怯えていたのは気にしない。
憲兵が到着して、大の男達が血を流して道端に転がっており、襲われた私はピンピンしているのを見て、どちらをしょっ引けば良いのか悩んでいる。
「そいつら、追剥集団です。襲って来たので返り討ちにしました」
「は、はぁ」
「冒険者ギルドに一部始終目撃していた人が沢山いるので、確認して下さい」
と付け加えると、憲兵の人はギルド内の人に私の証言が間違ってないか確認した。
私は軽くやり過ぎとお説教を受けて放免されました。
憲兵は、ガムテープでグルグル巻きにした男達を詰め所に引きずって行った。
日本でも事なかれ主義者は居るが、ここの冒険者どもはどんだけヘタレなんだ。
一悶着あり夜も更けたので帰ろうとしたら、厳ついおっさんに呼び止められた。
「タイガーウルフを1人で倒したってのは、お前さんかい?」
「そうですけど。もう遅いんで話は後日にして下さい」
だっさい中二病なチーム名は聞き飽きたと言わんばかりの私に、彼は肩を小さく竦めて言った。
「あれでも町では、数少ない高レベルのパーティなんだ。それを登録したての子供が瞬殺するとは誰も思わないだろう」
「ギルドを一歩出た時に絡まれて、誰も助けてくれませんでしたので自分で対処したまでです。死ななかっただけで有難いと思いやがれです」
こん棒じゃなく出刃包丁だったら死亡確定だ。
慈悲の心がなければ、即抹殺していた。
「あの程度が、Cランクって余程冒険者ギルドは人手不足なんですか? 小娘1人が伸せるくらいなんですから、ランクの基準を見直したらどうです。ギルドマスターさん」
おっさんを鑑定した時に称号欄にギルドマスターと表示されていたので、言ってみたら驚かれた。
「何で俺が、ギルドマスターって思った?」
「この中で一番強そうで偉そうだから」
事実レベルは68あるし、スキルも多く中でも片手斧11だ。
今の私じゃ絶対に勝てない。
「話戻しますけど、Fランクの新人が目の前でカツアゲに遭っても止めるどころか見て見ぬふりするギルドってどうなんですか? 説明時にギルド内での争いはご法度と伺いましたけど、ギルドの建物を出たら放置とか人として最低だし、犯罪に加担してますよね? その辺り改善するのが先じゃないんですか? 私、疲れているんでさようなら」
「ちょっと、待ってくれ」
後ろで引き留めるようなことを言っているが聞こえない。
夕方には自宅に帰るつもりだったのに、もう夜も更けてきている。月が高い。
自宅に帰ったら
また、服を汚したって。
時間差があるから、地球ではどれくらい時間が経っているだろう。
10日は過ぎているだろうか。
足早にギルドを去り、宿へ向かった。
隠密と索敵を発動させて最短ルートでだ。
これ以上絡まれるのも、ちょっかいを掛けられて時間を取られるのはごめんだ。
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